消化器科、胃腸科、消化器外科(1)


ウイルス肝炎のA・B・C(1)

 細菌の肝炎ウイルスの研究の進歩はめざましく新聞やテレビなどのマスコミでもよく話題に取り上げられています。そこで、最新の話題にもふれながら、やさしく解説してみようと思います。
 今まではウイルス肝炎といえばA型肝炎、B型肝炎であり、その他の未知のウイルス肝炎らしいものを非A非B型と呼んできたことはご存知の方も多いと思います。しかし、D型肝炎ウイルス、C型肝炎ウイルス、E型肝炎ウイルスなどがつぎつぎに発見されたため、現在ウイルス肝炎はA型、B型、C型、D型、E型、F型、G型とたくさんに分類されるようになりました。まず冬から春にかけて多く発生するA型肝炎からお話しします。 A型肝炎:症状は、はじめ風邪のように熱がでて、黄疸がでたり、全身がだるくなってむかついたりしますが、約1カ月で回復します。ただ、まれですが劇症肝炎になる場合があります。しかし、A型肝炎ウイルスは慢性肝炎になりませんし、1度かかると抗体(免疫)ができるので、2度とかかりません。しかも、幼児期にかかれば軽くすむ場合が多いようですが、それに比べて大人の場合は典型的な症状で発症します。このA型肝炎ウイルスは経口感染しますから、ウイルスに汚染された地区や学校、施設などでの集団発生とか、生の貝が媒介したと考えられる家族内発生することがあります。しかし、我が国では衛生環境が戦後よくなってきており、先進国なみに減少してきていま す。そのため幼児期の感染がほとんどなくなり、A型肝炎ウイルスの抗体を持っていない人が多くなっています。ですから、海外へ旅行したり、赴任したりして感染する場合が多いとか、国内でも飲食物が汚染され多数の人が発症するなど、今なおA型肝炎対策が必要なのです。予防のためには、抗体のできていない若い人が増えているので、食事前やトイレから出た後の手荒い習慣を付けることが必要です。予防薬としてA型肝炎ワクチンも実用化されています。

原本平成5年4月 井出 透


ウイルス肝炎のA・B・C(2)

 今回は、血液を通じて感染する血清肝炎のうちB型肝炎について説明します。
 今回のお話で最も重要なことは、肝炎が慢性化して肝硬変へ進展してゆき、さらに肝がんを合併する場合があるということです。そこに肝炎ウイルスの持続感染が大きな役割を果たしており、その主犯であるB型およびC型肝炎ウイルスの予防や治療法の研究に大きな期待がかかっているのです。さて、B型肝炎とC型肝炎に共通する特徴は、一過性感染(急性肝炎)のほかに、持続感染が見られることで、持続感染者はキャリアと呼ばれています。
 まず、急性B型肝炎ですが、血液製剤のB型肝炎ウイルスはチェックされているので、一般成人の感染経路としてはセックスによるものが主体で、ツーリスト感染として旅行者などに多く見られます(うわきが発覚する場合もあるようです)。B型肝炎の多い地方へ行かれる方は、ワクチンで免疫をつけておく方がいいでしょう。成人の急性B型肝炎は劇症肝炎(1〜2%)になる場合を除いては治癒します。ただし、男性同性愛者や麻薬常用者はキャリアに移行する率が高いようです。
 つぎに、B型肝炎ウイルスのキャリアですが、最近の日本ではほとんど出生時の感染(母子感染)によるものです。これに対してワクチンの開発などによって、B型肝炎の感染防御が昭和61年頃から積極的に行われるようになり、その効果があって現在では小学生以下のキャリアは急速に減ってきています。しかし、このウイルスの中には活動性を表すe抗原が陰性のB型肝炎ウイルスで、突然変異型のものが見つかりました。これは、肝機能検査の変動を繰り返しながら急速に肝硬変に移行してゆくタイプで、今後はこの変異型のウイルスへの対策が必要になってきます。
 さらに、一部の肝細胞がんで、がん細胞の核の中に、この変異型ウイルスの遺伝子の一部が組み込まれていることが発見され、発がんとB型肝炎ウイルスの関係がしだいに明らかになってきています。
 このように、B型肝炎ウイルスによる肝障害の治療と対策が充実してきたとはいえ、まだ決して注意を怠ってはいけないのです。

