循環器科、心臓血管外科


血圧について

 血圧を気にされている方がたくさんおられます。平成21年の日本高血圧学会ガイドラインでは、降圧目標は外来血圧135/85㎜Hg(家庭血圧では130/80㎜Hg)とされています。また合併症により目標血圧値が決められており、腎臓の悪い方や糖尿病のある方などでは130/80㎜Hg以下に、脳疾患(脳梗塞など)のある方は140/90㎜Hg以下にしましょう、とされています。
 降圧薬にもさまざまな種類があり、それぞれの患者さんの全身状態、合併症、ほかの内服薬との関係、生活習慣、血圧の上がる時間帯などを総合的に考えて処方しています。血管を拡げるもの(カルシウム拮抗薬)、ホルモンに作用するもの(アンギオテンシンⅡ受容体拮抗薬など)、排尿を促進させるもの(利尿薬)などを使い分けて、あるいは併用することで目標血圧まで下げるようにしています。
 「生活習慣の修正項目」では塩分制限、食事、減量、禁煙、飲酒、運動の6項目についてそれぞれ記載があります。特に運動に関していえば、運動不足が原因と考えられる高血圧の方が多くみられます。運動といっても散歩程度で十分です。疲れない、息切れがしない程度で続けられる運動という事が大事です。朝から晩まで職場も含めて1日6,000歩以上歩くことを目標にしましょう。目安は10分歩いて1,000歩です。景色を楽しみながら、音楽を聴きながら、おしゃべりをしながら、いろいろな方法があると思いますが、メタボ対策も含めて楽しみながら体を動かしてみてはどうでしょうか。血圧のことが気になる方は一度医師に相談してください。

 平成21年6月 小松 次郎


メタボリック症候群

 最近、「メタボリック(代謝)症候群」という言葉をよく見聞きされるかと思います。動脈硬化を基礎疾患として起こる脳梗塞・心筋梗塞は、生活習慣によって引き起こされる代謝の異常が原因で、これを是正することが予防に重要との考えからできた言葉です。昔から「死の四重奏」とか「内臓脂肪症候群」とか世界中でいろいろな名前で呼ばれていた概念を世界共通の言葉で表し、各国の民族性や人種、社会環境などを勘案して、その定義が作られています。
 日本では、①腹囲(おへその位置でのウエストサイズ)が男性85センチ以上、女性90センチ以上。②中性脂肪150mg/㎗以上か、HDL(善玉)コレステロール40mg/㎗未満、またはその両方にあてはまる。③空腹時血糖110mg/㎗以上。④収縮期血圧130㎜Hg以上か、拡張期血圧85㎜Hg以上またはその両方にあてはまる。以上のうち①があって、②③④のうち2つ以上あてはまればメタボリック症候群と診断されます。
 皮下脂肪でなく、内臓脂肪が蓄積(脂肪細胞が肥満)されると、へその高さの腹囲が増加します。もともと脂肪細胞は、血管、動脈硬化、血管がつまる病気に対して、保護的(人にとって味方)に働く物質と、病気を起こさせる方向(人にとって敵)へ働く物質をバランスよく分泌しています。しかし、脂肪細胞が肥満するとバランスがくずれ、味方の物資の分泌が減り、敵の物質の分泌が増えます。このため、脳梗塞・心筋梗塞になる危険率が増えるのです。
 腹囲の気になる方は是非、医療機関で受診し、検査を受け、生活習慣の改善などを主治医と相談しながら、脳梗塞・心筋梗塞の予防に力を注ぎたいものです。

