産婦人科


月経痛我慢しないで(月経困難症と子宮内膜症)

 月経(生理痛)を訴える女性は多くいます。 月経痛の中でも日常生活に支障を来し、治療の対象となるものを月経困難症といいます。 下腹痛、腰痛、頭痛、疲労感、食欲不振などのさまざまな症状により、QOL(生活の質)を損ない、日常生活に多大な影響を与える疾患です。 月経困難症には生殖器に異常が認められない機能性のものと、子宮内膜症、子宮腺筋症、子宮筋腫などの器質性によるものがあります。最も頻度が高く、代表格の子宮内膜症について述べます。
 子宮内膜症はダグラス窩(骨盤内腹膜)や卵巣が好発部位で、月経のたびに症状がひどくなります。
 機能性の場合は鎮痛剤で対応すればよく、内膜症の場合は諸症状のほか不妊や子宮内膜症性卵巣嚢胞(チョコレート嚢胞)の原因となるので、早期の治療が望まれます。チョコレート嚢胞には、悪性変化の心配が加わりますが多くの女性は月経痛を軽くみて、また、羞恥心のため、なかなか専門医を受診しない傾向にあります。
 治療は妊娠予定のない時期に行うべきで、鎮痛剤による疼痛管理を主とした対処療法とホルモン剤(いい薬がたくさんあります)を用いた内分治療法があり、場合によれば手術療法も考えなくてはなりません。 月経痛を我慢せず、早めの産婦人科受診をお勧めいたします。

平成25年8月 武内國太


子宮頸がん予防ワクチン

 子宮頸がんとは、子宮の入口付近にできるがんで、ヒトパピローマウイルス(以下HPV )の感染が原因といわれています。HPV は皮膚や粘膜に存在するありふれたウイルスで、主に性交渉によって感染します。性交経験がある女性の約80パーセントが一生に一度は発がん性HPV に感染するといわれていますが、その大部分は体内から自然に排除されるため、子宮頸がんになるのはごく一部の人です。しかし、日本では毎年15,000人がこのがんに罹患し、3,500人もの人が命を落としています。また、性交渉によるウイルス感染が原因のがんのため、若い年代で多く、20~30代の女性では最も多いがんです。この年代で子宮にがんを発症するということは、命を落とすまでいかなくとも、妊娠出産に影響を及ぼしてくる可能性があるので、ワクチンによって発がん性HPV の感染を予防することは、大きな意味があると考えられています。ワクチン接種は、初回性交前が最も効果的なので、現在日本では、中学1年生から高校1年生(今年度のみ高校2年生も)までに公費助成が行われ、順次市町村から案内が届けられています。助成対象以外の年齢でも、10歳以上の女性は接種可能ですが、現在はワクチンが不足しており接種が可能になる時期は未定です。また、接種した後でも定期的な子宮がん検診は必要とされ、各自治体では、20歳以上の女性に対して子宮頸がん検診を実施しています。詳細は、各自治体や医療機関にお問い合わせください。

平成23年10月 吉良佳世


子宮頸がん検診を受けましょう

子宮頸がんは子宮頚部に発生するがんです。 子宮頸がんは、婦人性悪性腫瘍のなかでは最も多いがんであり、わが国では年間約7,000人が罹患しています。
 子宮頸がんの発生原因が、性交渉によるヒトパピローマウイルス(HPV)の感染によることが発見され、このHPVを世界で初めて報告したハウゼン博士は2008年ノーベル医学生理学賞を受賞しました。HPV感染防止に有効なワクチンも開発され、日本ではこの12月からワクチン接種が可能となります。
 近年日本では性体験の若年化にともない20歳代、30歳代の子宮頸がん罹患者数が急増し、39歳以下では女性のがんの発生第1位は子宮頸がんです。そのため子宮頸がん検診対象年齢が2004年から従来の30歳から20歳に引き下げられました。ただ、残念なことに、欧米諸国の子宮がんの検診率は50パーセント以上に対し、日本での検診率は24パーセントと低率です。
 子宮頸がんは早期発見すれば必ず完治する病気です。また、子宮頸がん検診によりがん病変だけではなく、がんの前段階である前がん病変も発見が可能です。以上のことから、女性の方は2年に1回は子宮がん検診を受けてください。
 詳しくは、今治市保健センターに相談(0898-36-1533)してください。

