整形外科


槌指

 ボール競技などで突き指をして、指のDIP 関節(指先にいちばん近い関節)が曲がったまま伸ばせなくなった状態を「槌指」といいます。原因は、指を伸ばした状態で指先にボールなどが当たり、無理やりDIP 関節が曲げられて伸しんきんけん筋腱(指を伸ばすためのスジ)が切れるか、骨折して骨から腱が剝がれるかによって起こります。どちらが原因かは、レントゲンを撮って骨折があるかどうかで判断します。
 骨折がある場合は、手術(骨片が動かないようにピンを刺す手術など)で大抵、良好な結果が得られます。骨折がない場合は手術をしてもあまり強固な固定ができないため、副そえ木や装具などを使って保存的に治療することが多いようです。ただ、この場合DIP 関節を完全に伸ばせるようには、なかなかなりません。
 以上は成人の場合ですが、成長期の小児の場合、骨や腱よりも成長軟骨(これから骨が成長していく部分)が弱いため、同様のけがをしたときに腱が切れたり骨から剝がれたりするよりも、この成長軟骨の部分で指が曲がってしまうことがよくあります。これを骨端線損傷といい、一種の骨折です。
 ですから、小児が突き指して指は動かせるけど爪の付け根の辺りが腫れて痛みが強いようなときは、骨端線損傷の場合がありますので病院で診察を受けたほうがいいでしょう。特に爪の付け根から出血しているようなときには、感染を起こして骨髄炎になる危険もありますので注意が必要です。必ず受診しましょう。

平成26年6月 秋山明三 


ぎっくり腰

 腰痛は、皆さんいろいろ経験されていると思います。その中でも特に、突然、急激におこるものがぎっくり腰です。何かしようとして体をちょっと動かしたとたん腰がギクッとなり、そのまま動けなくなる。横になって安静にすれば痛みはありませんが、少しでも腰を動かすと電撃的な激痛が走り、冷汗が出る。こんな症状が「魔女の一撃」ともいわれる「ぎっくり腰」です。医学的には「急性腰痛症」といわれ、腰の強い痛みが中心で膝から下の痛みやしびれ感などはありません。もしあれば腰椎ヘルニアなどの別の病気です。
 治療としては、注射(硬膜外ブロック)や薬(鎮痛剤)を使ったりしますが、まず2週間も安静にしていれば痛みはなくなります。ぎっくり腰が1か月以上も続くことはありません。なかなか治らない場合には、一度医療機関を受診してください。
 痛みが治まった後は、一般的な腰を守る運動として背筋と腹筋を強化する体操を行い、腰に負担のかからない上手な物の持ち上げ方を身につけましょう。
 要は、腰痛を予防するには、常日ごろから背筋が伸びた良い姿勢を心がけ、骨盤や股関節のまわりの筋肉をしっかり伸ばすストレッチ体操をすることが一番良いでしょう。

平成24年8月 井門  等


腰部脊柱管狭窄症

 両下肢のしびれやいたみ、冷感を訴えて病院に行くことがありませんか。診察とレントゲン検査を受けたあと、先生に「続けてどのくらいの距離を歩けますか」と聞かれ、そういえば休み休みでないと遠くへ行けませんと答えたあなたは、腰部脊柱管狭窄症の疑いがあると言われたことがあると思います。そのあと MRIで診断確定されます。ただし両下肢の血流障害(動脈閉塞症)でも同様の症状がみられるので先生の診察をしっかり受けてください。MRI では腰部の脊柱管(脊髄を入れる管腔)が腹部からの椎間板と背部からの黄靱帯に圧迫されている像がみられます。生まれつき脊柱管が狭い人にその後の労働と加齢することにより発生するといわれます。治療ですが禁煙や腰下肢を温めることや、やや前かがみで歩くこと、両下肢の筋肉をきたえる(筋力トレーニング)ことやストレッチ体操を行います。自転車もおすすめです。その上で先生から血流改善剤やいたみ止めをもらって軽快しなければ病院によっては神経ブロック注射も行われます。外来で週₁回の仙骨硬膜外ブロックや入院しての腰部硬膜外ブロックがあります。1〜2か月の治療で効果がみられなければ手術(椎弓切除術)も考慮されます。両下肢の麻痺や膀胱直腸障害がみられたら早急な手術が必要です。長寿社会になり高齢の男性にはこの病気が増えてきているようです。ウオーキングをできるだけ行って健康な体と丈夫な腰をつくりましょう。