平成19年7月 菅 拓也


日本人と塩分

 皆さんは日本人が1日にどれくらいの塩分を取っているかご存知ですか。しょうゆ、漬物、つくだ煮などの食文化をもつ日本人の塩分摂取量は1日約12グラムで、欧米人の3~4倍にもなります。では、塩分は1日にどの位必要なのでしょうか。人の生命維持に必要な塩分は、1日たったの1グラム(耳かき20杯分)です。日本人がいかに塩分を取り過ぎているかお分かりですね。
 人の体液や血液などの体内環境は一定に保たれています。それは人類の起源である脊椎動物が、はるか4億年前に海から陸に上がるに伴い進化した腎臓のおかげです。海水での生活をやめるという進化の過程は常に塩分欠乏に脅かされてきました。本来、腎臓は塩分欠乏を防止するために進化した臓器ですが、文明とともに大量の塩分が摂取され高血圧を発生するようになりました。腎臓の処理能力を超える塩分を摂取することにより、体液量と心拍数が増加し血圧が上昇するのです。
 このように塩分がとかく悪者にされがちなのは、取り過ぎにより心臓病や脳卒中をもたらす高血圧の原因となるからです。そのため今日では、世界的に1日の塩分摂取量は6グラム(小さじ1.5杯分)以下が推奨されています。毎日のちょっとした心掛けで健康を保っていきたいですね。

平成18年5月 臼谷佐和子


循環器疾患の原因となりうる睡眠障害

 数年前にJ R の運転手が居眠り事故を起こし「睡眠時無呼吸症候群( S A S )」が社会問題となりました。
 S A S は気道閉塞などによって睡眠中に呼吸が一時的に低呼吸~停止となる疾患で、いびきや起床時の頭痛・日中の眠気や倦怠感をもたらします。ただし睡眠深度が浅くなっていても慢性の経過のため、はっきりした症状を訴えずなんとなくうっかり不注意ミスが多い程度の自覚で、一緒に眠っている方に指摘されて初めて気付く方も多いと思われます。一般人口の数パーセント、慢性心不全患者の30~40パーセントにS A S の合併があるといわれ、決して珍しい疾患ではありません。
 最近S A S の患者さんに高血圧や脳梗塞、不整脈ひいては心不全などの合併症が多いことがわかってきました。二次性高血圧の原因となることも多く、心室性不整脈の発生頻度が20倍となるなどの報告もあります。睡眠障害による低酸素が交感神経活性亢進と血圧上昇を招き、毎晩の積み重ねで心機能を悪化させていくと考えられています。
 S A S の一般的治療となっている経鼻持続気道陽圧呼吸( C P A P )の使用や酸素療法その他の治療で、睡眠呼吸障害の軽減とともに左室心機能・不整脈・死亡率・心移植率の改善も報告されています。S A S が疑われた場合は、就寝中に動脈血中の酸素飽和度や心電図、呼吸の状態をモニターする検査で確定診断します。夜間だけの入院もしくは簡易型機械を自宅で装着して記録するなど比較的簡便にできますので、いびきの気になる方は気軽にご相談ください。

 平成18年2月 脇坂智代子


高血圧症(その1)「高血圧ってなあに」

 高血圧症は、心臓から全身へ血液が送り出される時の圧力(血圧)が高い状態をいいます。頭痛、頭重感、肩こりそのほか自覚症状があることもありますが、自覚症状がない場合が多く、注意が必要です。高血圧症には、①本態性高血圧症(遺伝的素因があって、その上に環境因子が加わるもの)と②二次性高血圧症(血圧をあげる原因がはっきりしていて、その手当てをすれば治癒が期待できるもの)とがあります。頻度的には、前者本態性高血圧症が圧倒的に多く、診断されれば、生涯付き合わなければならないものです。
 なぜ血圧が高いと問題となるのでしょう。それは、放置すれば、合併症を引き起こしてくるからです。3大合併症(脳:脳卒中、心:心不全、心筋梗塞、腎:腎不全)は、発症すれば生命を脅かし、また、その後の人生の生活の質(※QOL)を低下させてしまいます。また、動脈硬化症の進展が促進されます。
 現在の医学では、高血圧症そのものを治してしまうことは、二次性高血圧症の一部を除いてはできません。そのため、高血圧症の手当ては、治してしまうというよりも、いろいろな方法で血圧を上手にコントロールして、合併症を予防するところにあるのが現状です。
 日々の生活を良く理解してもらっている主治医を決めて、相談しながら手当てを継続していく必要があります。高血圧と上手に付き合いながら生きていくつもりになれば良いかと考えます。※QOLとはquality of lifeの略語です。

