耳鼻咽喉科

嚥下障害のリハビリテーション

 物を食べるとは、口腔内で咀嚼した食物を舌根から咽頭に送り、喉頭(気管)に誤って入らないよう蓋をして食道へ、そして胃に至って終わる運動で、極めて複雑な仕組みです。嚥下障害はこれら複雑な運動のどこかが悪くて生じるのか診断・評価するのが重要です。歯牙に異常があれば歯科、口腔・咽喉頭・頸部なら耳鼻咽喉科、神経に問題がありそうならば脳外科・神経内科などの総合的な判断が必要とされます。ときには肺や心臓の病気、全身的な病気の一部分として現れることもあります。
 摂食症害について、テレビや新聞では咀嚼の障害と嚥下の障害とが混同されて扱われることが多いので、注意が必要です。嚥下の診断、つまり舌の動き、咽頭・喉頭が正常に働いているかの診断は、耳鼻咽喉科の専門分野で、内視鏡や透視により悪い部位を特定します。
 自覚症状はなくても軽度の誤嚥(食物が気管に入ってしまうこと、肺炎や窒息の原因になる)を来している高齢者はまれではありません。耳鼻咽喉科の日常診療ではよく見かけます。「水を飲むとむせる」、「食事中・食後に咳き込む、咳が多くなる」、「喉にたまってしまう」などの症状がある場合には、一度、耳鼻咽喉科を受診することをお勧めします。
 最近は「嚥下訓練」が広く行われるようになりました。例えば、脳の病気などで飲み込めなくなった場合でも、初めは経鼻チューブを入れるかもしれませんが、口から食べる喜びは代え難いもので、できればチューブや胃痩に頼らず、経口摂取の再開を目標としたいものです。言語聴覚士の業務の一つに嚥下訓練があり、今治市でもいくつかの施設で嚥下のリハビリが行われています。大変手間と根気のいるリハビリテーションですが、口から食べることを諦めず、挑戦されてはいかがでしょうか。

平成26年3月 鈴木 徹


スギ花粉症

 スギ花粉症の季節がやって来ました。スギ花粉は、沖縄と北海道を除き、広く日本列島に飛散します。1月下旬から南九州に始まり、徐々に北上し、東北地方では₅月中旬までスギ花粉の飛散は続きます。四国地方では₂月下旬から₅月までです。
 スギ花粉症の患者数は、全国で2千万人または3千万人ともいわれています。スギ花粉症は、鼻の症状(くしゃみ、鼻水、鼻づまり)と眼の症状(かゆみ、涙目、充血)が大部分の人にみられますが、口やのどのかゆみ、咳、下痢や腹痛といった消化器症状を伴う人もいます。さらには、頭重感、熱感、全身のだるさを訴える人もいます。症状の重い人は、日常生活に多大な支障をきたします。
 治療は薬物療法が中心になります。しかし、症状がひどくなると、薬はすぐに効いてくれません。幸いなことに、スギ花粉症には薬の季節前投与(症状の出る前に薬を処方して良い)が認められている唯一の病気です。おおむね、スギ花粉の飛散する2週間前から薬を飲み始めると、そのシーズンは症状が軽く済むことが多いです。花粉症でお困りの方は、来シーズンは、ぜひご一考ください。
 薬の飲めない方や飲みたくない方には、鼻洗浄療法(真水は絶対に使用しないでください)やレーザー、化学剤を使った手術的治療もあります。ただし、これらは半永久的治療でないことをご承知おきください。副作用が少なく、根治が期待できる舌下免疫療法が開発間近です。朗報です。

平成25年3月  村上 譲


耳が遠くなったら

 耳が遠くなると、会話やテレビの音が聞き取りにくくなり、大変不便です。ある日突然聞こえにくくなる病気もあり、その場合は早く治療すれば、治る場合があります。
 急にではなく、だんだんといつの間にか耳が遠くなることもよくあります。音は、空気の振動ですが、この振動を電気信号に変えて神経に伝える内耳という器官の機能は、年齢とともに衰えていきます。
 年をとった内耳を若返らす治療法はありません。しかし、難聴が老化によるものとは限りませんし、内耳より手前にある中耳の病気や大きな耳垢、まれには腫瘍で耳が遠くなっていることもあります。
 耳が遠くなったら、年のせいと諦めないで、早めに耳鼻咽喉科を受診してください。補聴器の相談もお受けできます。