平成21年12月 井上康広


月経(生理痛)について

 月経時の症状には局所症状として、下腹部の重圧感、膨満緊張感、痛み、全身症状として倦怠感、頭痛、吐き気などがあります。その中でも異常に強い痛みや、全身症状を伴い日常生活に支障をきたすものを「月経困難症」といい、全体の40パーセントにものぼっています。毎月起こる月経痛はつらいものです。そこで少しでも快適な生活が送れるように鎮痛剤を上手に使うことをお勧めします。
 鎮痛剤は痛みを抑える薬ですが、実際に痛くなってしまって飲むよりは痛くなる前(痛くなる前兆があったら)に飲む方がよく効きます。市販の鎮痛剤で治まらなければ、病院で処方してもらうとよいでしょう。そのほか漢方薬や低用量ピルも効果があります。薬は癖になると思っている人もいるようですが、正しい量や飲み方を守れば安心して飲んで大丈夫です。また、薬を飲むと共に血液の循環を良くし、うっ血の予防をしましょう。
次の方法は痛みを和らげるのに効果があります。
1.適度な運動(マンスリービクス)
2.お腹を冷やさない
  ● 温かい食事や飲み物を取りましょう
  ● 下着、腹巻、ソックスなどで下半身をガードしましょう
  ● 冷房に気をつけましょう
3.就寝前にゆったりとお風呂に入る(リラックス効果もあります)
4.トイレを我慢しない
5.きついガードルやジーンズ、 窮屈な靴は履かない
6.肉体的、精神的リラックスを心掛け、規則正しい生活を送 りましょう。
※痛みがひどくなる、違う痛みがある、出血量が増えてきたなどの場合は、他の病気(子宮内膜症など)が潜んでいる場合がありますので、 なるべく早めに婦人科を受診してください。

平成19年8月  吉良敏彦


若年女性の月経不順

 日常の外来診療の中で、月経不順を主訴に受診される10代、20代の女性が増えているような気がします。初経を迎え、いったん順調に来ていた月経が、停止したり不規則になったりするということは、妊娠を除いて正常な状態では考えられません。原因としては、精神的なストレスであったり、過度のダイエット、逆に急激な体重増加などが考えられますが、特に思い当たる原因がない場合もあります。いずれにしても、順調であった月経が、三か月以上停止したり不順である場合は、産婦人科を受診した方がよいと思われます。来院される人の中には、半年もそれ以上も放置していたという場合も少なくありません。月経不順は、不順期間が長ければ長いほど、治療に時間がかかることが多くあります。重症の場合には、治療を重ねてもなかなか排卵に至らないこともあります。月経がない、または不順なまま放置してはいませんか。早めに検査・治療を行えば、短期間で完治できることが多いものです。心配な方は、早めに産婦人科の受診をお勧めいたします。

平成17年12月 吉良佳世


ベビーマッサージ(楽しい子育てへのひとつの入り口)

 子育てとは、本来この上ない大きな喜びをもたらすはずのものです。しかし、ストレスが多く、孤立しがちな現代の生活の中では、苦痛を感じることも少なからずあるようです。
 親子関係は、愛着行動(アイコンタクトをとる、話しかける、笑いかける、歌う、キスをする、撫でるなど)によって強められていくといわれています。生まれたばかりの我が子を胸に抱き、肌と肌を密着させることに始まり、「触れる」という行為は親子双方が「気持ちよく」感じ、心を安らかにすることができます。ベビーマッサージによってその「触れる」ことを日常的に繰り返していると赤ちゃんの出す信号を敏感に察知し反応して自信を持って赤ちゃんの世話ができるようになります。赤ちゃんは、両親の反応を敏感に受け止めます。そして、お互いに深い愛情を育むことができるのです。近年、日本でもベビーマッサージが広く知られるようになってきました。専門の資格を持ったインストラクターのいる施設もあります。ベビーマッサージは、赤ちゃんに対する効果だけでなく、母親の産後のうつ状態を回復し、ふだん接触が少なくなりがちな父親にとっては、親子の絆を強める重要な役割を果たしています。ご家庭で、始めてみてもいいでしょう。また、マッサージクラスに参加してみれば、より効果的な手技を学ぶこともできるし、お母さん、お父さんの輪も広がり、より楽しい子育てにすることができるかもしれません。