平成15年8月 菅 拓也


高血圧症(その2)「どうやって診断するの?」

 高血圧症の診断は、医療機関の診察室へ入って座位で血圧測定をして、その値で判定します。1 回だけで決めてしまうのではなく、3 回ぐらい異なった日に検査した方が良いと考えます。2000年発表の日本高血圧学会の高血圧の基準があります。これは、1999年に世界高血圧学会が新しい高血圧の基準を発表し、それに基づいて作成されたものです。
 医師はこの基準を参考にしながら、患者さんの生活背景を念頭にいれて診断し、必要な検査をしながら、治療方針を決めていきます。最近、家庭での自動血圧計の普及があって、自分で血圧管理をする方が増えてきています。家庭での日常生活で得られた血圧の値は、非常に重要な情報を提供してくれます。しかし、その数値を高血圧の基準にそのまま当てはめて判断することは問題があります。確かに、家庭ではほぼ正常血圧で、医療機関で白衣の前に出ると、血圧が上昇してしまう(白衣性高血圧症)人もいます。だからといって家庭血圧を鵜呑みにして、放置して良いというわけではありません。主治医の医師と相談しながら対応していくことをお勧めします。

高血圧の基準(日本高血圧学会2000年)
分類 収縮期血圧(mmHg) 拡張期血圧(mmHg)
至適血圧 120未満    かつ   80未満
正常血圧 130未満    かつ   85未満
正常高値血圧 130~139  または   85~89
軽症高血圧 140~159  または   90~99
中等症高血圧 160~179  または  100~109
重症高血圧 180以上   または   110以上
収縮期高血圧 140以上    かつ   90未満

(注)収縮期血圧と拡張期血圧が異なる分類にはいる場合は高い方の分類に入れる。

平成15年9月 菅 拓也


高血圧症(その3)食事療法、生活習慣の改善

 高血圧症の治療は、食事療法(塩分制限、肥満があればその改善)、運動療法、薬物療法の3 本柱で考えるとよいでしょう。基本的には、生活習慣の改善ということになります。
 近年、ストレスの多い時代に生活するため、日々の生活リズムが不規則になりやすく、そのため食事の時間、内容も不規則、偏りが多いようです。また、文明の発達により、身体を動かさなくてもよい(車社会、家電製品の発達、食品のまとめ買いなど)時代となりました。さらに、飽食の時代で栄養過多の食事も目につきます。これが生活習慣、文化を変化させているようです。この現況をもう一度みんなで考え直す必要があります。
 食事療法では、塩分の制限が原則です。もともと日本人は塩分を多くとる国民です。一時盛んに塩分のことに関心がもたれ、国民の栄養動向からみて塩分摂取量が減少していたのですが、最近再び塩分摂取量が増加してきているという報告があります。また、米国合同委員会の2003年5 月に発表された指針では、標準体重の維持(せめてその+20パーセント以内に体重をコントロールしたいものです。)塩分6 グラム/日以下、フルーツ、野菜ならびに飽和脂肪および総脂肪含有の少ない低脂肪乳製品に富んだ食事の摂取、アルコール制限などが推奨されています。日々の生活に注意しましょう。

平成15年10月 菅 拓也


高血圧症(その4)運動療法と薬物療法

 高血圧症の手当てとして、運動療法は体重コントロールに関係がありますが、運動を継続すれば平均血圧が下がるという報告もあります。運動は、高血圧のみではなく、生活習慣病といわれる糖尿病、高脂血症などの手当てにも有効です。米国合同委員会(2003年5 月)の指針では、早足の歩行運動(30分)などの有酸素運動の継続が勧められています。
 日常生活の習慣の改善をしても、血圧の高い状態が続けば薬物療法の適応となります。心血管系の危険因子(喫煙、肥満、運動不足、脂質代謝異常、糖尿病、腎機能低下など)と年齢、家族歴などを考慮し、主治医と相談しながら薬物療法を開始します。降圧の目標値は、日本高血圧学会の高血圧治療ガイドライン(2000年)によると次のようになります。①若年~中年の場合血圧135/85mmHg未満、②高齢者は140~160/90mmHg以下、③脳血管障害がある場合最終的に150/90mmHg未満、④腎疾患がある場合130/85mmHg未満、⑤心不全がある場合、心機能を参考に。⑥糖尿病がある場合130/85mmHg未満です。この目標値に少しずつゆっくり近づくようにコントロールする必要があります。上手に主治医の先生と話しながら薬剤を選択してもらい、これを維持し、合併症をおこさないようにして、良い人生をおくれるよう考えるべきと思います。