平成22年12月 斎藤 俊


骨粗しょう症はこわくない

 骨がもろくなる病気、骨粗しょう症が、骨折をおこして、寝たきり、認知症、死と直結するような話として社会に広まり、「寝たきり老人にはなりたくない」という思いが、「骨粗しょう症にはなりたくない」という話にまで拡大されていますが、この骨粗しょう症は怖いという話には誤解が積み重なっています。第1の誤解は、骨の量の減少が骨粗しょう症であるということですが、骨の量は健康な人でも加齢とともに減少しますので、脊椎骨がつぶれたり深呼吸で肋骨が折れたりちょっと手をついただけで骨折する人を除いて、無症状・日常生活に困らない人は治療不要です。第2の誤解は、骨粗しょう症で大腿骨頚部骨折をおこすということですが、9割が転んでおきたものですから、転びにくくすること、すなわち肥満を減らし、運動能力向上・脳梗塞予防が大切です。運動能力低下の人はつえを使用し、運動能力向上には、正しい歩き方の訓練・ストレッチング・筋力増強運動・バランス感覚を養うボール遊び・ジャンケン・リズム遊び・日本舞踊などがあり、脳梗塞予防には水分を十分にとりましょう。また、上手に転べないと骨折をおこしやすいので、転ぶときはあごをひき・口を閉じ・手を使わないで全体を丸めて転ぶのが上手な転び方です。第3の誤解は、老人の骨折は治らないということですが、正しい診断を受けて整形外科医による適切な治療(手術・リハビリテーションを含む)でちゃんと歩けるようになります。

平成 22年9月 篠崎進一


骨粗鬆症について

 骨粗鬆症という言葉を耳にしたことのある方は多いと思います。骨粗鬆症とは骨の中のカルシウムが少なくなって骨がもろくなる病気ですが、加齢や女性ホルモンの現象などのためどうしても避けることができない病気です。では、どのように取り組めばいいのでしょうか。
 骨粗鬆症を予防するためには、まず、カルシウムを含む食品をしっかりとることです。次にカルシウムが吸収されなければなりません。そのためにはビタミンDが必要となります。ビタミンDは日光にあたることによって皮下で作られますので、日光にあたることも非常に重要です。最後にカルシウムが骨に取り込まれて骨が丈夫になるためには、骨に適度な刺激が必要です。刺激を与えるには体を動かすことが大事です。このように骨粗鬆症に対する治療としてはカルシウムの摂取と日光浴と適度な運動が三つの柱になります。牛乳や小魚を食べて暖かい日差しの中を散歩するのがよいでしょう。
 しかし、それ以上に重要なことがあります。骨粗鬆症で一番問題になるのは転んだときに骨が折れやすいことですから、転ばないこと、つまり骨折を予防することが非常に大事です。そのためには家の中の段差をできるだけ無くすことや、外出するときには杖をつくなどが必要です。
 健やかな老後を送るために、骨粗鬆症を予防し、骨折しないよう心がけてください。