原本平成5年5月  井出 透


ウイルス肝炎のA・B・C(3)

 今回は、ここのところ積極的に治療の行われてきたC型肝炎について説明いたしましょう。
 C型肝炎ウイルスはそのウイルス粒子がまだ電子顕微鏡でも見つかっていない正体不明の病原体でした。それが、平成1年11がつに米国の研究者がウイルスの遺伝子を調べることによって、それまで非A非B型と呼ばれていた輸血後肝炎のほとんどが同一のウイルスによることがわかり、C型と名づけられました。
 C型肝炎:輸血を受けたことのある人が30〜50%います。また、家族内感染は15%にみられます。夫婦間感染は結婚年数が長いほど高い傾向にありますが20%以下の感染率です。しかし、結婚10年まではほとんど見られません。母子間感染についてはB型ほど頻度は高くなく、10%以下であろうともいわれています。また、セックスによる感染もB型ほどではないようです。そのかわり、C型肝炎ウイルスは成人の初感染で急性肝炎となり、ほとんどが慢性肝炎に移行するといわれており、この点でA型やB型と非常に異なっています。
 現在までのデータでは、C型肝炎ウイルスの感染から慢性肝炎、肝硬変、肝細胞がんまでそれぞれ平均10年、20年、23年で進んでいくといわれています。肝細胞がんはB型肝炎ウイルスによるものが16%あるのに比べ、C型肝炎ウイルスによるものは66%と非常に多くなっており、しかも肝細胞がんの約70%は肝硬変を合併しています。ですから、肝細胞がんにならないためには、まず肝硬変にならないように予防すること、肝硬変の前段階である慢性肝炎の悪化を防ぐことが大切です。このC型肝炎ウイルスは突然変異がおこりやすく、すばやく遺伝子が変化して免疫機構による攻撃からのがれるため、非常に慢性化しやすい性質を持っています。その対策(治療法)としては、ウイルス増殖がおこるときに変異型が出現するといわれていますので、抗ウイルス剤のインターフェロンなどでウイルスの増殖を抑え、これによって慢性肝炎から肝硬変への進展をくい止めるのです。
 予防の一つとして、日赤血液センターでは、皆様からいただいた献血に対してHCV(C型肝炎ウイルス)抗体による検査チェックをすでに平成2年から行っていますので、今後、輸血後C型肝炎は激減するものと予想されています。

原本平成5年6月  井出 透


ちょっとご注意!食道と食べ物アラカルト

 食事と消化器病との関係は、皆さんよくご存知と思います。今回は、胃や肝臓と比べて軽くみられがち(?)な「食べ物の通り道」=「食道」の病気のうち「食べ物」そのものによる急性の病気をいくつか紹介します。
【食道潰瘍】何かを飲食した後、胸が痛い・特に飲み込む時に痛い又はつかえる、血をはくという症状があります。原因別にみると、@熱い豆腐・トンカツ・魚フライ・たこ焼き・熱いお茶などによる熱傷(やけど)A魚の骨などによる損傷(キズ)B濃いアルコールによる化学的なものなどがあります。
【食道閉塞】肉の塊(かたまり)・昆布などをよく噛まずに飲み込んで塊が食道に詰まってしまうことがあります。ガンなどのため胃への通過が悪いと起こりやすく、外国では「ステーキハウス症候群」として知られています。
【診断・治療】まず、内視鏡(胃カメラ)検査が必要です。魚の骨・食べ物の塊に対しては内視鏡で取り除くという治療も同時に行います。ほとんどの場合ちゃんと治療を受ければ完全に治ります。
【予防】寒い季節ごちそうは暖かいものと新鮮な魚と適度のアルコールです。電子レンジのおかげで高温の食べ物もめずらしくなくなりました。美味しくいただく前にちょっとご注意ください。食事もせわしい時代ですが、歯の悪いお年寄りは特にゆっくり・よく噛んで楽しくいただきましょう。世はグルメの時代、思わぬ病気が増えています。「変だな」と思ったらすぐにご相談に。