平成17年11月 吉良佳世


更年期ってな~に(その1)更年期症状について

《更年期をイキイキと快適にすごしましょう》

〈更年期とは〉-更年期で変わる心と体-
 卵巣の機能は45歳ころから閉経までの50歳までに次第に低下してゆきます。そのため卵巣から分泌される女性ホルモンが減少し、その結果、身体面や精神面に影響が出てきます。この時期が更年期です。
 更年期の一番はっきりした変化は月経にあらわれます。45歳をすぎると多くの女性に月経周期の乱れが起こり、同時に出血が減少したり、増大したりします。
〈更年期症状とは〉
 更年期症状のあらわれ方はさまざまであり、たいていは何種類かの症状が同時に起こります。症状も軽度のものから、疲労感のため起床できないなどの重症まで多様に認めます。更年期症状は、軽い人も含めて約80パーセントの女性が経験するといわれています。具体的例は以下のとおりです。
◎身体的症状 顔のほてり・のぼせ・冷え・頭痛肩こり・めまい・動悸
◎精神的症状 ゆううつになりやすい・いらいらする・眠れにくい
 これらの不快な症状は、適切な治療を行うことで消失し、その結果、快適な生活を送ることができます。
 最近、50歳代女性の20パーセントの人が、更年期のことを「あまりよく知らない」と答えたという報告がされました。更年期症状のため不快な生活を送る女性がいるとしたら、非常に残念なことです。
 次回は更年期症状の診断、治療についてお話しする予定です。

平成15年12月 井上康広


更年期ってな~に(その2)更年期障害の診断、治療について

《更年期をイキイキと快適にすごしましょう》

〈更年期障害の診断〉
 婦人科外来では、前回お話したさまざまな不快な症状が、更年期障害によるものなのか、あるいは生活習慣病やうつ病などの他の病気が原因なのかを診断するために、問診と診察、血液検査を行います。血中の女性ホルモン値が低下していれば、現在の症状が更年期障害由来である可能性が高くなります。
〈更年期障害の治療〉
 更年期障害の治療は以下の3 通りです。
◎ホルモン補充療法
 更年期特有の症状は女性ホルモンが減少することによりおきます。ホルモン補充療法は不足している女性ホルモンを補い、体の急激な変化を防ぐことで更年期障害を治す方法です。この療法は、症状を根本から治す治療であり、欧米では40年前より広く行われてきました。また老人の骨折の原因の一つである、骨密度が低下する骨粗鬆症にも有効です。
◎漢方薬療法
 更年期障害は体内の調和の乱れから発生するという東洋医学の考えにもとづき、漢方薬を症状に合わせて処方する治療方法です。この方法は効果がでるまで時間がかかりますが、副作用が少なく、有効な治療法の一つです。
◎対症療法
 更年期を乗り切る方法の一つとして、生活習慣の見直しがあります。バランスのとれた食事と適度な運動を行い、人生を前向きに考えることで崩れていた心身のバランスを改善し、不快な症状を落ち着かせることができます。
 以上の方法を組み合わせることにより、更年期をイキイキと快適にすごすことができます。

平成16年2月 井上康広


麻酔分娩について

 陣痛の痛みをなくすために麻酔を使うお産が最近増えてきました。これは麻酔分娩といい、今日では硬膜外麻酔を使うお産が主流となっています。
 硬膜外麻酔分娩とは:お産が始まると、妊婦さんの背中から硬膜外腔という隙間に管をいれておきます。そこへ麻酔薬を注入すると、陣痛がきても痛みが消えてしまい、妊婦さんはまったくといっていいくらい痛みがないお産をすることができます。
 この麻酔効果により骨盤内の筋肉はすべてゆるんでしまいます。そのため赤ちゃんは広がったやわらかい筋肉の筒の中を通ってでてくるので、お産の時間は半分に短縮されます。赤ちゃんも疲れないのでとても元気です。また陣痛の痛みからくる血圧の上昇を防ぐこともできるので、血圧の高い妊娠中毒症や心臓病の妊婦さんには最適の分娩方法となります。この硬膜外麻酔は分娩時の鎮痛に用いられる方法の中で最も効果的とされており、妊婦さんは意識清明でお産に参加できます。
 このような長所を持つため、15年前から欧米諸国でも硬膜外麻酔分娩が多く実施されはじめました。現在アメリカでは約3分の1(33パーセント)の妊婦さんが麻酔分娩でお産をしています。日本でも大都市を中心にだんだん麻酔分娩を選択する妊婦さんが増えてきています。

