その他


救急医療の崩壊を防ぐためのお願い

 救急医療は医療の原点であるといわれていますが、今治圏域の救急医療が危機に瀕しています。
 平成16年度から医学部を卒業した医師の臨床研修制度が変更され、若い医師が大都市へ集中し、地方の医師不足が大きな問題となっています。また救急医療の重要な担い手である、外科を志望する医師が少なくなっています。今治医療圏域では、二次救急輪番制を市内10病院の協力で進めてきましたが、医師不足のために二次救急病院がない空白日が発生する可能性が出てきました。
 この緊急事態を防ぐために市民の皆さまにお願いしたいのは、救急外来における担当医の過激な負担を減らすことにご協力いただきたい事です。具体的に言えば、二次救急病院は、入院や手術が必要な方を診療する医療機関ですので、比較的症状の軽い方は、休日・夜間急患センターや在宅当番医、もしくはかかりつけ医で診療を受けてください。
 次に、市民の皆さまには日頃からかかりつけ医を持っていただくようお願い致します。医師と患者の顔の見える関係を持ち、早期治療、疾患の予防などで救急病院の受診を抑える事が可能です。風邪による急な発熱などの初期救急時の治療もかかりつけ医で受けられます。
 市民の皆さまのご協力をお願い致します。
 今治市医師会では、二次救急の空白日を発生させないよう、医師の確保に全力を挙げています。また、行政や議会の皆さま、関連機関、関連医療機関との連携を強め、今後の今治圏域の救急医療体制や今治市の医療のあり方についての検討を行い、地域における救急医療や地域医療の確保と充実に最善の努力をして参ります。

平成25年1月 羽鳥重明


冷え症

 冷房の設定温度を高くして、クールビズが進んでいるため、以前のようにクーラーの効きすぎた室内で冷え切っている方は少ないと思います。しかし、夏でも手先や足先が冷えやすい、寝る時には靴下が欠かせないといった自覚症状があり、つらさを感じている方はいませんか。
 冷えの中でもホルモンの異常や血行異常などはっきりとした原因が疑われた場合は、治療の対象となります。しかし、冷えの場合は検査で原因が明らかとならないことが多く、西洋医学書には病名として扱われないことが多いのが現状で、冷えを病気としてとらえず、放っておきがちです。
 一般的には、冷えの原因としては、血液循環が悪い、胃腸が弱っている、新陳代謝が低下していることなどが疑われます。
 具体的な冷え対策としては、縮こまった筋肉の緊張をやわらげ、血液の流れを良くするための体操の励行、脱水をおそれ過ぎて水分を取りすぎない、シャワーですまさず、できるだけ湯船につかることなどです。また、栄養やスタミナ補給、アルコールを飲みすぎない、バランスの良い偏らない食事を心がけることも大切でしょう。
 冷えは万病のもとです。ちょっとした工夫で少しでも快適に過ごすことができます。それでもお困りのことがあったり、不安を感じたりしたら、気軽に医療機関を受診してください。皆さまが、よりハッピーに暮らせるよう何らかのアドバイスをしていきたいと思います。