平成4年2月  宮崎忠顯


腸閉塞とは

腹痛は皆さんがよく経験する症状ですが、それを起こす病気の1つに腸閉塞があります。
 腸閉塞とはその名が示すように腸が詰まってしまう病気です。その原因はさまざまですが、約50%がおなかの手術後に腸が癒着することが原因です。
 症状には吐き気、嘔吐おなかの張り、おならや便の停止などがありますが、差し込むような腹痛が周期的に現れたり、腹痛と同じ時期に雷に似た大きな腸の音が聞こえるのが特徴です。特に症状の現れ方が急激で強く、また発熱やおなかを押さえると痛みがある場合には、腸の血液の流れが悪くなっていることが考えられ、放っておくと腹膜炎になる可能性があります。
 治療としては、腸が詰まっている状態ですから、食事をやめて点滴を行い、胃や腸の中に管を入れたり浣腸などで腸の中にたまっているものを出してやれば、1週間以内に良くなることがほとんどです。良くならない場合には手術も行われます。特に腸の血液の流れが悪くなっている場合には、緊急手術が必要となります。
 おなかの手術を受けた方々が必ずしもこの病気になるわけではありませんが、食べ過ぎはよくありません。暴飲暴食をさけ、前に述べたような症状が出てきた場合には、なるべく早く医師の診察を受けるようにして下さい。

原本平成2年11月  加賀城安


アルコールと肝障害

 私達が酒やビールを飲むとそのアルコールは肝臓に行き、そこで3つの代謝経路で分解されます。
 アルコールは私達の体にとって毒ですから、蛋白質や、糖や、脂肪の代謝が後回しになり、そのためにいろいろな面で代謝の異常がおこることになります。
 一番はっきり現れるのは脂肪の代謝異常で、肝臓に脂肪がたまってきます。これが最もありふれた最初の肝臓の障害で、脂肪肝といいます。これはよほどひどくならない限り何の症状も出ませんが、血液検査や超音波検査をするとわかります。
 適正飲酒(1日に日本酒で2合、ウイスキーでダブル2杯、ビールで大ビン2本ぐらい)の限界を超えて長く飲んでいると次には肝繊維症を経てついには肝硬変になります。肝硬変になるには個人差がありますが、5合以上、10年から15年ぐらいです。酒の種類で害に違いはなく、問題は飲んだアルコールの総量によります。しかし、アルコール性の肝臓病は酒を止めると確実によくなります。最低1ヶ月は止めないといけません。もし止めても血液検査の数値が下がらないときはウィルス性肝炎が隠れている可能性があります。肝硬変になると肝臓は硬くなり、肝臓の組織が正常なものとは全く変わった状態になります。
 さらにおそろしいのは肝硬変から肝ガンが発生してくることです。
 肝臓が悪くなると、だるく、疲れやすく、食欲がなくなってきます。そういう症状が出てくれば早く病院に行って検査して下さい。休肝日を週2日とって下さい。そうすれば、心身ともに肝臓も安泰です。