平成15年7月 井上康広


不妊症

 不妊症とは、結婚後正常な夫婦生活があって一定期間(約2年)たっても赤ちゃんに恵まれない状態をいいます。妊娠が成立するには、①正常な精子が②性交により膣内に射精され③子宮内に進入し、一方④卵巣から排出された卵子が⑤卵管の中に取り込まれ⑥その精子と卵子が受精し⑦受精卵は適切な分裂を行いつつ卵管内を通過して、子宮内に入り、子宮内膜に着床するという連続した過程が適切に行わなければなりません。不妊症はこの過程のどこかに異常をきたしていると考えられます。
 主な原因としては、精子の数が少ない精子減少症、精子の動きが悪い精子無力症などの男性因子、卵管の通過性に問題のある卵管閉塞、卵巣から卵子が排出しない排卵障害、精子と卵子が受精しない受精障害、受精した卵子が子宮内膜に着床しにくい黄体機能不全などが考えられています。
 不妊症の原因がどこにあるかを検査(基礎体温、子宮卵管造影、ホルモン検査、超音波検査、精液検査、腹腔鏡など)し、適切な治療を行います。男性が原因の場合、女性が原因の場合、両方が原因の場合がそれぞれ3分の1といわれています。
 治療法としては、通水、排卵誘発剤、人工授精、黄体機能刺激剤、手術療法などがあります。近年、特殊な不妊治療として体外受精・胚移植法が行われるようになりました。
 次回はこの体外受精・胚移植法についてくわしく説明します。

平成14年3月 加川俊明


体外受精・胚移植について

 体外受精とは、体の外で卵子と精子をあわせ受精させることであり、胚移植とはその受精し分割した卵子、すなわち胚を子宮内に注入(移植)することです。つまり、自然の過程では卵管内で起こるはずの受精と分割の初期の過程を、体外の培養器の中で代行するものであり、試験管ベビーともいわれています。この体外受精・胚移植という治療を選択した方がよい場合としては、卵管の通過性がない、精子の数が少ない、精子の運動率が低い、子宮内膜症がある、不妊の原因がわからないなどの状態が考えられます。
 次に具体的な方法について述べます。まず、たくさんの卵子を採取する目的で、月経が始まると毎日ホルモン剤の注射をします(過排卵刺激)。7 ~10日間で卵子は成熟し、超音波を見ながら卵巣に針を入れて卵子を複数個採取し、その卵子と男性から採取した精液中の精子を試験管またはシャーレの中であわせます(媒精)。媒精後約16~18時間経過し、卵子の中に2 つの核が顕微鏡下に見えれば受精が成立したことになります。この受精した卵子をさらに24時間培養を続けると1つの細胞だった卵子が分割し、2~4細胞になり、その分割した卵子(胚)を細いチューブを使って子宮に移植します。
 このように少し複雑な操作が必要ですが、以前であれば子宝に恵まれることをあきらめていたご夫婦でもこの治療によって赤ちゃんを抱くことが可能になってきています。しかし、この治療は保険がきかないということと、妊娠率がまだ20~30パーセントであるということが今後の課題であろうと考えています。

平成14年4月 加川俊明


更年期の過ごし方

 閉経を中心として、その前後10年間(45~55歳くらい)を更年期といいます。更年期には、卵巣の機能が低下して、卵巣で作られていたエストロゲンという女性ホルモンの量が急激に減少します。
 エストロゲンの減少と、この時期の心因的ストレスなどによって、ホットフラッシュといわれる顔のほてりや、体の中からの発汗、突然の動悸や肩こり、腰痛、不眠といった様々な不快な症状が起こります。これらを更年期障害といいます。
 更年期障害の症状には個人差があり、その治療法も症状によって異なります。治療法としては、不眠などに対して精神安定剤を投与したり、漢方薬による治療をしたり、さらにはカウンセリングなどが行われています。
 最近では、不足している女性ホルモンを補うことによって、症状を改善する治療法が行われるようになりました。この治療法はホルモン補充療法(HRT)といわれています。
 HRTは、減少した女性ホルモンを補うことによって、更年期障害の症状をやわらげようとする治療法です。ホルモン補充療法は、特に顔のほてりや発汗、不眠、腰痛、粘膜萎縮による性交障害などに効果があります。
 このように、様々の治療法があり、自分にあった治療を受けて、快適な日常生活をしてみてはいかがでしょうか。