平成24年6月 玉井京子


フィンランド症候群

 従来の定説を覆すような疫学試験の結果が近年いくつか発表され、現在でも論争になっています。
 一つは、悪玉コレステロール(LDL−コレステロール)が高いほうが、死亡率が低いとの結果が出たとし、血中脂質は下げない方がよいとするものです。しかし、基になった疫学調査の信頼性が疑われているようです。
 また2型糖尿病についても、厳格な血糖コントロールにより、死亡率がかえって高くなるという報告がありました。これは、重症の低血糖や、急に体重が増加したこととの関連があるといわれています。
 私はここで、フィンランド症候群と呼ばれた疫学試験を思い出します。かつて北欧において、禁煙や節酒をはじめ降圧剤などによる治療したグループの死亡率の方が、治療しなかったグループより死亡率が高かったというものです。実際は生活指導が守られていなかったことがわかっています。
 週刊誌などでセンセーショナルに報道され、従来の医療が間違っていたとも捉えかねない内容だけに、びっくりして治療を止めてしまう方がいたようです。実は…でした、と言った後で出てくる別の要因は報道されないので、一部分だけをみて誤解されるのではと心配しています。
 そもそも、病気になりやすいかどうかについては、かなり個人差がありますので、生活習慣やリスク因子の違いだけで病気になるのではありません。遺伝子的背景を考慮しないで、単純に結果を求めることに無理があるのです。実際には、喫煙や飲酒などの不摂生や、病気を治療しなかったことにより死亡につながる事例があるのは事実です。病気の早期発見、早期治療こそが長寿につながるのではないのでしょうか。

平成24年4月 井上 淳


診療ガイドラインについて

 近年、胃がんや肺がんなどの悪性疾患や、高血圧や糖尿病といった生活習慣病などに治療方針としてのガイドラインが整備されています。私は乳がんと肺がんを診療の中心としていますが、この2種類の悪性疾患についても診療ガイドラインが策定されています。ガイドラインは科学的根拠に基づいて、検診の方法や治療について、診療の方針を推奨しています。この推奨も推奨グレードがあり、強く推奨するものから、推奨しないものまでさまざまで、日々の診療の参考にしています。ガイドラインの治療方針は、推奨するものであり、押しつけるものではありませんので患者さんのご希望を尊重し、話し合いによって治療法は決定されます。できるだけ患者さんのご希望の治療をするようにしますが、無理な手術をするとか、その疾患に適応のない薬を使用することなどはできません。
 またすべてのことがガイドラインに記載されているわけではありません。ガイドラインを逸脱する場合もよくあります。「こんな薬は使えないのか」とか、「このような治療はできないのか」とか患者さんが診療内容で何か気になることがあれば、患者さんから我々に相談することも必要です。場合によってはセカンドオピニオン外来を利用するのもよいと思います。気軽に担当医に相談してください。
 大事なことは、医療者側と患者さんがともに納得できる医療をガイドラインを参考にして考えてゆくことだと思います。

平成22年2月 買原彰彦


「家庭医」とは、どんなイメージ?

 大半の人が専門医志向の今、昔よく地域にいた、家族全員何でも診ていたお医者さんは古い診療形態だと思われていませんか。私はいつも患者さんに「腕の良い医者にまれに診てもらうよりも、地域の腕のよくない医者(私のこと)に頻繁に診てもらったほうが手遅れになりにくいですよ」と申しております。
 癌やうつ病、認知症などの早期発見が必要な重要な病気は、一般的な病気の経過中にゆっくり、ひっそりと加わってくるので、患者さん自身がおかしいと気づいて医師に訴えたころには病状が進行していることが多々あります。心配なので知名度の高い専門医のみにかかっている患者さんで、病気が安定しているため、すっかり安心し受診せずに1か月から3か月分の繰り返し投薬を受けている方、また、たまにしか受診されない方の中に新たな病気の発見が遅れたケースをよく経験します。専門医は、通常、その病名について診察や検査を行うため、慢性疾患の患者さんがその症状以外を訴えたり、たまたま検査にありえない異常値が出ない限り、ほかの病気の早期発見は難しいのです。
 それに対処するには、年1度の住民健診を受けることも非常に大切ですし、日ごろから信頼し、何でも気軽に相談できる家庭医を持つことだと思います。家庭医は、患者さんが重大と思う病気も軽いと思う病気も、どの科も問わずにすべてを受け付ける窓口であり、患者さんの顔色や精神状態、病歴、家族歴、体質など、日ごろからその患者さんのすべてを把握しているので、本人が気付かないいつもと異なった身体所見が認められるとこれはおかしいと真っ先に気付いてくれるのです。家庭医で解決のつかない場合は専門医を紹介し、専門科をまたがる病気についても総合判断し、助言をしてくれるはずです。病気になったら、まず初めは、専門医を受診する前に家庭医に相談し、必要に応じて専門医を紹介していただき、病気が安定したら再び家庭医にもどって、定期的に通院されることをぜひお勧めします。