原本平成2年9月  加藤淳昌


食中毒:特に細菌性食中毒について

 食中毒とは、有害物質に汚染された飲食物を食べることによりおこる急激な中毒症状、又は急性感染症状があらわれる場合をいいます。原因として(1)細菌(2)自然毒(有毒きこの、ふぐなど)(3)化学物質の3つに大別されます。
 その中では、90%以上が細菌性食中毒で、毒素型と感染型の2つがあります。毒素型は、食品の中で増えた細菌が作り出す毒素によって起こり、ぶどう球菌やボツリヌス菌によるものです。一方、感染型はサルモレラ菌や腸炎ビブリオ菌などの病原性のある菌そのものの働きによっておこります。共通の症状は激しい腹痛と下痢で、ひどいときは1日10回以上の下痢をします。
 この細菌性食中毒は、湿度、温度とも細菌増殖にとって最も都合のよい7〜9月に多く発生します。この増殖は気温10℃を越えると始まり35〜37℃でピークとなるため、夏に室温放置5〜6時間で十分繁殖されます。
 これらより身を守るポイントとして、@まな板などの調理器具はよく洗い乾燥させる、A調理人の手洗い、B生ものはなるべく早く加熱して食べ、保存する場合は-10℃以下で冷凍保存する、C土産物の食品や仕出し弁当はその日のうちに食べる、などに気をつけて下さい。特に、最近電気冷蔵庫が普及していますが、これは食品の腐敗速度にある程度ブレーキをかける道具であり、誤った使用、過信をしますと、かえって最近増殖の温床となることがありますので注意して下さい。
 最後に、夏場に原因不明の腹痛や下痢が突然おこったら、まず細菌性食中毒を考えて早めに医師に相談することをおすすめします。

平成2年8月  菅 拓也


胆石について

 胆嚢や胆汁の通り道である胆道にできた石を胆石といい、胆石のために腹痛が起きたり熱が出たりすることを胆石症とよびます。
 突然の差し込むような痛み(胆石疝痛発作といいます)が、主に右の肋骨下に生じ、右の背中や右肩に痛みがひびくというのが典型的な症状です。この発作により、胆嚢や胆道に炎症を伴ってくると、高い熱が出たり、胆汁の流れがよどむと目や皮膚が黄色くなってきます(黄疸)。脂っこい食べ物(天ぷら、うなぎ、中華料理など)や飲酒が誘因となり、精神的ストレスや肉体疲労もきっかけとなります。
 胆石症の成因として、太りすぎや食べ過ぎによるコレステロールのとりすぎはコレステロール胆石を作りやすくするので、気をつけなくてはいけません。
 胆石の診断は、腹部の超音波検査が最も簡便で検査時の苦痛もなく、胆のう内結石では90%以上で発見が可能です。胆石を持っている人の約半数は症状のない胆石(無症状胆石)であり、最近は検診などの偶然の機会に見つかることが増えてきています。
 治療は、薬によって胆石を溶かす溶解療法、手術療法、衝撃波による破砕療法などがありますが、胆石の種類や個数、発作の頻度などによって決定されますので、医師の指示を受けて下さい。
上腹部痛の際、すぐに胃の病気と考えがちですが、常に胆石を念頭において検査をお受けになることが大切です。

平成2年7月  真部 淳


急性虫垂炎

 腹痛の原因には、最も一般的な胃腸炎を始め、胃潰瘍、胆石、膵炎、尿管結石症、腸閉塞などさまざまな病気がありますが、油断のならない腹痛の一つに急性虫垂炎があります。ずいぶん昔には虫垂炎で多くの人が亡くなっていたのですが、16世紀になり原因がすぐ隣りにある盲腸の炎症と間違えられて考えられるようになったためか、この虫垂炎のことをよく“盲腸”といまだに呼ぶようです。
 幼児や小児にはまれで、10代に最も多く、年を取るにしたがって少なくなりますが、成人、老人を通じて普通にみられる病気で、15人に1人は一生に一度は虫垂炎にかかるといわれています。
 症状は、まず、みぞおちが痛くなり、次に食欲がなくなり、むかついたり、ものを吐いたりした後、痛みがだんだん右の下腹に移動してくるような症状のある場合は、虫垂炎があやしいと考えます。ほとんどの場合は便秘がちになるようです。最初から、右の下腹が痛むこともありますが、むかつきがあるようでしたら注意が必要といえるでしょう。
 診断には血液検査(白血球数)やおなかのレントゲン写真を撮ったりしますが検査だけでは、虫垂炎にかかっていても異常がはっきりしないことがあり、やはりいろいろな方法でおなかを触って(触診)診断するのが一番のようです。
 軽い虫垂炎は手術をせずに抗生物質で治ることが多くなりましたが、ひどくなると虫垂に孔があき腹膜炎になることもありますので、早めに医師による正しい診断、治療を受けるようにしましょう。