平成7年12月  吉良敏彦


元気な赤ちゃんを産むために(1)

 元気な赤ちゃんは我々みんなの願いです。しかし、まれではありますが、生まれつき異常を伴う赤ちゃんもいます。この原因については今なお多くの研究がなされていますが、まだまだ不明な点が多くございます。これらは内的因子と外的因子の二つに分けることができます。
 内的因子による場合は遺伝子に関わるもので、染色体異常、遺伝子病あるいは先天性代謝異常症となります。外的因子は薬剤、放射線(レントゲン)、ウイルス性感染症などで、いろいろの異常をひきおこします。内的因子は避けられない場合が多いのですが、外的因子については避けることができます。胎児によくない、この外的因子について説明します。
 赤ちゃんの子宮での発育のうち、各器官が形づくられる時期があります。これを臨界期といい、この時期に外から影響があると、先天性の異常が起こることになります。この臨界期は各器官ととも妊娠初期に集中しています。例えば脳は妊娠2~11週、心臓は3~7週、四肢は4~8週、腹部は9~10週、などと報告されています。
 妊娠が診断できるのが、はやくて最終月経以後5~6週ですから、妊娠の診断以前でもかなり危険なわけです。次の予定月経以前でも、妊娠の可能性がある場合はそのことを医師に伝えることも大切で、薬剤の使用やレントゲン撮影には特に注意すべきです。

原本平成5年7月  武内国太


元気な赤ちゃんを産むために(2)

 まずは、薬剤について説明します。サリドマイド剤がアザラシ肢症を発生させたことは、とても悲しい出来事でした。これがきっかけで、妊娠初期の薬剤使用が慎重になったのです。妊娠初期または妊娠の可能性がある場合は、はっきりしない薬を軽々と飲まないよう、心がけましょう。薬の必要な場合は、必ず医師の指示に従って欲しいものです。但し、臨床上よくない薬は意外と少ないようです。
 レントゲンについては、つわり症状を胃腸疾患として透視撮影をする場合があり、この撮影が一番問題となるところです。レントゲンは緊急の時以外は、月経中か月経直後に撮影するのが最もよい時期です。ただし、胸部や歯科のレントゲン1~2枚はまったく問題ありません。
 ウイルス性感染症では、風疹(三日はしか)がその代表です。妊娠5カ月までに罹患しますと約50%の赤ちゃんの心臓、目または耳に異常が起こるといわれています。予防法としては、非妊娠時に風疹の抗体検査をして、陰性であれば、ワクチン注射をします。これは終生免疫が得られますので、抗体が陽性であれば問題なく、妊娠中でなお陰性であれば、前半期は人混みを避けるなどの配慮が必要です。中学校時代のワクチン注射は今後のために是非しておきたいものです。
 元気な赤ちゃんを産むためには計画的妊娠がよく、妊娠の可能性があれば早くから注意しましょう。今なお先天性異常を伴って産まれる赤ちゃんもいますが、少なくとも外的因子については万全を期し、不安な気持ちを取り除いてお産をむかえたいものです。

原本平成5年8月  武内国太


子宮内膜症

 子宮内膜症とは本来子宮の内側を覆っている粘膜である子宮内膜が、卵巣など子宮の外側に発生してくる病気です。子宮内膜は生理の周期にあわせて厚くなり、受精卵の着床(妊娠)がないとはがれて出血とともに外に出されます(生理)。子宮内膜症病巣も生理の周期に伴って出血しますが、出口がないためにそこに溜まり、血のコブとなって他の臓器とくっついたりします。子宮内膜症が最もしばしば見られる部位は卵巣、子宮後壁腹膜、膀胱子宮窩腹膜、直腸などです。この病気は20~30台に多く発生し、子宮内膜症があると妊娠しにくくなりますので、不妊症の原因として頻度も高く重要な病気です。
 発生部位によって症状が異なりますが、こんな症状があったらあなたも注意が必要です。今まで生理痛がなかったものが、最近生理の時に強いか腹部痛や腰痛があり、年々ひどくなっていく。結婚して2~3年たってもなかなか赤ちゃんができない。セックスの時、子宮の奥が突き上げられ、ひきつるような痛みがある。
 子宮内膜症を放っておくと子宮全体、両卵巣をとる手術が必要となります。子宮内膜症病巣がさほど進行していない状態であれば、薬で治療することが可能です。半年ぐらいの投薬により病巣部を小さくしていき、ついには消失に導きます。不妊症の原因となっている場合は、治療後は妊娠しやすくなります。早期発見、早期治療が一番大切ですので、少しおかしいなと思ったら、早めに産婦人科医に御相談下さい。