平成18年9月 長井志津佳


漢方薬と民間薬について

 漢方薬の風邪薬でよく使われる「葛根湯(かっこんとう)」には何種類の生薬が含まれているかご存じでしょうか。葛根・麻黄(まおう)・桂枝(けいひ)・生姜(しょうきょう)・炙甘草(しゃかんぞう)・白芍薬(しろしゃくやく)・大棗(たいそう)の7種類の生薬からできています。
 このように漢方薬には、たくさんの生薬が配合されています。一つ一つの生薬には、それぞれの長所・短所があり、それらを組み合わせることで効果がより増し、副作用が軽減されるように考えられた配合となっています。また、実際に処方するときも、一人ひとりの体質、体の状態、症状を考慮し(「弁証」といいます)適切な漢方薬を用いなければ、効果がないばかりか思わぬ副作用が出ることがあります。
 これに対して民間薬は、漢方薬で用いられる生薬を含め、一種類の生薬を単独で用います。長い経験により伝えられ、比較的安全な薬であると考えられますが、先日報道された「うこんによる肝障害」のように副作用を起す場合があります。民間薬の多くが漢方薬に用いられる生薬ですので、「弁証」に合わないものを服用するとこのようなことが起こります。
 漢方薬だけではなく、民間薬にも服用する事によって病気を治したり、予防したり、健康を増進したりする薬があります。しかし、薬によっては、体に表れる変化を慎重に観察しながら服用しないと重大な副作用が生じるものが数多くあります。漢方薬だから、民間薬だからいいだろうといった安易な考えで服用することは禁物です。

平成16年12月 羽鳥かおる


「点滴って?」(1)

 「風邪をひいたから病院に行って点滴してもらった。」、「今日は疲れたから点滴してもらおう。」日常でよく耳にする会話です。みなさんは点滴についてどうお考えですか?点滴も薬の一種ですから、当然、使用方法を誤れば毒となります。
 点滴の歴史は子どもの病気との戦いでした。1910年ごろ、小児下痢症、小児嘔吐症による小児脱水症の死亡率は80〜90%にも達していました。1940年代になりリンゲル液など(理科の実験で使いましたね)の登場により死亡率は50%に減りました。1960年代には点滴の使用法も向上し、さらに死亡率は激減、現在小児脱水症で死をみることはほとんどなくなりました。
 人間のからだの60%は水分です。なんらかの形でそれらが失われたとき、補充が必要となります。点滴は血管に直接入りますので、口から飲んで腸から吸収されるよりも、すみやかに体内へ吸収されます。これが点滴の基本的な考え方です。とくに口から飲めない人には点滴が必須となります。
 水が失われるとき、体内から水と一緒に電解質(ナトリウム、カリウム、クロールなど)も失われます。たとえばひどい熱傷のときは、水分と一緒にタンパク質も失われます。体に補充しなければいけないものは病態によって違うため、点滴にはいろいろな種類があります。病院では症状、疾患にあわせて適切な点滴を選択し、患者さんに投与します。次号では点滴の種類、使用法について説明します。

平成14年7月 竹内 浩紀


「点滴って?」(2)