平成1年6月  岩城和義


胃・十二指腸潰瘍

 人間が怒ったり、びっくりした時には胃壁は赤く充血し、これらのストレス状態が続くと、胃壁も真っ赤にただれて、ときには出血することもあります。また、がっかりして落ち込むと胃壁は血の気を失って青白くなり、消化液も出なくなって食欲は減退します。また、うれしい場合などは胃壁も美しい色となって活動し始めます。このように胃は、精神的影響を強く受ける臓器です。
 胃・十二指腸の症状は、個人差があって千差万別で、次のうち一つでも心当たりがあれば精密検査が必要です。なぜなら、ほおっておくと胃や十二指腸に突然、孔があき、ショックや出血を起こす事もあります。
 胃・十二指腸は、みぞおちあたりが痛み、食事時間と深い関係があります。一般に、食事直後が1時間以内に痛みが始まり、食物が胃の中にある間中痛みが続くのが胃潰瘍、そして、食後数時間たって胃がからっぽになった時や、夜間に痛むのは十二指腸潰瘍の疑いがあります。胃が思い感じや、嘔吐、吐血、出血などの症状を呈したら注意が肝要です。
 治療は薬物療法、食事療法、安静などで80〜90%が治ってしまうといわれています。しかし、潰瘍が深く、胃壁に孔があいた場合、出血をくり返す場合、痛みが強く苦しい場合など、内科的治療が効かないケース、少しでも癌性の疑いがある時は手術に頼るしかありません。
 年に一度は胃の検診を受け、ストレスや喜怒哀楽に左右されない丈夫な胃でありたいものです。

昭和63年11月  木本達郎


乳幼児の腸重積症

 乳幼児の腹痛の原因で最も恐ろしいものの一つがこの病気です。一般の方はよく腸捻転と混同しますが、赤ちゃんの腸捻転は極めてまれで、それよりずっと頻度が高くしかも死亡率の高いのが腸重積です。これは、小腸から大腸への移行部において小腸が大腸へ入り込み重積していく状態(図)で、このため腸管の閉鎖と壊死が起り、放置すると短時間に死亡に至ります。
 症状は極めて特徴的で、突然激烈な腹痛発作が始まり、嘔吐と血便をしばしば伴い、右上腹部にバナナ状の腫瘤が触れます。X線注腸検査(バリウムを肛門より注入)にて重積部に特徴的なカニばさみ像を認めると診断が確定します。 治療はまず手術せずに治すのが基本で、注腸による診断操作に続いて更に余分のバリウムを圧をかけて注入し、腸重積管を押しもどして整腹させます。この治療の最大のこつは、必ず全身麻酔をかけて患児の腹圧を下げて以上の操作を行うことです。泣きわめく赤ちゃんに目醒めたままいくら注腸してもしばしば失敗します。しかし全身麻酔下に行っても成功率は70〜90%で、整腹できない場合は速やかに開腹手術をする必要があります。
 いずれにしても診断から治療までの手技はどれも外科医の仕事ですので、小児科の先生は腸重積を疑うとすぐに外科へ患者さんを紹介するわけです。くり返しますと、治療の要点は、非手術的整腹の場合も必ず全身麻酔をかけて行うこと、成功しなければ速やかに回復手術に踏みきることです。最近技術の進歩で著しく死亡率は低下しましたが、それでも5〜10%は死亡する恐ろしい病気です。

昭和63年3月  木原真吉


大便がおかしいと思ったら

 朝、起きて大便をしたときに、以前はソーセージの様に大きいのが気持ちよく出ていたのに最近は小指ぐらいの細い便が出るとか、何か便秘がちで、時には下痢もするし、はたまた、便に赤い血がついたり、ふきとった紙に血がついたりという異常に気がついたことはありませんか。
 そうです。こんな時には大腸がんができていることがあるのです。
 今まで私たちはお米を中心とした食生活でした。最近は米だけでなく、パンや肉類を多くとるようになり、生活様式が欧米人に近くなるとともに胃がんのみならず、大腸がんにかかる人もふえてきました。大腸がんも初期には何の症状もないことが多く、気が付いたときには大手術になったり、手遅れになることもあります。初期の大腸がんは、ちょっとした注意でみつかることも多いのです。
 最初に書いた症状があったときは、すぐに医師に受診してもらうのもよいですし、一年に一度は検便をして、出血の有無をみたらよいでしょう。大腸がんを調べるには、いろいろな方法がありますが、最近では大腸ファイバースコープが使われ、苦痛も少なく検査ができる様になりました。特に大腸がんの約75%ができるといわれる、直腸やS状結腸の検査では、5〜10分ぐらいで終りますし、大腸がんのもとになることもある大腸ポリープは手術をしないでファイバースコープで除けるものもあります。

