消化器科、胃腸科、消化器外科(3)


非アルコール性脂肪肝炎 NASH(ナッシュ)

 現在日本では成人の20〜30パーセントの方が脂肪肝です。脂肪肝は肝臓の中に中性脂肪が過剰にたまる病気ですが、お酒の飲み過ぎによるアルコール性脂肪肝と過食や運動不足、肥満が原因の非アルコール性脂肪肝の二つに分類されます。
 非アルコール性脂肪肝は、内臓肥満や糖尿病、脂質異常症、高血圧に合併することが多く、メタボリック症候群の肝病変と考えられ近年増加の一途をたどっています。これまでは進行しない良性疾患とされ、ほとんど放置されていましたが、約10パーセントほどが肝臓に炎症が加わり脂肪肝「炎」を発症し、肝硬変や肝臓癌にまで進行する場合があることがわかってきました。これが非アルコール性脂肪肝炎(NASH)です。10年で約10パーセントが肝硬変に至る進行性の怖い病気で、日本人の約1パーセント程度がNASH と考えられ、今後さらに患者数の増加が懸念されています。
 脂肪肝の診断は腹部エコーで容易ですが、脂肪肝炎(NASH)との区別は症状や血液検査、画像検査ではつかず、診断確定には肝臓の組織検査が必要となります。
 糖尿病薬のインスリン抵抗性改善薬や一部のビタミン剤、肝庇護薬の投与などで肝機能の改善報告はありますが、効果には限界があり確立した薬物治療法は残念ながらまだありません。最も重要かつ有効な治療は食事、運動療法による体重の改善です。
 脂肪肝と診断されメタボリック症候群の合併があるならNASH の可能性があります。決して脂肪肝を侮らず、直ちに生活習慣を見直しできるだけ早く脂肪肝から脱却するよう努力することが必要です。

平成22年11月 井戸 英司


消化管アニサキス症について

 聞きなれない言葉ですが、釣り好きの方の中には、よく知っている方もいます。
 70 歳代の男性。昨日、釣ったばかりのイワシの刺身を食べてから、4〜6時間後、激しい上腹部痛を訴え、受診されました。症状より、ある疾患を疑い、胃内視鏡を行いました。すると、胃の体部に白い₃センチメートルほどのくねくね動く虫体がおり、胃の中に頭を刺入していました。さっそく鉗子で摘出しました。同時に激しかった痛みは消失しました。
 虫の正体はアニサキス。イカ、サバ、イワシなどに寄生して、これを生で食べると発症することがあります。オコゼ、ヒラメにはいません。本来、イルカ、クジラの寄生虫で人間の体の中では、長く生きられませんが、胃、小腸、大腸の壁内に入り、炎症を起こします。
 日本海側の冬は近海漁業が中心で生で食べるお魚においしいものが多く、アニサキスが多く、太平洋側では遠洋漁業が多く、冷凍している魚が多いため、発症が少ないといわれます。
 予防はイカ、サバを−20 ℃で24時間冷凍するか、加熱すれば、虫は死にます。締めサバでは虫は死にません。人体内にアニサキスが入ったからといって、必ずしも発症するわけではなく、運が悪ければ、発症します。体調が悪いときは生食を避けてください。
 治療は内視鏡で虫体を摘出するか、保存的に経過をみます(虫は₃日生きます)。手術することもありますので、病院を受診したら、食べたものをお話しください。しかし、生のプリプリのイカ、アジ、サバはおいしいですよね。悔しいけれど。