 点滴のことを一般的に病院では輸液と呼びます。前号でお話ししたように輸液には数々の種類があります。とくに日本では少し多すぎるほどの数の輸液が製薬会社より発売されています。これは欧米人に比べてきめの細かすぎる(?)日本人の性格が災いしたためです。
 医師はこれらの多すぎる輸液の中から、患者さんに適切なものを選択します。食事は十分とれているか、発熱はあるか、下痢や嘔吐はしていないかなどの問診がとても大切です。高齢者や子どもでは、輸液の量や滴下速度の調節が必要になります。数日間食欲がないなどの軽い脱水の場合に最初に使われる輸液は等張性複合電解質輸液薬と呼ばれ、ナトリウムとクロールを主成分とし、血しょうに近い電解質濃度を有したものです。風邪をひいて病院を受診したときなどに施行されるものはほとんどがこれです。
 長期間食事がとれない人に対しては維持輸液というものが必要になります。1日に必要な水分、カロリー、塩分、その他の電解質を計算し混ぜ合わせたもので、文字どおり体の恒常性を維持するためのものです。消化管の手術などでもっと長い期間食事がとれない人には、高カロリー輸液というさらに糖分の多いものを心臓の近くの太い血管から流す方法もあります。
 これらを基本にして、病態により細かい調節が必要です。心疾患、腎不全、肝硬変など、輸液は必要であっても内容や投与方法を誤ると死に至る場合があります。したがって我々医師は、慎重な投与を心掛けています。

平成14年8月 竹内 浩紀


地域ぐるみのリハビリテーションの大切さ

 平成13年4 月に始まりました介護保険制度は1 年半たちまして市民生活にかなり定着してきていると思われます。認定審査で要介護4 や5 と認定された方々の寝たきりとなった原因を分析しますと、後期高齢者の方が肺炎などで比較的短期間病床についただけで寝たきりとなった例が多く見られます。この方々の中には早期より適切なリハビリテーションを受けていれば寝たきりになるのを防げた例が多いと思われます。
 今までのリハビリテーションはリハビリテーションに関心の深い医療機関が設備と専門職を備え、そこを受診した患者さんを対象に行われてきました。数年前より、地域全体で保険・医療・福祉の関係者のみならず、ボランティアなど地域の住民も参画して行う「地域リハビリテーション」の考え方が取り入れられるようになりました。平成13度より、愛媛県も積極的に取り組みを始めました。県下の6 医療圏域に順次「地域リハビリテーション広域支援センター」を指定することとなり、手始めに中予地区と東予地区に1 か所ずつ指定いたしました。東予地区では、今治市医師会が選ばれました。地域医師会が広域支援センターに選ばれるのは全国で初めてであり、地域リハビリテーションの推進を今年度の医師会活動の重点項目の一つと考えています。
 医師会では、医師・理学療法士・作業療法士・言語聴覚士の代表と行政や福祉の関係者の参加する「今治圏域リハビリテーション協議会」を設立しています。この協議会が中核となり、リハビリテーションに熱心な10の医療機関が推進センターとなり、この地域のリハビリテーションの普及と向上に力を尽くしたいと願っています。

平成14年1月 吉野俊明


介護する家族の方へ

 私自身、年の故か、新聞の三面の下のほうにある有名人の死亡告知欄を毎日見ます。年齢と死因が出ていますが、大部分が65歳以上の高齢者で、死因で多いのが肺炎です。さらに肺炎の原因を創造すれば、いろいろな癌や慢性疾患があるかもしれませんが、抗生物質の優秀なものがたくさんある現在、肺炎で死亡するのが不思議に思われるかもしれません。
 抗生物質は病気を治すのではなくて、本来人間がもっている病気を治す力(免疫)ができるまで抗生物質が菌の増殖をおさえるに過ぎません。ところが、年をとるにつれてこの免疫力が落ちてきますので、完全に菌を殺すことができません。免疫力、つまり菌に対する反応が鈍くなるので、若い人のように熱も高くならず、肺炎に気づくのも遅れがちです。気づいたときは重症になっていることが時々あります。介護保険制度が、今年の4月から実施され、家族で高齢者の介護をなさっている家族のかたがたのご苦労が少しでも楽になるよう配慮されていますが、上記のような高齢者の特色を知っていてくださいますと、なおいっそう充実したものになると思います。
 申し上げるまでもなく、「かぜ」は万病のもとで肺炎の元にもなります。「かぜ」を引かぬようにするには、人ごみに行かぬこと、帰ったらうがい、睡眠と栄養に注意などは常識ですが、高齢者では食後や寝る前の歯磨き、それが無理ならせめて「うがい」だけでもして、口の中の菌を寝ている間に肺に吸い込まないようにしてあげてください。

