呼吸器科、胸部外科


ご高齢の方の肺炎予防に、ワクチンを

 肺炎は医学の発達した現在でも、日本人の死因の第4位を占める重大な病気です。肺炎で亡くなる方の95パーセント以上が65歳以上であり、高齢の方は特に注意が必要です。
 肺炎をひき起こす細菌は種々ありますが、そのうち最も頻度が高く、重症化しやすいのが肺炎球菌です。また近年、抗生物質の効きにくい耐性菌が厄介な問題となっています。
 肺炎球菌ワクチン(ニューモバックスNP)は、この肺炎球菌の感染や重症化を減らす効果が認められています。高齢の方、心臓や肺に持病のある方、糖尿病や肝臓病の方、また施設入所の方などは特に接種が勧められます。ただし肺炎球菌以外の細菌には無効なので、全ての肺炎を予防できるものではありません。しかし高齢者でしばしば致命的となるインフルエンザに合併する肺炎は、肺炎球菌によることが多く、その場合、インフルエンザワクチンと肺炎球菌ワクチンの両者を接種しておくことによって、有意に入院や死亡を減らせることが報告されています。
 先進国の多くは公費で接種を行っており、アメリカではすでに高齢者の70パーセント以上が接種済みです。一方、国の補助のない日本ではいまだ摂取率10パーセント以下の現状です。私費の場合、接種費用は医療機関によって若干異なりますが、本ワクチンは1回の接種により5年間は有効とされています。毎年打つインフルエンザワクチンに比べて、そう高くはないとも解釈できますので、一度接種機関でご相談ください。

平成23年6月 金藤義廉


新型、季節型インフルエンザにそなえよう

新年明けましておめでとうございます。
 昨年10月ごろより今治市においても新型インフルエンザの流行がみられ、市内の保育所・幼稚園では休園が、小・中学校、高校でも学級閉鎖、学年閉鎖が続きました。今年になっても新型インフルエンザの流行は続き、さらに季節型インフルエンザも重なって市民の皆さまの不安も大きく、特に小さなお子さまや、受験生をお持ちの保護者の方々は心配されているでしょう。新型インフルエンザに感染したほとんどの方は、比較的軽症のまま数日で回復します。しかし多くの人が免疫を持たないために季節型インフルエンザより流行規模が大きく、感染者数も多くなります。
 症状は新型も季節型インフルエンザもほぼ同じで、突然の発熱(38℃以上)、せき、関節痛、頭痛、全身倦怠感がみられます。治療薬は新型も季節型インフルエンザもタミフルやリレンザという抗インフルエンザ薬が大変に有効です。
 新型インフルエンザワクチンの小児、小・中学生と高校生、65歳以上の健康な方への接種も1月に入って本格的に始まることと思います。
 新型インフルエンザワクチンは季節型インフルエンザに効果がなく、季節型インフルエンザワクチンは新型インフルエンザに効果がありませんので、私たちは両方のワクチン接種を受ける必要があります。ワクチン接種を受けていれば重症化を免れます。もしインフルエンザにかかっても、良く効く治療薬がありますので、発熱(38℃以上)などの症状があれば早く医療機関を受診し、治療を受けてください。
 日ごろの生活上の注意点としては、うがい、手洗い、マスクの着用が大事ですが、人込みに出かけることはなるべく控えるようにしましょう。