H13年5月 秋山明三


頸部脊髄症

 首(頸椎)、背中(胸椎)、腰(腰椎)は、脊柱といい、脳を支え、脳からの神経(脊髄)を保護しています。
 脊柱の中でも、首は特に重要であり、首より手足や内蔵に行く神経が分かれるため、首の脊髄が圧迫されると、首以下の運動知覚機能、特に手足の機能の障害や内臓の機能の障害(排尿、排便障害)が見られます。
 具体的にいえば、
  ①手がしびれる。②手が動かしにくい。(箸が使い難い。)③握力が低下する。④足が前に出にくく、歩きにくい。
などの症状が出てきます。
 これらの原因としては、頚椎椎間板ヘルニア、外傷、脊髄自体の疾患、腫瘍(しこり)や感染などがありますが、頸部脊髄症(頸椎の老化、退行性変性にもとづく病気)でも起こります。
 したがって、首(頸椎)が悪いと両手両足に症状が出ることを知っていただきたいと思います。脊髄は強く圧迫されると、再生、回復がきわめて望み薄いものです。治療を受けるタイミングによって患者さんの運命が決まります。
 手の痺れは初期症状ですが、前期などの気になる症状があれば、できるだけ早く、近くの整形外科を受診して、早期診断、早期治療を受けられることをお勧めします。

平成12年5月  長野洋司


膝の半月板

 膝の痛みと一言で言っても、さまざまな原因でおこります。けがによる靱帯、半月板や軟骨の障害、加齢によっておこる軟骨や半月板の変性の痛みなどさまざまです。今回は、膝関節の中にある隠れた立役者である半月板の話をします。
 半月板は膝関節の内側と外側に一つずつある、三日月型もしくはO型をしたコラーゲン繊維からなる組織です。とても弾力性に富み、膝の屈伸で前後や左右に移動します。この半月板というものはどのような役割をしているのでしょうか。
 膝関節の形をよくみると、丸い大腿骨、平坦な脛骨(すねの骨)とからなる関節であり、接触面積は非常に少ない(道路とタイヤの関係)なのです。その間に半月板があります。つまり平らな物の上に、丸い物が治まりやすくしているのです(ゴルフのティーのような物です)。さらに半月板は、弾力性があり膝に伝わるショックをやわらげる働きをします。
 半月板が障害を受けると、どのようになるでしょうか?
 まず症状として、関節周囲の痛みや引っかかり感(膝の曲げのばしで何かはさまる感じ)などがおこります。また関節自体が不安定になったり、軟骨の摩耗がおこりいわゆる変形性関節症を引き起こします。軟骨の摩耗は現在の医学では残念ながら治療することはできません。しかし、これ以上進行させないためにも、このような症状がある時はなるべく早く、整形外科を受診された方がよいでしょう。

平成11年12月  三木冬人


リウマチ様膝関節炎について

 私の診療所を訪ねてくる患者さん達の病気の内、とりわけ多いのがいわゆるリウマチ様膝関節炎である。膝関節の使いすぎ、過負荷などが誘因となって起きる病気である。膝関節の内側下寄りに炎症を来たし熱感と疼痛がありひどくなると膝関節腔内に、炎症産物として、いわゆる水が溜まって腫れてくる。激痛とまでは行かないが、起居、歩行時に膝の内側に痛みがあり、自ら跛行するようになる。坂道の下り、階段を下りるときなどに特に痛むのが特徴である。むかしあるスーパーのエスカレーターは上りだけであった。ここの設計をした方は膝関節炎をやったことのない人に違いないと思った。今治から呉に行く途中、島で良質の蜜柑の産地で有名なところがある。この島の蜜柑畠は急な山の斜面を開いて作られており、平坦な地はほとんどない。この地形のためか、蜜柑農家には、膝関節症の人がまことに多かった。今はモノレールなどが普及しているが、昔は蜜柑の収穫や肥料の運搬など、全て人力であって急な山路を上り下りした由だ。膝を痛めやすいのは、当然であった。膝関節炎の治療はまず第一は膝関節を安静に保つことで、極端にいえば安静を保つことだけで軽いうちなら治ってしまうも のであるが、膝の関節の痛み自体それ程強くないために、ついつい軽視してしまい、無理をするので、軽快増悪を繰り返して、慢性化してしまいがちである。また、膝の水は抜くと癖になるとか、膝の注射を続けると骨がボロボロになるとTVで言っていたとか、間違った考えを持つ人があり、治してしまうまで、月に2回ぐらい関節の注射を続けるように言っても、少し良くなると、治療をうち切ってしまう人が多い。治す気がないのだろうかと思えるぐらいだが、自らのいたらなさを痛感しつつ、正しいと信ずる治療について言い続けるのみである。