平成12年9月  国延益弘


足のお世話してますか(1)-靴も体の一部です-

 足はちょっとした傷などで大変不自由を感じる場所ですが、今日は日常よく起こる足の異常について述べたいと思います。
 人間は動物とちがって靴をはきます。しかし、この靴でさまざまな障害が足におこることがあります。『魚の目(医者の世界では鶏眼と呼びます)』、『外反母趾』の原因のほとんどは足の形と合わない靴と言われています。足の親ゆびの付け根が腫れて痛くなる病気で『痛風』というのがありますが、『外反母趾』の初期でもほとんど同じところが痛くなります。治療法が違いますから、早めに医師に相談し、検査で確認してもらって下さい。爪の周りが赤く腫れ、触れるととても痛い『爪周囲炎』も靴の大きさがあっていないことが原因のことがあります。初期であれば爪と皮膚の間に小さなガーゼを差し込めば楽になりますが、ひどくなると爪を抜かなければいけなくなったりします。
 以上述べた足の障害は主に足の前の部分が圧迫されていることが原因です。ヒール付の先の細い靴は見た目にはスマートですが、ゆびに余裕がなく、体重も足の前の部分にかかってしまい、障害を引き起こしがちです。靴を選ぶときには足の縦の長さや見た目ばかりでなく、自分の足のかたちに合ったものを選んで下さい。
 次回はいろいろな病気を抱えている人におこりやすい、足の障害についてお話ししたいと思います。

平成10年9月  国延浩史


足のお世話してますか(2)

 慢性的な病気で病院に通われている方も多いと思いますが、今日はそういった方たちにおこりがちな足の障害についてお話ししたいと思います。
 糖尿病や高血圧、動脈硬化症といった病気の方では細い動脈で血が流れにくくなっており、特に足のゆびでは血の循環が悪くなっています。そういった状態で足のゆびにけがをしますと、普通の人なら簡単に治る小さな傷でもなかなか治りません。特に糖尿病の方は神経まで鈍くなっており、けがをしたのに気がつかなかったり、化膿しているのに痛みを感じなかったりして、どんどんひどい状態になっていきます。またけがだけでなく、水虫の菌もつきやすくただれた部分から化膿したり、爪に水虫の菌がつくと爪がぶ厚く変形し、皮膚を傷つけ、やはり化膿の原因になったりします。おどかすようですが、ひどくなると足の指を切断しなければならなくなったりします。貧血のある方や女性に多いのですが、冬になると手足のゆびがしびれてしまう方にも少なからず、そういう傾向があります。
 足は常に清潔にし、特に糖尿病を持った方は絶対に足のゆびにはけがをしないよう注意して下さい。もし、けがをしたら放っておかないで、早めに医師に相談して下さい。その際には自分の持っている病気のことを最初に告げて下さい。家で病気がちのお年寄りをお世話なさっている場合にも足に異常がないか注意してあげて下さい。