平成22年10月 村上 篤信


腹痛について

 皆さんは、急にお腹が痛くなって救急病院や当番医を受診されたことはありますか。夜間や仕事中は「これくらいの痛みなら我慢しよう」とか「何日か様子みて治らなければ病院にいこう」と考える方は少なくないと思います。ただ単に、腹部といっても、診断するときに₉等分に分けて考えるほど病気は多岐に及び、上腹部に至っては狭心症や心筋梗塞などの胸部疾患も隠れていることがあります。
 腹痛を訴えている患者さまを診察するときには、まず、痛みの部位(移動部位・放散部位も)、質や程度、嘔吐や便秘・下痢、排尿異常など関連症状の有無をチェックします。次に、急激なものか徐々に発症したか、持続的か間欠的か、どんなときに痛みを感じるか、増悪しているか、変わらないかといった時間的経過をみます。また、以前にも同様のエピソードがあったか、誘因としてアルコール、高脂肪食、サバなどの海魚生食の摂取、服薬中の薬剤(消炎鎮痛剤やステロイドホルモンなど)、手術や病気の既往、歩行や体位による変化があったかをきいていきます。女性の場合には妊娠の可能性、婦人科疾患なども考えておかれるとよいでしょう。
 緊急を要する病気として、胃・十二指腸潰瘍穿孔などの消化管穿孔、腹部大動脈瘤や子宮外妊娠などの臓器破裂、腹膜炎を伴うほどの重症の急性虫垂炎、急性胆嚢炎や膵炎、胆石発作、急激な血行障害が原因の腸間膜動脈閉塞症、腸捻転、腸閉塞、卵巣嚢腫茎捻転などがあげられます。
 緊急を要する腹痛においては
①突発的で激烈か(突然発症したか、うずくまるなどの体位か、冷や汗を伴っているか)
②痛みが増悪しているか
③今までに経験したことがない痛みかがみるポイントとなります。
 しかし、基本的には、気になる症状が少しでもあるのなら、無理せず早めに医療機関を受診するようにしましょう。

平成22年6月 越智 伸子


誤解のないよう 「大腸がん検診」

 患者さん  「便通が悪いんです」。 私 「 大腸内視鏡検査をしてみませんか」。「『大腸がん検診』で異常なかったのです が検査をしないといけませんか」
 私の診察室で、しばしばこういった会話のやりとりが行われます。 「大腸がん検診」 で異常なければ本当に大腸がんの心配はないのでしょうか。 ここで気を付けなければいけないのは、一般に行われている 「大腸がん検診」 とは、ただ単に便に出血の反応があるかないかを調べるだけの検査で、がんの有無が分かる検査ではないということです。便に出血の反応がない大腸がんはたくさんありますので(私の病院では大腸がんの人の約35パーセントは便に出血の反応がありませんでした)、 「大腸がん検診」 で異常なしとされても大腸がんであることはしばしばあります。また、便に出血の反応があっても大腸がんとは限りません。私の病院で 「大腸がん検診」 で異常ありとされた方の大腸内視鏡検査結果は、最も多いのは痔(48.2パーセント)で、大腸がんの割合は1.5パーセントでした。そのほか、良性ポリープ(13.1パーセント)、潰瘍性大腸炎(0.5パーセント)、直腸炎(0.5パーセント)などが見つかっています。
 このように 「大腸がん検診」 で異常なしであっても大腸がんである可能性はありますし、異常ありとされてもがんでないことの方が多いのです。こういった実情をよく理解されて、 「大腸がん検診」 という言葉の意味を誤解しないようご注意ください。
 なお、私の病院で大腸がんが発見された方の大腸内視鏡検査をするきっかけとなった症状は、便潜血陽性(21.7パーセント)、便に血がついていた(17.0パーセント)、腹痛(14.0パーセント)、なんとなくお腹の調子が悪い(15.5パーセント)、慢性下痢(14.0パーセント)、便が細い(5.4パーセント)でした。この結果を参考にされて 「大腸がん検診」 で異常ありとされた方はもちろん、こういった症状のある方は、勇気を出して大腸内視鏡検査を受けましょう。そして大きな安心を得ましょう。