平成11年4月  村上良祥


肩こりの予防

 肩こりは日本の慢性国民病ともいわれ、日ごろ経験することが多いと思います。しかし、欧米人には少なく、肩こりに相当する英語がないという事実は、日本人の体型、生活様式に何か原因がありそうです。すなわち、欧米人に比べて日本人は体型が華奢で、お辞儀をする機会が多く、人に気を使いストレスがたまりやすく、畳の生活で背中を丸くする習慣などが原因で、頚から肩にかけての筋肉(主として僧帽筋)が緊張して静的疲労状態となります。また、ストレスにより、自律神経の一つの交感神経が刺激されて血管が収縮するために、筋肉内の血液の循環が悪くなり、老廃物がたまり筋肉の神経を刺激して痛みを生じるようになります。ですから、筋肉の静的疲労状態を作らなければ肩こりを予防できるはずです。まず、背中を伸ばしてできるだけ不良姿勢にならないようにしましょう。歩く時や立った姿勢では背筋と腹筋に力を入れる努力をします。椅子に座るときも同様で、机に比べて椅子が高すぎないようにすることも大切です。運動不足の場合は、頚から肩にかけての筋肉を鍛える体操をして、頭を支える筋力をつけます。ただし、以上の注意をしてもなかなか痛みがとれないときは、頚の背 骨(頸椎)に異常があるために生じた痛みの可能性もありますので、整形外科で精密検査を受けることも大切です。
 結局、肩こりは、不良姿勢、運動不足、ストレスを改善すれば、かなりの確率で予防できると思います。

平成10.11.  重松泰介


外反母趾について

 足の指の変形の中で特に女性に多いのが、外反母趾といわれる変形です。これは足の親指が付け根から小指の方に向かって、ちょうど“く”の字のように折れ曲がり、付け根の部分が出っ張った状態です。変形が進めば2番目の指と重なるようになったり、出っ張った部分が靴の中でこすれて炎症を起こし、腫れるために痛みをともなうこともよくあります。生活様式が洋式となり、靴を履くようになってから、この変形が増え始めたといわれています。そして女性に多い原因の一つはハイヒールにあるとも考えられています。ヒールが高いために、つま先で体重を支えるようになり、さらに先の幅の狭い靴で圧迫されたり、足の裏の筋肉がやせ、筋力が低下することや、体重の増加もいっそう負担になるようです。
 治療としては痛みがあったり、変形が軽い場合は、ヒールの高い靴や先の細い靴を避け、幅が広く、かかとの低い足の大きさによく合った靴を履くようにすることが大切です。また両足の親指の間にゴムバンドをつけて足を開くような矯正体操や、足指を強く曲げてものをつかむような運動をすることによって、予防したり、進行を防ぐことにもなります。変形のために靴が合わなく、痛みを繰り返す場合は矯正装具を使用します。簡単な装具は市販もされていますし、あるいは病院で処方を受けられてもよいと思います。変形が強く、装具で効果があがらない場合や変形を直接治したいときは、矯正手術を行うこともできます。 