平成22年1月 菅 大三


インフルエンザワクチン

 インフルエンザは毎年、世界中で流行が起き、わが国でも年間10万〜120万人程度の患者が報告され、平成7年には国内で1,200人もの死者が出ています。
 インフルエンザ感染はウイルスの飛沫感染で、低温、低湿を好み、毎年のようにかたち(抗原性)を少しずつ変えています。最近では抗ウイルス薬が開発され高齢者の死亡率が減少していますが、まずは感染しないための予防が第一です。手洗い・うがいや、睡眠・栄養管理などの生活習慣も大事ですが、最も効果的なのはワクチン接種です。
 ワクチンは毎年変化するウイルスに対して開発され、その年の流行株とワクチン株の一致によっては50〜95パーセントの幅がありますが、一般的には70〜80パーセントの有効率があります(1〜6歳未満ではインフルエンザ合併症のリスクをかんがみ有効率20〜30パーセントと報告されています)。
 ウイルスのタイプにはAソ連型(H1N1)、A香港型(H3N2)、B型の3株の流行が繰り返されます。1シーズンにA型とB型に罹患する頻度は、インフルエンザ罹患患者の1〜3パーセント程度と推測され、3回感染する可能性は極めて稀ですが、ありえないことではないと結論されます。それを考慮しても予防接種を施行する意味は十分にあります。予防接種をしたにもかかわらず、感染した人は「本当にワクチンは効くの?」という不満をお持ちと思いますが、ワクチンがインフルエンザを予防するのは事実です。幸いにしてワクチンの効果が得られた人は家族や身の周りの人への感染を防いだはずです。逆に残念ながら結果として感染した人は、弱者を感染から守ろうとした意味においても、その努力は決して無駄ではなく賞賛されることでしょう。
 必ず来るといわれている新型インフルエンザが大流行(パンデミック)した際、現在のワクチンは無力ですが、少しでも新型インフルエンザとの鑑別に役立つと考えられます。ワクチンはあなたを、そしてあなたの大事な家族を少しでもその脅威から守ってくれます。

平成20年3月 三好 明宏


長びく せき・たん − 慢性 咳嗽

 咳とは気道内の分泌物(痰)や異物を喀出するための生体防御反射です。したがって健常時には認めません。また、喉頭から抹消の下気道には、気道粘膜から分泌される気管・気管支分泌液と呼ばれる粘液が気道上皮を覆っていますが、健常な方の分泌量は1日に10〜100ミリリットルと微量で通常喀出されることは無く、痰を常に喀出する状態は異常といえます。にもかかわらず、皆さんの周りには咳や痰がしょっちゅう出ている人が必ずいると思います。
 8週間以上つづく咳を慢性咳嗽といい、主な疾患として、副鼻腔気管支症候群、アトピー咳嗽、咳ぜんそく、薬剤性咳嗽、胃食道逆流、肺がん、気管支結核、後鼻漏、慢性気管支炎さらに心因性、かぜ症候群後遷延性/慢性咳嗽などがあります。このうち咳ぜんそくは気管支平滑筋の易収縮性による気道過敏性亢進により起こり、そのほかは気道上の咳受容体が刺激されて咳が出ています。
 日常よく見かけるものをいくつか挙げると、最も多いものが喫煙者の慢性気管支炎です。たばこは皆さんご存知の通り、肺がんをはじめとする悪性腫瘍、心筋梗塞・脳梗塞などの動脈硬化性疾患、呼吸困難をきたす慢性閉塞性肺疾患(COPD)などを引き起こすものですが、「ゲホゲホ」と咳き込み、大量の痰を吐きながら、たばこに火を付けている人をしばしば見かけます。小児にもよくあるのは軽症のぜんそくでしょう。冬の公園やスーパーなどで小さなお子さんが「コンコン」と咳をしていても全く意に介していない親御さんをときどき見かけます。明らかに気道過敏状態です。ほかにも鼻炎に伴う後鼻漏、胃食道逆流など耳鼻科疾患、消化器疾患と関係しているものもあり、それぞれ治療法が異なります。がんや結核は怖い病気です。しかし、発熱や血痰などが無くても、咳や痰が少しでも出ていれば医師の診察を受けることをお勧めします。