平成2年3月  越智 博


B型肝炎(産科関連)

 肝炎の原因は主として、A型・B型・C型ウイルスの3種類があります。産婦人科に強く関係しているのがB、C型肝炎ですが、今回はB型肝炎のお話をしましょう。 B型ウイルスが4歳以上で感染発病すれば、急性肝炎となり、そのごく一部が急速な転機とります。また、免疫機能が未熟な3歳以前に感染を受ければ(主として分娩時における産道感染)、ウイルスを保有していながら無症状の状態が続くキャリアとなります。その数は、日本では人口の約2~3%(約30万人、S62)であり、その一部が将来、慢性肝炎から肝硬変、さらには肝癌に移行するといわれます。
 現在(S62)、我が国の肝硬変による死亡が年間、約18,000人、肝癌によるもの約20,000人といわれ、それらの約30%(10,000人)がB型ウイルスによるものです。 このB型ウイルスの感染状態はe抗原陽性(ウイルスを多量に保有)、e抗原・抗体共に陰性、e抗体陽性の三つに大別でき、その患者数分布はそれぞれ、約20%、30%、50%、また母体から新生児への垂直感染率は、約95%、20%、10%です。
 それらのうち最も感染率の高いe抗原陽性母体から出生する新生児は年間6,000人(S62)といわれ、この新生児に対してのみ国家事業として昭和61年からその予防を公費負担で行っています。このようにB型ウイルスの感染はワクチンの登場により阻止可能な時代となりました。

原本昭和62年11月  日浅 毅



梅毒

カンジダ

トリコモナス

帯下

 帯下とは、女性性器からの分泌物で、具体的には膣又は外陰から体外に排出された分泌物で本人が自覚したものを言います。帯下の原因の大多数は、子宮ではなく膣にあります。すなわち、鞭毛虫類に属する原虫の一種によるトリコモナス腟炎、かびの一種によるカンジダ腟炎、非特異性腟炎、クラミジア、まれに淋菌性腟炎、膣外陰梅毒などによる膣疾患の帯下が最も多く、次いで子宮頸管炎によるものが多い。子宮体内膜炎による帯下は少ないですが、老人性、分娩後、流早産後などにはこの型の帯下が起こります。月経と月経の中間、つまり排卵期の数日間だけ、無色透明(乾燥すれば稀黄色)の粘液性帯下が出る。これは、排卵直前の卵胞ホルモンの増加による子宮頸管粘液が増加したために起った帯下で、いわば、ホルモン性帯下です。この場合は治療不要です。小児にみられる小児腟炎又は外陰腟炎は、淋菌性のことと、非特異性のことと、トリコモナス性、カンジダ性、ぎょう虫性のことがあります。
 帯下の症状は、無色透明粘液性のものは頸管粘液の分泌過剰によるものであり、牛乳様泡沫性のものはトリコモナス、かゆくて白色滓状ないしチーズ状のものはカンジダ、黄色帯下は淋菌その他の化膿菌によるものが多い。悪臭のある帯下は嫌気性菌によるもので、子宮癌、子宮体内膜炎、膣異物(タンポンの除去わすれなど)によるものが多い。特に悪臭のある血性帯下には子宮癌のことがありますから、いつも注意しましょう。