平成9.10.  伊藤俊雄


突き指

 スポーツなどで起こる指のケガをひっくるめて突き指と呼んでいます。
 しかしこの言葉は、どちらかといえば指のケガの起こり方を表したもので、その中には指の関節の捻挫、腱や靱帯の断裂、脱臼や骨折などいろいろのケガが含まれています。スポーツでは手よりも大きなボールを使用するソフトボール、バレーボールなどでおこる場合が多いようです。
 ひどい脱臼や骨折では、指が関節で曲がらなかったり、強い変形をおこしたりしますので、だれでもすぐに病院へかけつけますが、症状の比較的軽いものでは放置されて思わぬ障害を残すことがあります。突き指のうち、次にあげる二つのものは私達が外来で最もよく見かけるものです。
①槌指(つちゆび):これは指の先の関節(DIP関節)が下に曲がってまっすぐ伸ばせない状態(ケガ)のことを言います。骨折の場合と、伸ばす腱が切れた場合とがあり、レントゲンをきちんととらないとその区別はつきません。放置すると指が曲がったままになってしまいます。骨折よりも腱の切れた方が治療に時間を要し、意外とやっかいなケガの一つです。
②指の真ん中の関節(PIP関節)の骨折:関節がはれ、手のひら側に内出血がみられ、指を曲げると痛みがあります。骨折片は小さく、診断さえつけば治療は比較的簡単です。
 突き指だからといって決して油断は禁物です。

平成3年11月  村上敬明


膝の痛み

 老化によって膝の関節が痛くなる変形性膝関節症について述べてみましょう。この場合の痛みの特徴は運動時の疼痛で、長時間の歩行で強くなり、安静時には軽くなります。病状が進行すると膝の曲げのばしに制限をきたすようになり、正座をすることが難しくなって、椅子の生活に切り替えなければならなくなります。特に膝の内側の病状が進行して内反変形(O脚)を呈する場合が多く見られます。
 関節内の病的変化としては関節軟骨が摩耗するため関節のすきまが狭くなり、軟骨のすぐしたにある骨が硬くなり、骨棘形成といって骨の端っこがとがってきます。ひどくなると骨のう胞が見られることもあります。また関節包や滑膜が肥厚して、関節に水が溜まってくることもあります。
 治療には温熱療法(ホットパック)、薬物療法(消炎鎮痛剤、ステロイドの関節内注入)、装具療法(足底挿版、膝装具)、手術療法(骨切り術、人工関節)などがあります。その他に運動療法として、膝を伸ばす働きをする筋肉(大腿四頭筋)を強化します。
 その方法の一つを紹介しましょう。膝を伸ばして脚を投げ出して座り、膝の下に巻いたタオルをおいて、かかとを床から離さないでこのタオルを床に押さえるように力を入れます。回数は30回を1セットとして1日3セットぐらいではじめ徐々に回数を増やしていきます。これを根気よく続けることが肝要です。

平成2年6月  弓立恒善


ぎっくり腰

 立ち上がったり、重い荷物を持ち上げたり、体をひねったりした時に、急に起こる激しい腰の痛みが「ギックリ腰」です。 これには、①腰を曲げて体をひねったり横に傾けたりした時、背骨(腰椎)の後にある関節を包む袋が破れる場合、②同じ関節が年とともに変化し、この関節の間に関節を包む袋がはさまれた場合、③腰の筋肉を貫いて皮膚に達している神経が、何らかの原因で刺激されて起こる場合、④背骨をつないでいるスジ(靭帯)が切れた場合、⑤よく知られている椎間板ヘルニア、⑥骨のもろくなっている老人がクシャミをして背骨がつぶれた場合など色々な原因があります。とにかく、「魔女の一撃」といわれるほど痛みは強烈で動けません。 こうなったら、まず腰に無理をかけないように横向きになり、足を曲げて寝ていることです。座っているのは腰に無理がかかりすぎます。2~3日寝ているだけで良くなることもありますが、原因によってはなかなか良くならないこともありますので、早めに適切な治療を受けるほうがいいでしょう。
 腰には、手に持つ重さの10倍の力がかかることもあるので、日頃からおなかや背中の筋肉を鍛えておくことが大切です。適当な運動は骨も丈夫にするのです。 また、ものを持ち上げるには、急に持ち上げたりせず、しゃがみ込んでから待ち上げるなど、日常の動作にも注意したいものです。