平成19年11月 相原 信之


慢性呼吸不全と在宅療法

 呼吸不全とは、低酸素状態(厳密には室内吸入時の動脈血酸素分圧が60torr以下と定義される)による呼吸障害またはそれに相当する呼吸器障害を呈する状態をいいます。さらに動脈血炭酸ガス分圧の上昇するものと上昇しないものの2つのタイプに分類されます。
 また、呼吸不全は一般にその発症と経過から急性と慢性に分けられ、急性呼吸不全発症では救急的集中的呼吸管理が必要になります。身近な疾患では、気管支喘息発作による喘息死は現在でも年間6千人とも言われており、著しい低酸素血症による急性呼吸不全死です。気管支喘息発作を軽く考えるのは禁物です。重症喘息大発作の既往者には在宅酸素設置を指導したいものです。急性に対して慢性呼吸不全とは、肺結核後遺症、慢性肺気腫、塵肺、慢性神経筋疾患などにより長期に呼吸機能障害をもつ場合をいい、酸素吸入が必要なためや人工呼吸器(換気)に依存しなければならないために長期入院生活を余儀なくされている患者さんを対象に最近は長期予後およびQOLの改善を目標に在宅での呼吸管理が可能となり普及してきています。
 上述した呼吸不全の2つのタイプにあわせて、人工呼吸法(HMV-NIPPV非侵襲的人工換気法が普及している)や在宅酸素療法(HOT)があり、保健適応になっています。平成12年4月から公的介護保険制度が導入され、訪問看護や在宅支援センターなどの介護サービスが充実してくるものと思われますが、今後は在宅療養者にも利用できる制度になることを期待します。

H13.4 石丸秀三


気管支喘息とは(その1)

 気管支喘息は治療法が大変進歩したにもかかわらず今も世界的に増加の傾向にあり、我が国の成人の有症率は3%、喘息死も年間6千人といわれている。またこの病気が山間農地区より交通量の多い都市部に多いのは問題である。
 一般に気管支喘息は気道に種々の刺激因子が侵入し、そのため気道が可逆的な閉塞と炎症を起こす疾患と定義され、その発病には遺伝因子の関わりが強く示唆されている。症状は軽い咳のみの場合から、強い喘鳴と粘調な喀痰を伴い呼吸困難を呈するものまで様々であり、重症度は4段階に分けられている。発作期間も気候の変わり目だけから一年中発作を繰り返す通年性のものまであり、幼児に多いアトビー型と老人に多い非アトピー型に大きく分類されるが、共に気道壁に炎症細胞、主として好酸球の浸潤がその病理像である。これまで気管支喘息はアトピー性疾患の代表といわれ、アレルゲン(チリダニ、カビ、猫や犬の毛、各種スプレー、雑草や樹木の花粉、排気ガス、牛乳、卵、魚介類の食べ物など)と、それに感作されて生じたIgE抗体との反応により気管支平滑筋の収縮、すなわち気道閉塞がおこるという機能的な障害が強調されてきたが、最近はこの病気とアレルゲンとの関係は必ずしも一致せず、持続する慢性の気道炎症こそが喘息の本体であり、これがまた気道の過敏性を高めるといわれている。その他にアスピリン喘息など特殊なものもあるがここでは触れません。
 次回は治療について述べましょう。

H10.12.  近松徹也


気管支喘息の治療(その2)

 気管支喘息は体質性の慢性疾患であり、治癒させるには限界があり、できる限り普通の日常生活が可能なように病状を管理しなければならない。アレルゲンなど原因因子の回避、禁煙の習慣、そして気道感染予防はもちろんであるが、アレルゲンが特定されるものは必要に応じて減感作療法も行う。
 薬物療法については必要最低限の投薬で治療するのが原則であるが、現在は気管支拡張剤(β2刺激剤、テオフィリン剤など)による対症療法よりも、気道炎症をおさえる目的で吸入ステロイド剤を基本に使用する療法が中心となっている。これは通常の使用量であればほとんど副作用の心配もなく、さらに必要に応じて気管支拡張剤や、もし効果が期待されるならば抗アレルギー剤を追加する。いたずらに対症療法のみを続けると、やがて気道の基底膜の肥厚という非可逆的な変化が起こり、予後に重大な影響を残すことになる。β2刺激剤の吸入は当面の呼吸苦がすぐ軽減するという理由で安易に多用されがちであるが、これはかえって症状を悪化させることになる。
 喘息の治療管理には患者自身も治療薬特にステロイド吸入療法の意義や使用法の基本をよく理解し、過剰な使用と共に副作用をおそれての自分勝手な中断による症状の再増悪に注意しなくてはならない。自覚症状は重症度を正確に反映しないので、自宅におけるピークフロー(最大吸気速度)の測定はごく簡単にできる検査であり、これにより定期的に自己管理することが推奨されている。