平成22年4月 平林 靖士


ヘリコバクター・ピロリと消化性潰瘍

 最近、テレビや雑誌などでもよく目にするのでご存知の方も多いと思いますが、ヘリコバクター・ピロリ(Helicobacter pylori)は胃の粘膜に生息している細菌の一種です。らせん状(ヘリコ)の細菌(バクター)で、胃の出口付近の幽門(ピロリ)に好んで住みつくため、この名が付けられました。大きさは約3μm(マイクロメーター)で、4~7本の鞭毛を持ち、この鞭毛により胃粘膜層に潜り込み、胃にいろいろな障害を与えるとされています。感染経路ははっきりとしていませんが、人から人への経口感染が大部分であろうと考えられています。
 ピロリ菌に感染すると、さまざまなメカニズムにより慢性胃炎を引き起こします。消化性潰瘍に関しては、この菌による発生のしくみはいまだ完全には解明されていません。しかし、胃・十二指腸潰瘍の患者さんの90パーセント以上がピロリ菌に感染しており、除菌療法により著明に再発が抑制されていることから、潰瘍の発症にピロリ菌が大きく関与していることが明らかになっています。さらに最近の研究では、ピロリ菌は胃癌の発生にも大きな原因の一つとなっていることが分かってきています。
 ピロリ菌の検査方法は、 ①内視鏡で胃粘膜組織を採取する。 ②呼気(吐く息)中の二酸化炭素の量を測定する。 ③血液検査・・・などがあります。 ピロリ菌に感染した全ての人が潰瘍を発症するというわけではないですが、胃痛や胃部不快感などの症状をお持ちの方、また以前、胃潰瘍や十二指腸潰瘍にかかったことのある方は、一度医師にご相談の上、検査をおすすめします。

平成21年月 木原 晃


大腸がん検診について

 大腸のどこかから出血すると、便の中に血液が混入します。出血が多い場合には、赤い血便すなわち肉眼的血便となります。しかし出血が少量の場合には肉眼では見えません。便潜血検査で、がんやポリープからの出血の有無を診断します。この検査は大腸がん検診の一次検査や下部消化管疾患のスクリーニング法として用いられています。
 便の採取法は、便の表面をこすり取る方法や、スティック状の小さな棒を便に挿して取る方法があり、1日1回ずつ2日間続けて採取する「2日法」が主に用いられています。
 検査が陽性の場合は、大腸に何らかの病気がある可能性がありますので、すみやかに精密検査を受けてください。内視鏡検査が一番正確ですが、何らかの理由により内視鏡検査が受けられない場合にはお尻からバリウムを入れる注腸X線検査という方法もあります。
 便潜血検査はポリープやがんの場合は、それがある程度大きくないと陽性になりません。陽性の場合でも、必ずしも大腸がんとは限りません。精密検査の結果、大腸がんと診断される人は0.1~3パーセントで、そのうち約半数が早期がんです。早期がんは、ほぼ100パーセント治りますので便潜血検査が陽性にでたからといって不安に思うことなく精密検査をぜひ受けてください。
 生活習慣の変化や食事の欧米化によって、近年大腸がんの罹患率は急激に増加しています。早期発見、早期治療のため定期的に検診を受けましょう。

平成21年 3月 竹内浩紀


内痔核(いぼじ)の新しい日帰り治療法-ALTA注射療法について-

 内痔核は俗にいぼじと呼ばれる病気です。肛門の内側にある静脈叢と呼ばれる、小さな血管の集まりがはれてくるために発生します。
 内痔核の発生原因は生活習慣が密接に関連しています。例えば、1.冷え、2.長時間の同姿勢、3.無理ないきみや5分を超える長い排便時間、4.飲酒、刺激物の過剰摂取、5.便秘や下痢のくり返し、などがあります。これらを長年続けていると、しなやかだった静脈叢が朽ちたゴム風船のようになり、内痔核が発生します。内痔核はやがて肛門の外側に出てくるようになります。これが俗に脱肛と呼ばれる状態です。
 脱肛の段階になると坐薬や軟膏での改善が望めないため、以前であれば手術を行う必要がありました。 平成17年に認可されたALTA注射療法はこの段階の内痔核に非常に効果があり、日帰り治療が可能です。ただし、ALTA注射療法には以下の注意点があります。1.注射手技が複雑であるため、講習で技術修得した医師しか行うことができません。2.肝、腎疾患がある場合にはこの治療を受けられないこともあります。3.外痔核には効果がありません。4.合併症の発生率は少ないのですが、手術と同等の注意が必要です。
 ALTA注射療法を必要とする脱肛は内痔核全体の1割以下です。9割の内痔核が生活習慣の改善で、上手につき合うことができます。肛門科、外科は受診しづらいイメージがあると思いますが、Eメールでの相談やレディース外来などの受診しやすい環境への取り組みに努めています。まずは専門医と良く相談し、ご自分にあった治療法を見つけることが大切です。