平成元年4月  藤田敏博


頸の痛み・肩こり・手のしびれ

 今回は、頸の病気についてお話しましょう。その前にちょっと頸のしくみについて説明します。頸の中心には「せぼね」が入っており、それを頸椎柱と呼び、7個の椎骨とその間にはさまっている軟骨(椎間板)でできています。その中をせき髄神経が走り、椎骨と椎骨の間から神経を出し、手足の先までいっています。頭の重さはボーリングの玉ぐらいあり、それを支えるのはほとんど頸の周囲の筋肉です。
 年をとってくると軟骨はすり減り、骨にはトゲができ筋肉は衰えてきます。そのため重い頭を支えたり、動かすのが難しくなるため頸や、背中や、腕が痛んだり、トゲが神経にさわるため手足がしびれたりします。
 頸の痛みを治すには、症状のひどい時には何よりも安静が第一で、頸に頭の重さをかけないことが大切です。症状が少し楽になれば温めることが効果的で痛みが感じなくなるだけてなく、血液の循環がよくなるからです。
 肩こり、手のしびれには、温熱も有効ですが、器械で頸を引っ張ったり、ゆるめたりする間けつ牽引療法も効果的です。なぜなら神経への圧迫がとれ、筋肉や靭帯がマッサージされて楽になるからです。このほか、痛みには刺激を抑えて痛みを軽くする薬(鎮痛消炎剤)、筋肉のこりを和らげる薬(筋弛緩剤)、しびれには循環をよくする薬(循環改善剤)やビタミンB剤などが有効です。

  平成元年2月  吉武博正


側彎症

 最近、側彎症という言葉も耳なれたものとなりました。しかし、子供さんが側彎症の疑いがあるため、精密検査の必要があると言われれば、驚かれる親御さんも多いと思います。
 人の背骨は側面から見ると、首と腰では前方へ、胸では後方へ凸に曲がっていますが、背面から見るとまっすぐです。ですから、側方への彎曲があれば異常と見なします。
 側彎症は増悪すれば心肺機能、ひいては寿命にも影響します。早期に発見し、治療することが必要です。学校検診以外で、家族の方が異常を発見することもあります。
 最近この年令では親子が一緒に入浴する機会が減りましたが、子供さんの背中にご注目下さい。彎曲が強ければ一目で側彎とわかることもありますが、おじぎをさせて後から背面の左右の高さに差があれば側彎が疑われます。これは側彎による胸廓変形を反映したもので、集団検診のモアレ撮影も同じ原理の利用です。
 この病気は、少々押したり、引っ張って治るものではありません。特殊な牽引、ギプス、コルセット等場合によっては手術を要することもあります。治療期間が成長終了までの長期にわたること、この間、治療のためたびたび授業を休むこと、装具の装着が、日常生活、勉学に不自由なこと等のため治療を中断し、悪化する方もいます。本人の自覚、家族の理解と熱心さが不可欠です。 子供は親の後姿を見ています。親も子供の姿勢を含め背中に関心を持って下さい。

昭和63年12月  加藤 實


五十肩とは

 五十肩は、はっきりした原因もなく中年以降の人にみられる肩の関節の痛みと運動の制限を訴える病気です。「万歳」、「帯むすび」、「髪すき」などの一連の独特な動作がしにくいのが特徴で、40歳以上に多く、とくに50歳代に多発するので五十肩、四十肩と呼ばれているわけです。また60歳、70歳の方でも同様な病変が起りますので、私など「40歳代の体力をしているしるしですよ」「うしろに手が廻らなくてよかったですね」などと患者さんに冗談をいって安心していただいたりしております。 この病気は治療しなくても2~3年内に80%が日常生活に不便を感じなくなるまでに自然に回復するものとされていますが。経験上は発症より回復までの期間が6ヵ月から2~3年以上の比較的長期間を要し、なかなか治りにくい様です。
 五十肩の医学的定義はいくつかの説があり、完全に統一されているわけではありませんが、いずれにしても肩の関節を構成しているもののどこかが障害されるものと考えてよいと思います。
 江戸時代の埋言集賢に「凡、人五十歳ばかりの時、手腕骨筋の痛む事あり、程過ぎれば薬せずして癒ゆるものなり、俗にこれを五十腕とも五十肩ともいう、人長命病なり」とありますが、これは平均寿命の短かった時代のことであり、長生きしているから出る病気だなどと思わず、正しい治療を受けてください。
 治療には医師による専門的な治療方法とは別に、基本的には肩を冷やさないこと、急性期が過ぎると五十肩体操などの運動療法が中心となってきます。いずれにしても医師による正しい治療を受けて、一日も早く痛みから開放されて快適な日々を送られるようにおすすめします。