H11.2.  近松徹也


自然気胸について

 肺に起こる病気のうち、比較的若い男性に多いものに“自然気胸”という病気があります。自然気胸とは肺に風船のような袋ができ、それが破れることによって空気が漏れて肺がしぼんでしまう病気です。他の肺の病気のために起こる場合もありますが、多くは前ぶれのない突然の胸痛や息苦しさものに“自然気胸”という病気があります。自然気胸とは肺に風船のような袋ができ、それが破れることによって空気が漏れて肺がしぼんでしまう病気です。他の肺の病気のために起こる場合もありますが、多くは前ぶれのない突然の胸痛や息苦しさで発症します。
 この時は胸に管を入れて漏れた空気を続けて吸うことでしぼんだ肺を膨らませ、破れた穴が塞がるのを待ちます。これらは迅速な治療を必要とする場合が多いため、レントゲン写真などで早く診断してもらう必要があります。ただ先程述べた空気を抜くだけの治療では再発率が30〜60%ともいわれており、繰り返すものやひどいものに対しては手術による治療が必要です。
 以前は胸を大きく切って手術していたのですが、最近は“胸腔鏡”という細いカメラと道具を使って1cmぐらいの小さな傷だけでできる手術が普及してきています。再発する可能性もほとんど大きく切ったときと変わらず、手術後の痛みが少ないため社会復帰が早いことや、美容面で優れていることなどが特徴です。しかし特殊な機械や技術が必要なことや、わずかではありますが大きく切るよりも再発率が高いことが問題点です。今後これらの問題も徐々に解決し、さらに発展していくものと思われます。

平成9.3.  小野芳人


インフルエンザの動き

 前の冬から夏を越え生き延びたウイルスが最初に活動を開始、追っかけ1年前に中国南部で流行したウイルスが日本に上陸するというパターンを取るのが、インフルエンザの特徴です。インフルエンザウイルスは、野生のガン、かも類の呼吸器に隠れすんでいます。シベリアの繁殖地で夏を過ごしたこれらの鳥は、冬になると中国雲南地方などの湖沼に飛来し、周辺の農家が飼っているアヒルにウイルスを受け渡し、次にウイルスはブタを仲立ちに人にとりつき、新型ウイルスに変身します。ここから国立予防衛生研究所は全国500カ所の病院を定点としてウイルスの検索を続けるとともに、中国にも観測基地を設置して、次の流行予測を立てています(平成1年にスタート。的中率は、ほぼ100%)。ウイルスの種類としては病原性の強いA香港型、やや弱いB香港型やソ連型などがあります。研究所の先生方は「肺で増殖したウイルスは粘膜を破って静脈に進入、感染の翌日には早くも脳に達してしまうし、また、ウイルスが肝臓や筋肉に入り込めば、やはり組織に障害を来し、肝不全や筋肉痛が引き起こされます。このような事実から、インフルエンザの対応にはきわめて慎重さが必要である。」と話されて おります。
<インフルエンザの予防>
@人混みへ出かけるのはなるべく避ける。
A外出後は必ず、うがいをし石鹸で手を洗う。
B規則正しい生活で疲労をためない。
C加湿器により室内湿度を保つ。