平成19年10月 大西五郎

感染性胃腸炎

 暖冬からそのまま春がやってきました。この冬、インフルエンザに代わって、感染性胃腸炎にかかった方が多く受診されました。突然に始まる嘔吐、下痢、腹痛などの症状で苦しい思いをされた方が多かったと思います。嘔吐や下痢で消化液が失われると、水分とともに電解質も失われて脱水症が進行し、急激に全身状態が悪化します。乳幼児や高齢者では生命の危機となることが少なくありません。
 感染性胃腸炎の原因はノロウイルスだけではありません。ロタウイルスやエンテロウイルスも検出されます。ウイルス以外にもカンピロバクターや腸管病原性大腸菌そのほか多くの病原体があります。これらの病原体は診察室で患者さんを診察しただけではわかりません。症状や診察所見、直近に食べた食品、周辺地域での流行状況などを参考に治療を開始すると同時に吐物や便などを検査室で検査して初めて決定できるのです。この間に一日ないし数日を要します。
 「ノロウイルスによる感染性胃腸炎で…」と最初に病原体の名前を冠した表現で報道されることが多かったので、最初の診察時に病原体の名前を明らかにできないと、「ノロウイルスでしょうか」と不安な表情を見せられる方が少なくありませんでした。でも、まずは治療を受けられることをお勧めします。早く受診し、経口補液や点滴などで脱水を解決するための対応をすることが大切です。

平成19年4月 小松紀子


逆流性食道炎

 ゴールデンウイークも過ぎはや6月。草引きに精を出すうちに口内に酸っぱい液が上がって来た方やゴールデンウイークの暴飲暴食、ゴロ寝で胸やけがした方、お耳を拝借。それは逆流性食道炎の症状かもしれません。
 食道と胃のつなぎ目にある胃液の逆流を防ぐ機能が果たせなくなると、食道内に胃液が逆流して食道が荒れ、胸やけが起こります。この状態が逆流性食道炎です。症状には胸やけ・つかえ感・飲み込みにくさ・口内の酸味や苦みのほか、消化器以外の病気の症状と区別しにくい胸痛(循環器)・のどのイガイガ感(耳鼻科)・しつこい咳(呼吸器)などもあります。治療は胃液の逆流や分泌をおさえる薬物療法が主体ですが、手術によって逆流を防ぐ方法もあります。
 日常生活での注意点は暴飲暴食、早食いや、たばこを控えましょう。揚げ物など油っぽい食品、お菓子などの甘い物、柑橘類やイチゴなどの果物、ネギや玉ネギなどの野菜、香辛料、炭酸飲料などの胸やけを起こしやすい食品を控えめに。前屈みの姿勢、きついベルトやコルセット、便秘などによるお腹の圧迫をさけ著しい肥満は改善しましょう。「食べてすぐに寝ると牛になる」と言われますが、食後数時間以内に横ばいになると逆流を起こしやすいのでご注意を。また夜間は上半身を少し起こして休むと効果的です。気になる症状がある方は、早めに診断を受けましょう。

平成18年6月 片山素美


便秘について

 便秘症で悩んでおられる方は案外多いものです。排便の回数は人によっていろいろで1日2~3回の人から2~3日に1回くらいの幅に広がっています。1日3~4回でもあるいは3~4日に1回でもそれが長年の排便習慣で、全く苦痛がなければ便秘と考えなくてもよいでしょう。しかし、便秘薬を使わないと出ないとか、2日に1度でも腹がはって苦しくなるなどという場合は便秘として治療した方がよいでしょう。すぐ医師を受診した方がよいのは、1)最近急に便秘になってきた。2)変形した便が出るようになった。3)便に血がまじるようになった場合です。このような場合は直腸癌、大腸癌の心配がありますので、必ず受診してください。痔と思っても最近治療を受けていない場合は1度みてもらうのが安全です。痔があって一緒に直腸癌も合併していることが稀ではないからです。便が出なくなって、強い腹痛が出てきたとき、あるいは吐気が起こってきたときは腸閉塞(イレウス)の心配がありますので急いで受診してください。長期にわたって便秘が続いている場合は習慣性便秘や過敏性腸症候群のことが多いので、排便をスムーズにするために、食事や日常生活習慣、薬の使い方など専門医の指導が必要になります。また他の病気で服用している薬の副作用で便秘になることがありますので、気になるときは薬をもらっている医師によく症状を伝えて対策をたててもらってください。