平成10年10月  国延浩史


いじめについて

 「いじめ」による自殺の報道が目につきますが、皆様はいかがお考えでしょうか。自殺する青少年は生きることの絶望した、という点が私のは痛ましく思えてなりません。
 加害者側に許されざるべき罪のあることはもちろんなので後に述べることにしますが、まず被害者を孤独に追いやった状況というものを考えてみたいと思います。
 被害者には、権力、支配に対する免疫が弱いという共通の性質があげられるでしょう。子供の自立を阻む支配力の強い母親に育てられた場合、母親には逆らえない「いい子」ができあがる訳ですが、もちろん母親にその自覚はありません。しつけという欺瞞のもとに抵抗力の弱い子供ができます。加害者はそこにつけいるのでしょう。「いじめ」てもやり返すことのできない犠牲者が選ばれることになるのです。
 また、被害者がその母親に「いじめ」られている状況を理解してもらおうとしても、表面的に受け取られるだけで深い理解、共感は得られないため孤独感がつのるのでしょう。なぜなら、「いじめ」をやり返すような自立心に富んだ強い子を、母親は心の底(無意識のエリア)では真に望んでいないからです。母親自らの支配欲、権力欲を満たすため子供の持つ抵抗力を奪ってきた結果が「いじめ」られる子を作りあげたといえます。
 「いじめ」られっこにしないために、母親はしつけという大義名分のもとに自分に都合のよい子を作りあげないことが大切です。

原本平成6年7月  山口須美子


いじめについて2

 今回は、加害者が育成される過程を問題点として取り上げます。
 加害者の青少年たちはなにをお手本にして“いじめ”を行っているのでしょうか。本やテレビなどではありません。強烈なお手本は身近にあるものです。彼らが学校や社会の体制についていけない子供たちであることは明らかですが、彼らいじめっ子の過去を調べてみると、学校で厳しい体罰を受けていたり、本人は著しい疎外感を感じているのに一見何の問題もない円満な家庭といったものが浮かび上がってきます。つまり、学校においては教育という、過程においてはしつけという名のもとに“いじめ”が堂々とまかり通っており、子供たちはそのパターンを踏襲しているのです。
 ご両親や先生方は憤慨なさるかもしれませんが、ナチスのユダヤ人虐殺や、中国における文化大革命時代の大虐殺も、お国のためという大義名分のために行われ、その際加害者として大活躍したのが青少年であることは記憶に新しいのではないでしょうか。
 親や先生方の言葉ではなく、行動が子供たちを育成するのであり、逆に子供の行動を見ていれば我々自身の中に存在する見知らぬ自分に気づかされるはずです。子供たちは身近にいる大人たちの行動を観察し、模倣しながら社会性を身につけていくのであり、“いじめ”も例外ではないのです。
 子供の言い分も聞かずにどんな形にしろ、子供を強制的に枠にはめようとする我々の行動が“いじめ”の加害者を作りあげているという事実に一考の余地はないでしょうか。

原本平成6年8月  山口須美子


よりよく受ける診察心得

 損なった健康を取り戻すためには、医療チームと患者さんとが、共通の敵である病気に対して協力して立ち向かうことが肝要です。 昼夜を分かたぬ医療チームの側の研究に比べて、患者さん側の協力の仕方の研究が、案外なされていない様に思います。
 病気の体にとって、待合室での待ち時間は非常に辛いものですが、できればその時間を、御自分の現在の調子の悪さをどのような言葉で表現すれば、医師に短時間で漏れなく明確にわかってもらえるかと、一生懸命考えることに使って頂きたいのです。 「平生健康であったが、6月15日から3日間心配事が続いた。その頃からみぞおちに痛みを感じる様になり、午後に多く、また特に午後1時頃にひどくて、やけるようであり、牛乳を飲むと10分くらいでよくなる。今朝真っ黒い便が出た。
 実は、こういった表現の仕方に、御自分の運命がかかっていると言っても過言ではないのです。