原本平成8年2月  山川泰男


インフルエンザの予防について

 予防接種法の改正により、平成6年10月1日からインフルエンザの予防接種は任意接種となりました。インフルエンザワクチンは病気を軽くする効果はありますが、流行を阻止することにはあまり役に立たないと考えられたためです。
 例年10月から12月にかけて、保健所、幼稚園、小学校、中学校、高等学校在籍者に対して集団で予防接種が行われていましたが、平成6年度からはありません。予防接種を受けたいと思う人は、実施してくれる医療機関に出かけていって受けることになります。
 インフルエンザは、普通の「かぜ」に比べて、悪寒、発熱、全身倦怠などの全身症状が強く、肺炎、心筋炎などを併発することもあります。また、短期間に多数の人が同時に寝込んでしまうことになり、社会的損失も大きい疾患です。
 インフルエンザを予防し、かかっても軽く済ませるために次のことに心がけましょう。
●できるだけ人混みにでかけない。
●うがいと手洗いを日に何度も実行する。
●下着をきちんと取り替える。
●美味しいものを食べる。
●日常生活では、あまり頑張りすぎないようにして疲労を防ぐ。
●暖かくしてよく眠る。
●慢性疾患を持っている人は、その病気をよくコントロールして、体をよい状態にしておく。
 一人一人が自分の体を守って、冬を元気に乗り切りましょう。

原本平成6年11月  小松紀子


「かぜ」について

 ひとくちに「かぜ」と言っても昔から風邪、感冒、寒冒など色々の字が使われていますが、医学的には「風邪症候群」といいます。
【病原体】原因の90%以上はウイルスであって主なものはインフルエンザA及びB型、エコー、ポリオウィルスなどです。ウィルス以外のものとしてはマイコプラズマ及び2〜3の細菌があげられています。
【症状】発熱(37〜39度)、全身倦怠感、頭痛、食欲不振、腹痛、筋肉痛などの全身症状と上気道(はな・のど)炎症症状として鼻汁、くしゃみ、咽頭痛(のどの痛み)、咳、痰などがあげられ、流行によっては下痢、腹痛、はき気、嘔吐などの消化器症状の方が著明のこともあります。
【治療】病原体のウィルスに直接きく薬はないので治療は対症的(症状に応じて治療すること)になります。
 すなわち初期ならば解熱剤や抗ヒスタミン剤を飲んで、温かい水分の多い食事をとって、ふとんをかぶって寝ていればよいのですが、問題は化学療法剤(病原体に対し強い殺菌作用がある薬)を使うかどうかです。症状が長びき、咳や痰がふえるようでしたらかかりつけのお医者さんに相談して使用すべきでしょう。
【予防】鼻やのどの粘膜の温度が下がると抵抗力が落ちてウィルスが粘膜でふえやすくなります。足や首の回りが冷えると反射的にのどの粘膜の血管も収縮して温度が下がりますので、寒いところでのマスクやマフラーは効果があります。
 また、鼻やのどの粘膜が乾燥するとウィルスが勢いを増しますので、部屋の湿度にも注意が必要です。
 「かぜ」のウィルスは咳ばかりでなく手から物へ、物から手、さらには鼻や口へとうつりますので流行期は手洗いを励行してください。
 最後に予防接種ですが、今までに予防接種を全く受けていない人がインフルエンザにかかると症状がかなり重くなることがありますので、入試とか結婚式その他大事を控えている人や老人は予防接種を受けておいた方がよいと思われます。

