脳神経外科


脳梗塞の新薬「t-PA」

 脳梗塞は、脳の動脈が狭くなったり、心臓などから血栓(血液のかたまり)が流れて来て、脳の血管が詰まる病気です。脳細胞に栄養や酸素が送られないと細胞が死に、半身まひなどの後遺症や死亡につながります。
 脳梗塞にはこれまで根本的な治療がありませんでしたが、2005年10月に血栓を溶かす新薬「t-PA(組織性プラスミノーゲン活性化因子)」が日本でも使用可能になりました。t-PA は血栓に吸着して効率よく血栓を溶かし、詰まった脳血管を速やかに再開通させる薬剤です。ただ全員に効果があるわけではなく、脳内出血などの副作用もありえるだけに、使い方に十分な注意が必要です。
 国内の臨床試験では、脳梗塞の発症後3時間以内にt-PA 治療を行うと、3か月後に、ほとんど後遺症もなく社会復帰できた割合が37パーセントでした。しかし発症から3時間以内に使用しないと、脳出血の恐れが高まり、効果も乏しくなります。
 t-PAは脳梗塞の症状が軽症すぎても重症すぎても使用が困難ですが、t-PA 治療が適応となる患者さんにとって重要なのは「脳梗塞を起こしたら、症状が出てから2時間以内にt-PA が使用できる施設へ搬送され、発症3時間以内に治療を受ける」ことです。
 脳梗塞の症状としては、 @片方の手足など半身の動きが急に悪くなる。 A突然ろれつが回らなくなる、言葉が出にくくなる。 B片方の目が見えにくくなる、視野が狭くなる。 C突然ふらつき、歩けなくなる。 D意識がなくなる。などがあげられます。これらは「本人が自覚していないこともあり、これらの症状に気づいたら、すぐに119番」との認識が重要です。

平成22年3月 田中 宏明


頭痛と認知症とパーキンソン

 頭痛にもいろいろあります。急性頭痛としては、偏頭痛や、くも膜下出血が有名ですし、慢性頭痛としては、肩こりからの頭痛(筋収縮性頭痛)や、脳腫瘍による頭痛もあります。当然、それぞれの治療法は異なります。薬局では売っていない偏頭痛の薬もありますし、くも膜下出血や脳腫瘍などは専門的治療が必要になります。放置していては命の危険さえあります。
 認知症にもいろいろあります。最近皆さんがよくご存知のアルツハイマー型認知症もありますが、中には治る認知症もあります。たとえば、手術で治る、慢性硬膜下血腫や正常圧水頭症、薬で治る、甲状腺機能低下症や貧血などです。中には飲んでいる薬を減らして治ることもあります。
 パーキンソン病にもいろいろあります。もともと本来のパーキンソン病とパーキンソン症候群があります。手の震え、筋肉が硬くなる、動きが少なくなるのと、バランスが悪くなる病気です。パーキンソン病なら薬の効果があってしかるべきで、車いすで来られた方が、元気に歩いて通院できるようになることもあります。これも症候群になるといろいろです。薬の副作用でパーキンソン症状がでることもありますし、薬の効きにくいやっかいな病気のことも多いです。
 やはりこういういろいろ考えられる病気は、鎮痛薬を自分で買って飲んだり、健康食品に期待してみたりするのはあまり良くありません。少なくとも一度はきちんと専門家にみてもらいましょう。

平成21年5月 武田 定典


くも膜下出血

 くも膜下出血は突然、今まで経験したことも無い激しい頭痛発作にて発症する脳卒中の一種です。
 脳の表面はすべて、脳脊髄液で満たされているくも膜下腔で覆われています。そのくも膜下腔内にある大きい血管に、もともと異常があって、それが破綻した時くも膜下出血となります。くも膜下出血の原因の多くは、先天的な脳血管異常で、脳動静脈奇型や未破裂脳動脈瘤などです。脳動静脈奇型が、若年者に多いのに反し、脳動脈瘤破裂によるくも膜下出血は、40歳代、50歳代にピークがあり、成人病といわれる所以です。しかも、成人のくも膜下出血の約90%は脳動脈瘤破裂によります。一度脳動脈瘤が破裂し、くも膜下出血が発症すると、第1回目の破裂で約15%の人は死亡し、残った85%の人にも早い時期に第2、第3回目の再出血の可能性が発現します。その為、特別な例を除き早期に再出血予防の目的で、脳神経外科での手術が必要になります。手術は安全に行われ、手術成績も非常に良いのですが、手術後にもさらに、くも膜下出血のため血管が細くなり、重篤な症状を出す、脳血管攣縮や、次第に痴呆化する正常圧水頭症などが追加発症する場合もあります。
 このように危険な病気であるため、もともとある脳血管の異常が、くも膜下出血発症前に発見されればこれほど幸いな事はありません。最近では脳ドックもあり、くも膜下出血前にその血管異常が発見されることも多くなって来ております。しかもそれらに対する予防的処置も手術のみではなく、血管撮影中に行う血管内治療も、この今治市においても可能となって来ております。

平成10年7月一部訂正、原本平成元年5月  片木良典


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