平成15年11月 菅 拓也


血圧の日内変動

 血圧も生体リズムにより、1日のうちでも変動しています。夜間の睡眠中は最もよく下がっています。日中の仕事中や運動をしているときには、血圧はぐんと上がっています。運動直後や歩いたり走った直後は高いですが、しばらく休んでいると自然に下がってきます。
 降圧剤の服用をしている高血圧症の患者さんの場合は、薬効の切れている早朝、血圧は以外と高い傾向にあります。最近の降圧剤は1日1回投与で1日中有効な長時間持続型の薬がよく出まわっていますが、早朝は薬効が切れるため比較的高くなるものです。この投与血圧の日内変動を考えて、降圧剤の服用を工夫する必要があります。降圧剤は食事の時間とは無関係にタイムカプセルとして服用すべきと考えます。早朝血圧が高い人は、起床したらすぐに朝の分を服用する方がよいでしょう。持続型の降圧剤でも夕方には効力がおちていますので、午後3時頃から血圧が再び上昇する人が多いようです。このような場合には、夕方の分を午後4時から5時までには服用する必要があります。1日2回投与の場合の服用時間の例を申し上げました。
 また1日1回法の場合は、夕方血圧を測定してもらい、比較的高い場合は1日2回法に切り替えてもらいましょう。夜間は本来が低いので、夕方の分を遅い晩ごはんの時に服用すると睡眠中に下がりすぎる危険があります。

平成11年11月  飯塚平吉郎


冠危険因子 特にその複合について

 狭心症や心筋梗塞に代表される虚血性心疾患は心筋の栄養血管である冠動脈の動脈硬化による狭窄、閉塞が主な原因です。この病気に対する広範囲な疫学的な調査が行われ、その結果、この病気を起こしやすくさせると見なされる種々の状態や条件、すなわち冠危険因子が見つけだされました。つまり危険因子を多く持っている人ほど虚血性心疾患になる可能性が高いということです。
 今日一般に考えられている冠危険因子は、高血圧、高脂血症(コレステロールが高い)、タバコ、糖尿病、肥満の五大因子のほかに近ごろでは高尿酸血症(痛風)、運動不足、ストレス、A型行動(いわゆる猛烈社員)も含めるようです。
 若いうちからこれらの危険因子を取り除くことによって、虚血性心疾患の発病を予防すること、少なくとも遅らせることが可能であると考えられています。しかもこれらの危険因子は二つ、三つと重なる(複合する)ことによって危険度は数倍から数十倍に増悪していきます。例えば高脂血症だけに人は6倍、高血圧だけでは4倍、タバコだけでは2倍の発病危険率ですが、高脂血症と高血圧が合併すると17倍、高脂血症とタバコで10倍、高脂血症と高血圧にタバコで27倍、これに糖尿病が合併すると60倍もの危険度となります。
 危険因子を少なくし、その複合を減らす努力は、言い換えれば悪い生活習慣を取り除き、良い生活習慣に代えることにほかありません。

平成11年7月  村瀬哲郎


心臓病-狭心症・心筋梗塞①(成因と検査法)