平成3年12月  石川益男


肺ガン(その1)肺ガンの種類

最近がんによる死亡は増加し、がんは国民の死因の第1位を占めています。諸臓器のガン死亡率は日本では胃ガンが第1位、2位は肺ガン(s63現在)です。胃ガンは減少傾向にある反面、肺ガンは増加の一途をたどり、その急増ぶりが憂慮されています。 肺ガンは諸臓器の中で最も根治し難いものの一つですが、早期の肺ガンなら、手術を行って、極めて高い治癒が望めます。そこで、早期の肺ガンとはどんなものか、また肺ガンを早期に発見するにはどうしたらよいか、3回に分けてシリーズで考えてみます。
 発生する肺の場所によって、肺ガンを二つに分けます。一つは気管支の太い部分にガンができ、ガンが気管支の壁だけにとどまり、リンパや体の他の部分に飛び散っていない肺門部早期肺ガンと、今一つはこれより末梢部、肺野にでき、ガンの大きさが直径2cm以下で肋膜やリンパ腺など他の部分に飛び散っていない、肺末梢部早期肺ガンと二つに区別されます。この二つは、それぞれ性質の違ったガンができやすく、従って発見する手段も違ってきますが、早期肺ガンを見つける方法は確立されていますから、一人一人が肺ガンに対する知識をもち、先ず、積極的に肺ガン検診に参加をされることです。急増する肺ガンにストップをかける唯一の手段は、早期肺ガンをみつける事です。

 昭和63年8月  菅 勝男


肺ガン(その2) 肺門部早期肺ガン

 肺門部早期肺ガンは40歳以上の男性の喫煙者に多くみられます。
 空気の通る道筋にできるので比較的色々な症状が現れやすく、その筆頭が血痰です。タバコ、40歳以上の男性、血痰の3つがそろった外来患者10人のうち1人は肺ガンであったという報告もあります。次にそれまで余りなかった咳がでるようになり、ガンの刺激により粘膜の分泌異常がおこり、このため咳がでます。また、ガンで邪魔された気管支の末梢に肺炎を起こして、熱が出たり、ゼロゼロいったりします。また気管支の中のデキモノが、空気の出入りの道をふさいでしまって息が苦しくなったり、空気が通ると楽になったりします。
 肺門部早期肺ガンは成長が比較的ゆっくりで、かなり大きくなっても転移することが比較的少ないという特徴があります。しかし、大きな血管が重なっている肺門部は、レントゲンの読みがむつかしく、異常を見つけにくい事があります。 そこで、レントゲンで肺ガンが疑われたら直ちに痰の細胞を検査すること、気管支ファイバースコープで、気管支の検査をする必要があります。
 この2つの方法で約90%は確認できますから、年2回のレントゲン検査と、痰の検査を行ってチェックすることが、肺門部早期ガンの早期発見につながると思います。

昭和63年9月  菅 勝男


肺ガン(その3) 末梢部肺野早期肺ガン

 末梢部肺野ガンは、非喫煙者にもよくみられ、症状が現れにくく、多くは無自覚で、他覚所見もほとんどありません。 このガンは成長が比較的早く、小さいうちから転移しやすいので100%治癒を望むなら、ガンが1cm以下のうちに発見しなければなりません。 このガンの疑いをもつ唯一の手がかりは、レントゲン検査といってよいと思います。もし肺ガンが疑われたら、気管支ファイバースコープで病巣を掻きとって細胞を調べたり、気管支造影を行い、気管支の走行・狭窄を調べます。又、コンピューター断層(CT)検査を行います。
 肺ガンはガン細胞が発育をはじめ、徐々に大きくなって、病変が肉眼的に確認できる様になってから疑いが生じ、診断ができます。従って、レントゲンで発見され得ない時期もありますが、無症状であっても発見できます。
 ですから、ガンが発見されないまでも、年2回のレントゲン検査を行うことが、末梢部肺野の早期肺ガンを発見することになります。 急増する肺ガンにストップをかける唯一の手段は、目下のところ早期に見つけることです。肺ガンの早期発見は、集団検診に対する行政の熱意ある姿勢にかかっているように思われます。
 いずれにせよ、その発見方法は確立されていますから、一人一人が肺ガンに対する知識を高め、肺ガン検診に参加される事です。疑いありとされたら、どんな検査でも受けようという気持ちを持つことです。

昭和63年10月  菅 勝男


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