平成24年5月 村嶋克之


鼻炎のレーザー焼灼術

 「レーザー焼灼術」は、「アレルギー反応の主な場である下鼻甲介粘膜をレーザーで焼き、粘膜および粘膜下組織を減量・凝固変性させ、鼻閉・鼻汁・くしゃみなどのアレルギー症状を軽減させるもの」です。日常診療の場でも比較的容易に実施できるという点から、近年、急速に普及しました。
 適応疾患は、主に「アレルギー性鼻炎」ですが、なかでも「鼻閉を主症状とするもの・薬物療法で効果が不充分なもの・長期間の薬物内服を好まない方」などではよい適応になると考えます。また、「鼻出血」などにも実施される場合があります。
 手術は、「日帰り手術です。また、局所麻酔(対象年齢:12歳以上が適当)で実施し、全体の所要時間は、1時間程度(焼灼時間30分程度)」です。焼灼中は、煙が発生しますので焦臭いと感じるかもしれません。主な術後合併症は、「痛み・鼻閉・出血・鼻汁」です。「痛み・出血」は、ほぼ1~2日間で消失しますが、「鼻閉・鼻汁」は、痂皮付着のため1~2週間程度持続します。術後の日常生活にはあまり影響がないと考え、鼻閉に対する効果は、文献的に60~70パーセントと報告されています。
 以上、レーザー焼灼術について説明しましたが、大切なことは、この治療が「症状を軽減する治療であって、根本治療ではない」ということをまず理解していただきたいと考えます。また、効果も個人差があり、アレルギー性鼻炎の程度によって違いますので(1回で効果が不充分なら定期的に数回焼灼する可能性あり)、医師の説明を聞き、充分理解した上でレーザー焼灼術を受けることをお勧めします。

平成19年12月 加藤 崇


乳幼児の急性中耳炎

 急性中耳炎とは鼓膜の奥の中耳腔が細菌感染により炎症をおこした状態をいいます。感冒などから鼻の奥にある耳管という中耳と鼻をつなぐ管を経由して感染が生じます。特に乳幼児によくおこる疾患です。乳幼児は免疫の力が弱いうえに耳管が水平に走行しているためだといわれています。
 つい最近まで乳幼児の急性中耳炎は抗生物質を数日投与するとすぐによくなっていました。ところがこの数年、とくに低年齢層で非常に治り難い例が増加してきました。内服の抗生物質が効かない細菌(耐性菌)が急増したからです。乳幼児の急性中耳炎の原因菌は主に肺炎球菌とインフルエンザ菌です。この2 種類の細菌とも、ペニシリン系やセフェム系などの乳幼児が内服しやすい抗生物質に対する耐性化が急速に進んでいます。
 こういった場合抗生物質にばかり依存しては治療がはかどりません。赤ちゃんにはかわいそうですが積極的に鼓膜切開をして排膿を促してやることが必要です。また中耳炎を反復するような場合は鼓膜にチューブを挿入することもあります。アメリカでは肺炎球菌感染症予防のためにワクチンもおこなわれていますが日本では乳幼児への接種は認められていません。せめて集団保育の乳幼児にはワクチンがおこなえるようになるといいと思います。

平成17年7月 佐々木裕美


小児の睡眠時無呼吸症候群について

 最近、新幹線での居眠り運転の報道を契機に「睡眠時無呼吸症候群」という病名をよく耳にされると思います。「無呼吸により夜間睡眠が妨げられ、さまざまな症状や別の病気を引き起こす」というものなのですが、成長過程の小児の場合、成人と異なる症状・障害が起こり問題となることがあります。
 小児の睡眠時無呼吸症候群の原因の約70パーセントはアデノイド・口蓋扁桃肥大による上気道閉塞といわれており(他に副鼻腔炎・鼻アレルギー・肥満・先天性疾患など)、主な症状はこれらによるいびき・無呼吸発作・摂食障害などとされています。しかし、先に述べた症状は、風邪などの影響により悪化しやすく、慢性的に続くことにより胸郭変形・顔面骨発育障害・心肺機能障害・ホルモン分泌障害・成長障害・滲出性中耳炎・学習障害などの問題を引き起こすこともあるので注意を要します。
 また小児の場合、自覚症状(夜間不眠・頭痛・昼間傾眠・聴力低下など)が非常に乏しいことも特徴の一つですので、病気の早期発見には周囲の方々による注意深い観察(いびきの程度・無呼吸の程度・寝返りの多さなど)が必要です。
 治療は一般的にアデノイド切除・口蓋扁桃摘出術が著効するといわれてます。しかし、実際はすべてがアデノイド・口蓋扁桃肥大によるものではないため原因を充分見極めた上で治療計画を立てる必要があります。
 以上、小児の睡眠時無呼吸症候群について述べましたが、大切なことは周囲の方々が早期に異常に気付くことです。もし日常生活で「疑わしい」と思ったときは早めに耳鼻咽喉科へ受診することをお勧めします。