平成16年5月 高山雄次


C型慢性肝炎とインターフェロン最近の話題(1)

 C型慢性肝炎は、ウイルスによる軽い炎症が肝臓に持続することで、放置すると長い経過のうちに肝硬変や肝癌の発症に至るという進行プロセスがほぼ決まっている病気です。
 C型肝炎ウイルスは、感染原因が不明な場合も多く、日本では約200万人の感染者がいると推定されていますが、自覚症状がないため約半数の人は自分が感染していることを知らないのが実情です。
 最近、健診の項目にC型肝炎ウイルスの抗体検査が加えられ、肝臓病変の進行していない段階で早期発見される方が増えてきました。抗体が陽性であれば、ウイルスがまだ体内に存在しているのか、それとも既にウイルスが排除され、C型肝炎が知らないうちに治癒した後なのかを、さらに血液検査で調べます。体内にウイルスの存在が確認された場合、肝機能障害を伴っていれば積極的な治療を検討することになりますが、たとえ肝機能検査が正常であっても、ウイルスの性質上、定期的なチェックは欠かせません。
 約10年前よりC型慢性肝炎の治療にインターフェロンが使われてきましたが、投与期間や回数の制限があり、また、日本ではインターフェロンの効きにくいタイプのC型肝炎ウイルス感染者が多く、ウイルスが消失しC型慢性肝炎の完全治癒に至る方は30パーセントに留まっていました。しかしながら、これまでの臨床データの検討により、インターフェロン治療後ウイルスが消失せず、肝炎が再発した人でも、未治療の人に比べると明らかに肝硬変への進行や肝癌の発生を抑制できていることがわかってきました。
 次回は、この一年余りで急速に進歩しているC型慢性肝炎に対するインターフェロン治療の現状についてお話したいと思います。

平成15年5月 井戸英司


C型慢性肝炎とインターフェロン最近の話題(2)

 C型慢性肝炎の治療目的にインターフェロンが使用され、すでに10年以上が経過していますが、この1 年余りの間に、インターフェロン療法は驚くほどの速さで進展しています。インターフェロンと抗ウイルス薬の併用療法やインターフェロン製剤そのものの改良に加え、インターフェロンの使用期限や使用回数の制限も撤廃されました。患者さんの年齢や病状の進行具合、ウイルスの量やタイプに合わせて、投与するインターフェロンの種類と量、投与期間、併用薬などを組み合わせ、その患者さんの治療目的にベストの投与法を選択できるようになっています。また、これまでのデータの蓄積から、C型慢性肝炎に対するインターフェロン療法の目的そのものも変化しています。
 C型慢性肝炎の治療では、ウイルスを肝臓から排除することが確かに理想ではあります。ウイルスの永久的な排除に成功すれば、慢性肝炎を完治させることができます。インターフェロンの長期投与が可能となり、今後この慢性肝炎の治癒率の向上が期待できます。一方、ウイルスが消失せず完治しない方でも、インターフェロン投与中ウイルスの活動を抑えつけることと、肝臓の線維化の改善効果で、慢性肝炎をほぼ正常の肝臓に、肝硬変の一歩手前の肝臓を通常の慢性肝炎の状態に引き戻すことが可能で、肝硬変や肝癌への進行を抑制できることがわかってきました。実はこの肝癌への進展抑制こそ、インターフェロン治療の第二の大きな目的といえます。この目的のため、通院でのインターフェロンの少量長期投与( 1 ~ 2 年以上)も行われ、またごく近い将来、週1回投与ですむインターフェロンも使用可能になります。C型慢性肝炎を完治させる目的か、または完治は期待できないまでも、将来の肝硬変や肝癌への進展を抑える目的か、個々の患者さんの病態と治療目的に合わせて、インターフェロンをより有効に活用できる状況になっています。