昭和60年5月  武田 昭


子宮癌検診のすすめ

 御夫人だけの癌としては子宮癌・卵巣癌・膣外陰癌・乳癌などがあります。その中で最も頻度の高いのが子宮癌(特に子宮頸癌)であります。子宮癌も他の癌と同様早期発見・早期治療しか完治が期待出来ません。しかし、幸いな事に他の癌よりは早期発見が用意で、治癒率も良好です。子宮癌検査は細胞を擦過採取する細胞診、組織を採取する組織診及び拡大鏡検査があり、これらを組み合わせて行いますがスクリーニングとしては細胞診のみで十分であり、簡単な検査で済みます。安心出来る予防法がない現在、自ら検診を受ける事により健康な家庭生活を送る以外に方法はございません。統計によりますと自発的に受診しないのは単に羞しいからではなくて、無知や恐怖心によるものが大部分だと言われております。知らなかったり、怖かったということで助かる命を捨てる事はないと思います。毎年1回は必ず検診を受け、症状例えば不正性器出血あるいは帯下などがあれば子宮癌で命を落とす事はないと断言できます。自分の誕生日に検診を受けるようにするのも一方法だと思います。検診車による集団検診でも良いし、病院・診療所などの施設でも良いと思います。検診車は費用が安く、皆で行く ので検診しやすく、施設はいつでも受診でき、子宮癌以外の婦人科疾患も発見出来ます。各々に利点がございます。いずれにせよ、30歳になれば毎年1回の子宮癌検診をおすすめします。

昭和60年4月  武内國太


更年期障害

 私たちの身体はホルモンと自律神経の二本柱で調節されていますが健康に生きていくためにはこの二つが調和をとって働いていくことが大切なのです。
 成熟期の女性の場合は、脳の指令を受けて脳下垂体から出る性腺刺戟ホルモンに対し卵巣がよく反応し卵巣ホルモンを分泌し全身の調和がとれ月経も周期的に起こりますが、45歳位から55歳位までの更年期に入ると卵巣が反応しにくくなりやがて月経がなくなります。
こうした変化に伴ってホルモンや自律神経にも乱れが起こり、一方精神的な原因もこうした乱れの原因になります。その結果自律神経の失調として更年期障害が起こってくるわけです。然しこの期間を過ぎますと自律神経とホルモンはバランスを回復して安定した老年期に入るわけです。
 では更年期に入る不愉快な症状とはどんなものでしょうか。のぼせ、発汗、しびれ、不眠、神経質、ゆううつ、めまい、疲労感、肩こり、頭重、等々です。
 然し、更年期にはいろいろとやっかいな他の病気が多発する時期ですから医師に受診し広い範囲の健康診断を受ける必要があります。又、更年期障害といっても自律神経性のものと心因性のものがあり治療も多少違いますが、先ずは積極的に趣味とか仕事を通じて生きがいを持ち張りのある生活を大切にする事が必要です。これは家族の暖かい協力も必要です。月経が無くなったから女でないなんて考え込んでいませんか、人間の性は更年期以降も続いているのです。 更年期を第二の人生の出発点とし明るく過ごすのも暗く過ごすのも貴女の心の持ち方次第だと思います。

昭和60年3月  丹 清人


母乳

 人間の新生児にとって、人間の乳が最良の食品であることは、人工栄養児よりもはるかに健やかに育つという歴史的事実によっても明らかです。又母乳は古来母性愛の象徴でもあります。ところが最近母乳を飲まして貰えないで、人工乳で育てられる子供が大変多くなっています。
 人工栄養の発達によって、確かに昔の人工栄養児が体験した様な危険は少なくなっています。しかし、中世の錬金術師が、銅を金にかえる夢が実現しなかったように、牛乳を人乳にかえることは不可能です。
 母乳は、出産後数日の間は初乳、それから移行乳となり約二週間後には成熟乳となります。母乳には人工乳とちがって免疫グロブリンA、ラクトフェリン等が多く含まれています。これらは大腸菌の成育、増殖を抑制し、又粘膜から最近の侵入することを防ぎ、細菌を殺す働きもあります。新生児には大腸菌によって下痢症、敗血症、脳膜炎等の重大な病気が起きます。母乳栄養にはこれらの病気を防ぐだけでなく、新生児アレルギーを防止する働きもあります。
 液体としての人乳は、その他にも言いつくせない程多くの価値があります。そしてこの液体が母の乳房から直接赤ん坊の口の中に吸収されると、それは愛情を運ぶ機能を持つようになります。母の肌の匂いと暖かさ、愛撫ややさしいまなざしを新生児は享受します。母親はわが魂の愛する者という事を益々深く感じるでしょう。この事はその新生児の将来の人間形成にとっても大切な事なのです。

昭和60年2月  三宅 篤


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