 「心臓が悪い」と一言で言いますが、その中には心臓弁膜症、虚血性心疾患、不整脈、心筋症などいろいろな病気が含まれます。この中で、最近特に増加の傾向のあるものとして、狭心症、心筋梗塞などの虚血性心疾患があります。
 心臓は全身の臓器に血液を送るポンプの働きをしていますが、心臓自体は心臓周囲を冠状に取りまく冠動脈という血管で栄養されています。この冠動脈が動脈硬化などで血管の内腔が狭くなり、血液を心臓に十分送れなくなった状態を心筋虚血状態といいます。これが狭心症、心筋梗塞の主な原因になります。この原因となる動脈硬化は最近の食生活の欧米化により急激に増加しています。また、糖尿病、高コレステロール血症、喫煙、高血圧などによりさらに増強されます。
 狭心症は胸痛として発症しますが、進行して心筋梗塞に至ると、ひどい場合は突然死ということもあります。
 病気の診断には冠動脈造影を含む心臓カテーテル検査が必要ですが、この検査は以前に比べ、最近では非常に簡単に、かつ安全に行えるようになってきています。
 狭心症が疑われたなら早期に検査を行い、死に至るような怖い心筋梗塞になる前に診断を受け、治療する必要があります。(治療法と予後に続く)

平成9.4.  藤田 博


心臓病-狭心症・心筋梗塞②(PTCA)

 前回、狭心症、心筋梗塞の診断には心臓カテーテル検査が必要であると述べましたが、その結果、冠動脈に狭窄や閉塞が見つかった時は、治療が必要です。
 程度が軽く、状態が安定している時は薬物治療が主体となります。冠動脈の血流を増加させ、動脈硬化の進行をなるべく防ぐような薬を服用します。危険因子である糖尿病、、高コレステロール血症、高血圧症については治療することは言うまでもありません。禁煙することも大事です。
 狭窄の程度が強く、閉塞する可能性が高い場合で、その狭窄の数が2筒所以内であれば風船治療(PTCA)が盛んに行われています。これは特殊な風船をしぼんだ状態で狭くなった血管に挿入し、そこで風船を拡張させ、狭い部分を広げる方法です。しかし、一度広げた血管がまた狭くなって、再度広げなければならないこともあります。最近ではこのような再狭窄例にはステントという金属を使って再狭窄を防ぐ方法もあります。
 この風船治療が行われるようになってまだ歴史は浅いのですが、局所麻酔ででき、体に負担の少ない治療であるため、数多く行われるようになってきています。(冠動脈バイパス術に続く)

平成9.5.  藤田 博


心臓病-狭心症・心筋梗塞③(冠動脈バイパス術)

 狭心症、心筋梗塞の原因である冠動脈の狭窄病変が2箇所以内の時は風船治療(PTCA)が行われていることは、前回述べました。冠動脈の狭窄病変が3箇所以上の程度のひどい場合や弁膜症などの他の心臓病を合併している時は心臓のバイパス手術が行われています。これは文字どおり、狭くなった冠動脈の部分をバイパスして血流をえる手術のことです。最近ではロシアのエリツィン大統領がこのバイパス手術を受けたことがマスコミで報じられていますが、日本でも広く行われています。バイパスには足の静脈や内胸動脈、胃の動脈が用いられます。バイパス手術の結果、冠動脈の血流は十分に保たれる様になり、症状も改善され、今後の生活がが安全に行なわれる様になります。これは薬物療法に比べて、より確実な方法であり、風船治療のような再狭窄はほとんどありません。
 また手術の危険率は現在では1%以内と非常に安全に行なわれる様になっています。心臓手術は危険も多く、大変な手術であるという考えは昔話となっていて、現在は安全に一般的に受け入れられる手術となっています。
 狭心症、心筋梗塞について述べましたが、正確に診断し、治療しますと、生命予後は決して悪くなく、怖い病気ではありません。

平成9.6.  藤田 博


下肢静脈瘤

 下肢静脈瘤とは、静脈の中にある逆流防止用の弁がこわれるため、心臓へ向かって返るべき血液が足先の方向へ逆流することによって起こる病気です。
 特に女性、経産婦や長時間の立ち仕事をする方などに多くみられます。
 皮膚のすぐ下の静脈が拡大、屈曲、蛇行し、血液の流れが異常になるため、重量感・緊満感・だるさ・むくみなどの症状を呈し、美容的にもよくありません。
 静脈瘤内の血液がかたまり、炎症を起こすと血栓性静脈炎と言われ、局所の熱感や痛みを伴うしこりを認める様になり適切な治療を要します。また進行すれば皮膚に潰瘍を形成することもあります。
 静脈瘤が著明で、出血・静脈炎・湿疹・潰瘍などの合併症を伴うものや、疼痛・緊満感・だるさ・むくみ等の自覚症状の強いもの、早期治療を望むもの、また美容的要請などが手術の対象となります。
 手術は静脈瘤抜去術といって原因の静脈を除去するものですが、手術は簡単で、早期退院、完全治癒が期待できます。小さな静脈瘤では硬化剤を静脈の中に注射してつぶしてしまう方法もあります。