平成15年6月 井戸英司


過敏性腸症候群について

 過敏性腸症候群とは、腸管の働きの異常に基づいて、便通異常とともに腹痛・腹部不快感・膨満感などを感じる病気です。便通異常の状態により、慢性下痢型、慢性便秘型、便秘・下痢の交替と腹痛などの症状を有する不安定型などに大別されます。患者さんの70パーセント位は10~20才代の若いころに発病し、男子は下痢型が多く、女子は便秘型が多い傾向が認められます。この病気は、腸管の運動や緊張の亢進、全身的な自立神経失調の傾向などが主な原因と考えられていますが、食事性の要素(暴飲暴食、冷たいもの、揚げもの、繊維の多い食品、アルコール類など)、身体的な要素(過労、感冒、体の冷え、手術など)、情緒性の要素(環境の変化、不安、緊張、対人関係など)などにより増悪する事が分かっています。
 この病気は、この病気に特徴的な症状があり、まず第一にこの病気が考えられる事と、他に器質的な病気がない事の確認があって、診断されます。他の器質的な病気には、消化管のほかの病気(炎症性疾患や腸管の異常や腫瘍など)、膵臓の病気、寄生虫・原虫や細菌による病気、内分泌疾患(甲状腺の病気など)、下剤連用による症状などがあります。
 以上の様な症状や苦痛をお感じの方は、主治医の先生に詳しく相談され、この病気と分かったときは、精神的要素、食事療法、生活面(規則正しさ、適当な運動、休養、睡眠など)などに注意し、場合により自分の症状にあったお薬を調製していただいて、出来るだけ快適な生活が送れたらと思います。

平成14年12月 鈴木  孝


痔について

 痔で悩んでいる方も多いと思いますので、生活上の注意点や治療法についてお話します。便秘や長時間のたち仕事、妊娠などで肛門に圧力がかかり、このため肛門の静脈がうっ血して拡張したものが痔です。一般的には肛門の中にできた内痔核のことをいいます。最初は痛みがなく症状は排便時の出血のみですが、ひどくなってくると痛みを伴うようになります。さらには、排便時に肛門の外に出た痔が元に戻らなくなることもありますが、この場合は激しい痛みを伴います。
 痔をひどくしないためには、(1)排便後には肛門を洗浄して清潔に保つ(2)便秘や下痢などをしないように便通を整える(3)消化のよいものを食べ、アルコールや香料などの刺激物を避ける、などに注意してください。
 痔がだんだんひどくなり、肛門の外に出てくるようになると、手術が必要になります。以前は、麻酔をかけて痔を取り除く手術(結さつ切除術)が主に行われてきました。しかし最近では、痔の状態に合わせていろいろな方法が行われるようになってきました。痔の中に血管を固める薬を注入する硬化療法、痔をゴム輪で縛るゴム輪結さつ術、痔を凍結させる凍結療法などです。また、特殊な器具を用いて痔を取り除く方法も開発されました。治療法の選択肢が広がり、患者さんの負担も軽くなってきています。
 痔の症状は非常にわずらわしいものです。前に述べた注意点に気をつけることが大切ですが、ひどくなるようであれば、早めに外科の病院で診察を受けてください。