昭和63年6月  竹内鬼三郎


スポーツ外傷-特に捻挫について-

 スポーツに関する関心は近年、ますます高まりつつありますが、それに伴ってスポーツによる怪我も増えてきています。 スポーツ外傷には大きく分けると、急性外傷(転倒や衝突など外力による直接外傷)と、スポーツ障害(走る、投げる、飛ぶなどというスポーツ特有の動作を続けることにより、体のある部分だけに過度の負担がかかって起こる障害)とがあります。
 急性外傷の主たるものは骨折や関節の捻挫、脱臼です。今回は最もよくみかける怪我である捻挫について最近の治療法をお話しましょう。捻挫をよく起す部位は、膝関節、足関節や手指の関節です。まず、その捻挫の重症度をよく見分け、重度の靭帯損傷がないかどうかを見極めることが肝要です。
 応急処置としては、ICER療法といいますが、冷却(I)圧迫(C)、高挙(E)、安静(R)を2~3日行います。この初期の処置が、以後の運動機能の回復へ大きく影響しますので、特に重要です。急性期の2~3日が過ぎると直ちに早期の関節運動を開始します。まず、自分自身で関節を動かしてみる自動運動から始め、次に、抵抗や重さの加わった筋力訓練、歩行や持久力、バランス訓練へと進み、2週間くらい経ったところで、最後のランニング、ジャンプ、スタートダッシュなどの高度な動きを行うようにして、スポーツへ復帰します。以上のように早期の関節運動を行うことにより靭帯の機能回復を早め、筋肉の衰えを防ぎ、関節の癒着を回避出来ます。

昭和62年7月  藤井紘三


老人の膝関節痛

 人間は2本足で立つ動物です。長年の間には何万歩も歩きます。従って、年をとってくると、関節の老化が原因となり、そこに過重な負担がかかれば、骨と骨の間にある軟骨がすり切れたり、軟骨周辺に骨が増殖し、とげ状の骨が出来たりして、関節の変形を来し、関節内に水がたまったり、痛みが生じやすくなったりします。これが老人によく起こる関節の痛みで、変形性関節症と呼ばれ、特に膝関節に多いようです。
 では、このような痛みを防ぐための日常生活での注意すべき事は、 関節を適度に動かし(関節に過重をかけずに行う運動)、関節周辺の筋肉を強くする。関節を動かした後(特に負担をかけた後)には、十分な休養をとる。いたむ関節に負担をかけない 判りきった簡単な事ですが、以上3点が大切な事です。 しかし、痛むからといって、じっとコタツで寝てばかりでは、筋肉が弱まり、関節の栄養も悪くなり、害になります。入浴などで関節を温め、又、入浴中での関節運動を行うと、全身の血流状態も良くなり、筋肉を和らげ、幾分、痛みもとれるので、関節運動の効果があがります。その後、湿布薬、塗り薬を使用し休むと、翌日はかなり楽になります。 関節の負担を軽くするには、時には、サポーター、装具、ステッキ(杖)などを使用したら良いと思います。又、肥え過ぎは、それだけ多く負担がかかりますので、減量に心掛けて下さい。
 関節の変形が強く、痛みの続く場合、又、関節の運動療法などについては、医師、理学療法士に相談し、適切な治療、運動療法をする事をおすすめします。

昭和61年2月  井出州紀


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