平成16年7月 加藤 崇


子どものはなぢ

 小児の鼻出血は鼻の入り口から出る場合がほとんどです。鼻の入り口の粘膜は外気にさらされているので刺激をうけてただれやすく、この結果入り口近くの粘膜の下の血管がふくれて盛り上がり、切れやすくなります。ハナをかんだとき、くしゃみをしたとき、洗面や入浴時など、子どもの場合しばしば出血します。きっかけが無くても出ることもあります。病気というより「出やすい状態にある」といえましょう。ただし、ときには「血が固まりにくい病気の初期症状」のこともあり得るので注意が必要です。
 鼻血がでたときはあわてず、まず圧迫することが大切です。親指と人差し指とで「小鼻」を左右からはさんで5分間強く圧迫すれば、たいていの鼻血は止めることができます。注意点として、骨のある硬い部分ではなく柔らかい「小鼻」をはさむこと、指先をずらさないことが大事です。ティッシュや綿花を詰めてもかまいませんが、指で圧迫することを併用してください。また止血できたかどうか確かめたくて詰めたティッシュや綿花をすぐ取りださないように。せっかく固まりかけていた傷口が再び開いて出血してしまいます。
 たびたび出血すると学校生活やスポーツに支障をきたすおそれもあるので、医療機関を受診したほうがよいでしょう。病的な出血でなければ、入り口の粘膜のただれを凝固することによって出血回数を減らせます。薬品や高周波で凝固するのです。

平成14年9月 鈴木  徹


最近の耳鼻科手術

 近年の外科手術では内視鏡などの利用で、患者さんへの侵襲をできるだけ小さくしようと努めています。耳鼻科領域でも日帰りで行ったり、できるだけ入院期間を短くするための方法が考えられています。その幾つかを紹介します。
1.鼓膜形成術
 慢性中耳炎や鼓膜の外傷のために、鼓膜に穴があいたままの状態になっている場合があります。ふつう鼓膜の穴を閉鎖する手術は鼓膜形成術と言って2週間程度の入院を必要とします。ところが最近では特殊な生体接着糊を使ってとても簡単に鼓膜形成術ができるようになりました。手術時間も短く、手術に伴う合併症の危険も少ないので、日帰り手術も可能です。ただしすべての患者さんに適応されるわけではありませんので、十分に鼓膜の状態を見て手術の有効性を判断してから行っています。
2.内視鏡下鼻・副鼻腔手術
 内視鏡を使った鼻の手術は最近ではスタンダードな手術になりました。副鼻腔炎(蓄膿症)の手術はさすがに日帰りとは行きませんが、手術に伴う痛みや腫れ、出血が少なく治療成績もとてもよくなっています。
 また、薬で効果のないアレルギー性鼻炎には、レーザーで鼻の粘膜を焼却する方法があります。内視鏡で鼻の奥まで観察しながら行うと効果的に焼却できます。これも外来通院でできる手術の代表といえます。