H13年10月 加賀城 安


意外と多い慢性膵炎

 近年、食生活の変化や飲酒、ストレスなどの影響もあり、慢性膵炎の患者さんが意外と多いと感じられます。
 自覚症状としては、上腹部痛、背部痛、腹部膨満感、悪心、便通異常(特に消化不良や下痢)、体重減少などのうち、一部またはかなりの部分と言うことになります。上腹部痛、背部痛については、普段は全く痛まないものから、比較的頑固な腹部膨満感、鈍痛、激痛に至るものまでいろいろです。また、他の症状についても良かったり悪かったりという波があり多彩です。振り返ってみれば、過食や飲酒、ストレスなどにより悪化することが多いと、自分で感じている人には、ある程度の可能性があろうと言うことになります。
 診断、検査としては、血中、尿中での膵酵素-アミラーゼ値などの測定、超音波検査、CT検査などいろいろあります。しかし、軽度、中等度の慢性膵炎の場合、なかなか有意な所見が得られず、簡単には確定診断が行えないことも多い状態です。
 持続したり、また、改善と悪化を繰り返す腹部膨満感、上腹部痛、悪心や時々の下痢の症状を持ち、過食や飲酒、ストレスなどにより時々悪化し、慢性胃炎や過敏性腸症候群(慢性下痢型)の内服治療をしても、もう一つ改善しない方は、慢性膵炎の可能性を考えてみる必要もあります。慢性膵炎と判明すれば、食事療法、日常生活上の注意、内服治療により、症状は改善しますが、油断すればまた悪化することもあります。病気とうまくつきあう方法とある程度の辛抱とが必要となります。
 心当たりのある方は、医師と相談してみて下さい。

平成11年9月  鈴木 孝


胃食道逆流症について

 最近、胃酸などの胃内容物が食道に逆流する胃食道逆流症という病気が大変注目されています。食道裂孔ヘルニアや胃の伸展刺激、胃からの食べ物の排泄遅延などが原因として考えられています。胸やけや胸痛が主な症状ですが、皆さんの中にもこのような症状を自覚している方はかなり多いと思います。
 治療としては、主に胃酸が逆流するため胃潰瘍や十二指腸潰瘍と同様に胃酸分泌抑制剤の内服が中心に行われますが、多くの場合これで症状は改善されます。しかしながら、いくつかの日常生活で注意しておくとよいことがあります。①便秘、肥満、きつめのベルトやコルセットの着用、長時間の前かがみ姿勢などは腹圧を上昇させ逆流を起こしやすくなります。②早食い、大食い、夜食を控える。③ビールやシャンパンなどのアルコール類は胃を膨らませるため控える。④脂肪分の多い食事、香辛料、コーヒー、穀物類、タマネギ、かぼちゃ、トマト、甘味の強い食べ物は胸やけを起こしやすくなります。⑤横になると胸やけがする場合には上半身を高くするなどです。
 現代の生活習慣を考えても、胃食道逆流症は今後ますます増えてくると思います。症状のある方は日ごろ先に述べたようなことに注意し、症状が強くなるようであれば、医師に相談して下さい。

平成11年6月  加賀城安


胃を切った人の食事

 よく残った胃はひろがって元の大きさに戻るのかという質問をうけますが、残 念ながら大きさは変わりません。その代わり十二指腸や小腸がその働きをするので大体1年くらいで家族と同じくらいの食事が出来るようになります。現在は胃の病巣に応じて必要最小限の切除をするようになりましたが、次に一般的な胃を切った人に起こる障害とそれに対する食事法をお話します。
 栄養障害:胃を切ると5kg前後は体重が減少します。術後は1回の食事量を健康な人の1/2から2/3くらいに回数と時間を増やし、量の不足を質でカバーするよう心掛けます。蛋白質を中心に栄養価の高い食品を選びましょう。
 ダンピング症候群:食べ物が急速に小腸に移動するため、腹部不快・嘔き気・下痢・動悸・冷汗などの症状がおこります。1回の食事量を少なくし糖質の過食を避け、頻回に食べる事です。食後2~3時間後の低血糖発作には飴などをしゃぶることをすすめます。
 貧血:鉄の吸収障害により鉄欠乏性貧血になります。レバー・貝・肉類・卵黄などで補います。また術後数年でビタミンB12の吸収障害から巨赤芽球貧血になることがあります。治療としてはビタミンB12の注射が有効です。
 腸管癒着症:これは腹部の手術をしたすべての人におこる可能性があります。消化のよい柔らかい調理をし、温かいものを選び、回数を増やします。コンニャク・コンブ・スジ肉などは避け、繊維の長いもの・きのこ類などは細切れにしてとるようにした方がよいでしょう。

平成10年5月 黒河達雄


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