昭和63年2月  菅 大三


腸の機能(働き)の異常 −過敏性大腸症候群−

 便通は人によってその差の非常に大きいものですが、過敏性大腸症候群とは腸管の機能異常により便通異常と共に腹痛、腹部不快感、膨満感等を感じる病気で、便通異常の状態により、持続的又は間欠的に下痢や軟便であり一般に腹痛を伴う慣性下痢型(神経性下痢)、腹痛その他の腹部症状と便秘・下痢の交替又は便秘が続く形をとる不安定型等とに大別されます。
 発病や憎悪の主な原因としては食餌性要素(暴飲暴食、冷たい物、揚げ物、繊維の多い食品、アルコール類)、身体的要素(過労、感冒、手術、体の冷え等)、情趣性要素(環境の変化、不安、緊張、対人関係等)、体質(例えば牛乳が合わない等)が挙げられます。
 この病気自体は基本的に良性ですが、病状の程度によってはかなりの苦痛や不便を来しますし、また場合により主に大腸の癌、炎症性疾患、先天性又は後天的腸管の異常、膵臓病、寄生虫や原虫による病気等による異常ではない事を確かめる必要のある事もあります。特に従来にはない異常な便秘、小さく細い便、時にある血便、排便後の残った感等の場合、大腸癌に注意することは、欧米化した食生活と共に日本で大腸癌の増加して来ている今日、特に大切と考えられます。以前からの症状の推移を医師と相談して場合により必要な検査を行う必要のある場合もあるでしょう。
 治療としては情緒性要素(主にストレス)の除去、軽減、規則正しい生活や食事、排便の習慣、適当な運動と休養、睡眠、食事上の注意(前述)、必要に応じ適宜内服治療を行う事等です。いずれにしても便通や便に関する異常はなかなか相談しにくいものですが、やはり恥ずかしがらずに医師と相談して思わぬ病気が隠れていないよう注意するのは大切な事と考えられます。

昭和61年10月  鈴木 孝


胃癌の知識

 日本では、早期胃癌の研究が目覚ましい発展をとげ、日本のお家芸となり世界を指導する立場にまで発展しています。
 胃癌の発生率の低下が伝えられ、はっきり言えることは胃癌による死亡率が低下したことです。その背景には、集団検診の普及、定期的な健康診断などによる無自覚症状者の受診率の向上、診断技術の進歩などによって早い時期の胃癌が多く発見され、適切な治療を受けていることによります。胃癌研究会のまとめによりますと最近の胃癌手術の5年生存率は、T期では85〜90%、U期では、35〜65%、V期では15〜25%とされています。従って、T期またはU期までの時期に発見されれば、その治療成績は決して悪いものではなく、胃癌は不治という従来の考え方を根底から改めなければならないと思います。しかしながら、消化器癌の死亡者数はかなりの高率をもち、胃癌については年間多数の死亡者が報告されております。この原因は、癌と診断された時点ですでに手術の対象となり得ず、また、手術をしても非治癒切除にとどまる症例が多いためです。
 健康は最大の財産です。胃癌の場合は手遅れにならぬ様、無症状のときにも定期的に検診を受けられるよう努力いたしましょう。  最後に、胃癌の治療には(1)手術療法(2)胃癌根治手術の補助療法 (3)手術不能または再発胃癌に対する免疫化学療法がありますが、全治またはかなり制癌効果の増強が期待できます。

昭和59年4月  木本達郎


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