 昭和63年7月  小堀迪夫


薬の上手なつき合い方

 病気の時は病院等で薬を処方されますが、薬を正しく服用するため、その服用方法について、一言アドバイスさせて下さい。
 薬には@具合の悪い時だけ服用する薬(風邪薬、下痢止め等)とA薬を指示通り服用しているから調子がよいのであって、中止すると具合が悪くなる薬(高血圧の薬、糖尿病の薬等)があります。いずれかの薬をよく知って、上手に薬とつき合う事が大切です。
 例えば高血圧の薬を時々(自分で体調が悪そうと思う日のみ)しか服用せず、血圧が一定しないと悩まれる方がおられます。これは、薬を服用した日は血圧が下がって体調がよい、それで翌日は服用しないので血圧が上がってしまうという事の繰り返しなのです。又、体調が良いからと、1日3回、1回1錠の薬を、1日1回1錠に減らすのも良くありません。つまり、24時間効くものは1日1回、8時間しか効かないものは1日3回と指示されているからです。8時間しか効かない薬を1日1回しか服用しないのでは途中で薬が切れて具合の悪いことになります。ぜひ、薬は指示通りに服用してください。
 最後に、薬には使用期限がありますから、古い薬を服用すると思わぬ結果を招くことになりかねません。主治医に使用期限をきいておいて、薬袋に明記しておくことも大切なことです。

平成元年10月  仁志川由香里


鍼について(上)

 鍼療法は、古代中国で民間療法の一つとして経験的に行われたものを起源としており、きわめて長い歴史があります。例えば「薬石効なく」という言葉は、石で刃物を作り、これで針治療を行ったためといわれるぐらいであります。しかし、鍼の効果の仕組みについて十分な研究が始まったのは、比較的最近のことであります。
 古典的には鍼灸治療はある「つぼ」を鍼灸その他の方法で刺激し、体の損なわれた全身のバランスをとりもどして病気への抵抗力を増し、病気が治る方向へもってゆくものとされます。この「つぼ」については、現在の研究でも諸説がありますが、はっきりしないのが実情です。
 近年脳内物質の研究がすすみ、苦痛や痛みをとめることについて、脳内麻薬様物質が大きくかかわっている事が発見されましたが、鍼による鎮痛の中枢性メカニズムについてもその物質が増加するという説が注目されています。実際治療中にしばしば患者さんが、眠ってしまうという例をみますが、このことと関係があるように思います。又、鎮痛以外の鍼の効果は、自立神経活動やホルモン分泌を介して生じるとも考えられています。
 世界保健機構では鍼灸治療で効果があると思われる疾患を上げています。これらの中には現代医学では難治の病気も含まれています。その他には、現代医学では治療の方法がないとして放置されている症状の中にも鍼の効果が期待されるものがあります。 鍼に応用できる医用器械の進歩はめざましく、又「つぼ」刺激の方法もレーザーをはじめ各種のものが実用化されつつあるのが現状です。

  昭和61年7月  阿部和子


鍼について(下)

 今回は眼の鍼についてお話をしてゆきたいと思います。
 眼は全身器官の一つであり、全身と密接な関係をもっています。眼の病気からくる全身病又は全身病から眼の病気になるという患者さんも多くみられます。こういった場合、眼の病状が主に出てきた人においても全身のバランスをとりつつ、眼の針治療をする簡単な例をあげてみましょう。近ごろコンピューター機器を使うことで、眼の疲れを訴える患者さんが増えております。眼を使う仕事を続けている時に普通の人では疲れない程度の仕事でも疲れて、頭痛・前頭部の圧迫感・視力低下を訴える事を、眼精疲労といっております。その中には調節性眼精疲労といって遠視・乱視・老視の初期のように、ものをよく見ようとするために調節する事でおこるものや、結膜炎・眼瞼縁炎などの時に起こるものや、その他にも色々ありますが、こういう場合、原因の治療をまず第一に行うと共に、眼のまわりの針治療及びずい伴する肩こりなどの症状をとり、全身のバランスを回復する鍼治療を併用することで、急速に軽快することがあります。
 又眼の方では特にこれといった原因が見当たらなくて放置されていた眼精疲労の中にも、鍼治療で回復した例もいくつかありました。眼の鍼治療は西洋医学と合わせる事で、今までよりもっと広い治療を行い、より良い効果をあげるのに一役かうことが出来るものと思われます。

  昭和61年8月  阿部和子


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