原本平成3年10月  曽我部仁史


コレステロールにご注意を

 欧米化した食生活が欧米化した今日、検診などでコレステロールや中性脂肪が高いと言われたことはありませんか。
 コレステロールや中性脂肪がが高いと、動脈硬化をおこし心筋梗塞、狭心症、脳梗塞や脂肪肝などの原因になります。このような状態を高脂血症といいます。コレステロールには善玉(HDL)と悪玉(LDL)とがあり、善玉は動脈硬化をおさえますが悪玉は悪くする作用があります。総コレステロールは220mg/dl以下、中性脂肪は12mg/dl以下、善玉コレステロールは40mg/dl以上、悪玉コレステロールは150mg/l以下が正常です。
 高脂血症といわれたら医師の診断治療を受けるのが一番ですが、次の日常生活、習慣を改善し、2~3カ月毎の血液検査を受けて下さい。
①肥満は高脂血症のもとになりますので、{標準体重(身長m)2 ×22}kgを守り、食べ過ぎない。甘いものもほどほどにする。
②植物性脂肪や魚はよいが、出来るだけ動物性の脂肪はへらす。卵も1個までに。
③アルコールも中性脂肪の高い人は減らす。清酒1合、ビール1本まで。
④適当な運動をする。

平成3年3月 


胸が痛い

 胸に痛みを感じたことはありませんか?
 Aさん46歳男性。会議中に焼火鉢で胸をえぐられるような胸痛が起こり受診。心筋梗塞ですぐ集中治療室に入院。3週間で退院し以後は定期的に通院しながら復職。Bさん66歳男性。自転車の乗ると胸痛が起こるようになり受診。検査で狭心症と分かる。薬を飲み始めてから胸痛は軽くなっていたが、また胸痛がひどくなり大学病院を紹介され「バイパス手術」を受けた。今は自転車に乗っても、胸痛は起こらない。Cさん58歳男性。深夜まで飲酒の翌日、ゴルフのプレー中に心臓が爆発したような激しい胸痛が起こり救急車を呼ぶ。急性心筋梗塞のため入院。4週間目に退院した。以後は胸痛が起こらないので病院へ行かなくなっていたところ、徹夜の麻雀中に心筋梗塞の再発のため急死した。
 Aさんのように心筋梗塞を起こしても、早く治療し定期的に通院して薬を飲みながら社会復帰している人もたくさんおられます。Bさんのように冠状動脈が狭くなりすぎると飲み薬だけでは拡げられず、バイパスをつくり充分な血液を流すような外科手術が必要となることもあります。Cさんのように、やっと一命を取りとめても自分勝手に薬をやめ再梗塞を起こし残念な結果に終ることもあります。
 胸の痛みを起こす病気は狭心症や心筋梗塞ばかりではありません。心臓病では心筋症、僧帽弁逸脱症、不整脈などでも起こります。また、心臓以外(大動脈、肺、胸膜、肋骨、筋肉、肋間神経、精神的など)でも起こります。胸に痛みを感じたら、程度がどうあれ簡単に考えないで早めに専門医の診断を受けて下さい。

平成元年7月  小澤正澄


不整脈

 左の胸に手を置いてみてください。ドキドキと心臓の動きが手に伝わってくるはずです。成人なら1分間に約70回の速さで規則正しく拍動して、血液を全身に送り出しているのです。この拍動の速い人、遅い人、不規則な人はおられませんか。これらを「不整脈」と言います。不整脈は大きく分けて、脈の速い型、遅い型、不規則な型があります。
 これはの原因としては、特別な病気のないもの、心臓病によるもの(狭心症、心筋梗塞、弁膜症、心筋症、心膜炎など)、心臓以外の原因によるもの(自律神経、肺や甲状腺の病気、薬によるもの、酒、煙草、コーヒー、紅茶、ストレス、過労などによるもの)などがあります。
 不整脈によっては、特に治療を必要としないものから、すぐ入院して治療を始めないと命にかかわる危険なものまで、多くの種類があります。最近では、ほとんどの不整脈は薬でおさえられるようになりました。また、ペースメーカーという小さな装置を体に植え込んで心臓を動かすような手術も、局所麻酔で簡単にできるようになるなど、不整脈の治療も進歩してきています。
 ですから、今、自分で不整脈を感じている方は専門医で、その種類、原因、起こり方、回数などのくわしい検査を受けて、その不整脈に最も適した治療をお受けになるようおすすめします。

昭和62年12月  小澤正澄


高血圧

 高血圧は、はっきりとした自覚症状がなく、気付かないうちに進行するため、治療の開始がおくれてしまう事があります。心血管系の合併症である脳卒中や心臓病(心不全、狭心症、心筋梗塞)などが起こって初めて気づいたのでは、高血圧が数ある成人病の中でも、比較的コントロールしやすい病気の一つであるだけに、残念な事です。成人病検診、人間ドック、また他の病気で診察を受けた時などのあらゆる機会を利用して、血圧を測ってもらいましょう。
 高血圧を指摘されたら、自己判断をせずに、すぐかかりつけの医師に相談することが最良の方法です。降圧治療体系は、原因・重症度・合併症に応じて、ほぼでき上っていますから、治療が軌道に乗れば、健康な人とほぼ同じ日常生活をおくる事が出来ます。軽い高血圧は、減塩食・禁煙・体重減少・ストレス解消など、降圧剤によらない方法で血圧が低下します。中等度以上の高血圧では、降圧剤が必要になり、この場合は医師が指示した薬をきちんと服用し、起こった症状は全てを報告する事が大切です。
 治療を中断した人の中に重大な合併症が起こりやすい事がわかっていますから、医師と緊密に相談しながら、薬の副作用を出さぬよう、また、出したとしても軽く済ませるよう用心して、生涯治療を行う事が肝要です。

昭和59年6月  徳永常登


心臓病

 日本人の三大死因は悪性腫瘍(ガン)、脳血管障害(脳卒中)と心臓病です。心臓の病気は、先天性心疾患と後天性心疾患に分類されており更に後天性心疾患は、次の二つに代表されます。即ち、リウマチ熱による心炎、弁膜症と、冠状動脈(心筋の栄養血管)の動脈硬化が原因となっておこって来る心筋の虚血性病変(これを虚血性心疾患と言います)であります。
 人口動態に基づく虚血性心疾患死亡率の推移を見てみますと、1950年の人口10万対で、9.9の死亡率が、1980年には41.6と約4倍に増加しております。西欧先進国並みに心臓病が死因のトップグループに入って来たのは、実にこの虚血性心疾患による死亡が増加して来たためであります。
 狭心症、心筋梗塞に代表される虚血性心疾患は、冠状動脈の動脈硬化が進行して来た結果、丁度オイルパイプの通りが悪くなったエンジンと同じ様に焼き付きがおこって来たものです。だから虚血性心疾患の予防は、冠状動脈の動脈硬化の進展を防ぐ事に他ありません。冠硬化の促進因子としては、まず、高脂血症、糖尿病、肥満が挙げられます。これに対しては、食事の注意、適度の運動などが必要でしょう。次に高血圧がありますが、これに対しても食事療法、薬物療法を気長に続けることが大切です。その次に案外忘れられているものに煙草があります。煙草と言えば肺癌とお考えでしょうが、喫煙者と非喫煙者を比較して見ますと、肺ガンよりも虚血性心疾患の罹患率の方が、何倍も高い事がわかって来ました。
 心筋梗塞にならないための一番手近な予防法・・・それは禁煙です。

昭和59年5月  村瀬哲郎


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