平成12年6月  佐々木裕美


点鼻薬の使い方

 点鼻薬にはステロイド、抗アレルギー剤、血管収縮剤などがあるが、ここでは、局所に使う合成血管収縮剤の使用法について述べる。副作用が問題となる。鼻閉(鼻づまり、鼻閉塞)は、鼻腔粘膜の炎症(急性鼻炎、副鼻腔炎)やアレルギー性の腫脹(アレルギー性鼻炎)によりおこることが多いため、粘膜内の血管を収縮させて鼻の通気度をよくしようという目的で使用する。
 薬の商品名は、プリビナ、トーク、ナーベル、ナシビン、ナーベルが入っているナザール、ルルおよびパブロンなどと、アレルギー性鼻炎用のステロイドとナーベルの合剤であるコールタイジンなどがあるようだ。鼻ないに2,3滴づつ、滴下すると、また少量噴霧すると、10分程度で鼻閉が取れ、鼻汁も減少する。効果の持続時間は短いもので4~6時間、長いものは12時間持続する。
 鼻閉に対しての効果は、即効性で、強いが、風邪のときの急性鼻炎や急性副鼻腔炎の鼻閉で睡眠障害があるような場合に5日間前後使うとか、花粉症初期で、鼻閉が強くステロイドの点鼻薬が効かないで不眠があるようなときに3日ぐらい使用する。7日間以上連続して使うと薬の効果が悪くなり、1日に数回点鼻してもだんだん効かなくなり、鼻閉が強くなる医療性鼻炎を起こしやすくなる。
 急性病に使い、慢性病には使わないのが原則であるが、最近嗅覚障害のステロイド液点鼻の前処置としてやや長く3週間以上使うことがある。医療性鼻炎の傾向はこの場合避けられない。
 乳幼児には原則的には使用しない方がよい。点鼻薬の急性の副作用は大人にもあるが特に乳幼児では、眠気、呼吸抑制、体温低下、徐脈があらわれることがある。6歳以上の人の年余の点鼻薬の乱用は、医療性鼻炎の他、慢性の副作用として、下肢の循環障害(Beurger病)との関係が疑われるものなどの報告があるようだ。点鼻薬は、短期間使用し、早めに中止し、必要なら他の薬にかえるとか手術とかを考える。

平成11年3月  森 務


子供の滲出性中耳炎ってこんな病気

 一般に言われる中耳炎は急性中耳炎で、耳の痛みを感じたり、発熱したり、耳だれが出たりしますが、滲出性中耳炎は痛みを感じません。ただ聞こえが悪くなる病気です。しかも日常生活には支障をきたさない程度の難聴です。そのため治療されないまま悪化していくことが少なくありません。ではいったいこの病気はなにが問題なのでしょうか。それは、幼児~学童の一生で吸収する情報がもっとも多い時期になりやすいと言うことです。この時期に正常な人と比べ80%程度しか聞こえなければ、将来にどれだけの影響を残すでしょう。
 聞こえにくくなる原因は、中耳(鼓膜の奥の部屋)に液が溜まってしまうからです。太鼓の中に水を入れれば、響きが悪くなるのとおなじ様なことです。液が溜まってしまう原因はいろいろありますが、急性中耳炎が治りきらないまま治療をやめてしまったり、鼻炎や副鼻腔炎で、長い間はなが出ていたりつまっていたりすることがきっかけとなります。 治療は、耳に鼻から空気を送ったり、溜まった液を鼓膜に小さな穴をあけて吸引することで聞こえは良くなります。しかしそれだけではまたすぐ溜まってしまうことが多いのです。それで耳の治療とともに鼻やのどの治療をしっかり続けることが大切です。もし治療をしないでそのまま放っておくと、鼓膜が薄くなってしまい、そうなると元気な鼓膜に戻るのに非常に長い間治療が必要となったり、最悪の場合は鼓膜に穴が残ってしまったり治療が難しい癒着性中耳炎になったりします。はやく見つけて適切な治療を続けていれば、10歳頃には繰り返さなくなるので、子供の聞こえが悪いかなと思ったら、専門医に診てもらうことが肝心です。

平成7年10月  水越 肇


鼻出血-血圧が高目の方へ

 寒くなると、成人特に中年以上で血圧の高い人が突然の鼻出血にみまわれることがあります。
 鼻の中の動脈が切れて出血することが多いので、少々鼻を押さえたり、あるいは額を冷やすだけではなかなか止まらず、ノドへもどんどん血液がまわってきます。大量に出血しているように見えるので患者さんもまわりの人もうろたえてしまい、よけい血圧が上がってますます出血することになります。
 鼻血が出たらまずあわてずに、小鼻のところを指でつまんでから左右からしっかり圧迫してみましょう。ティッシュや脱脂綿をつめこんでさらに圧迫するのが良いこともあります。この時の姿勢は横にならないで、すわって下を向き、鼻から出血やノドにまわった血液は顔の下に用意した洗面器等で受けるようにします。ねた姿勢では血液を飲み込んでしまうので出血量がわからない上に後で気分が悪くなるからです。ティッシュ等をつめて止血できた場合は、すぐに取り除くと再び出血しますから少々はなからの呼吸が苦しくてもしばらくそのままにしておくことが大事です。
 小鼻の圧迫で止まるならその出血は鼻の前の方からの出血ということになるのでそんなに心配はありませんが、どんどん出血する場合はやはり病医院を受診なさる方がよいでしょう。主治医の適切な止血および血圧降下の処置により止まってしまえば一安心です。時には耳鼻科的に、鼻の奥と前とからガーゼの固まりをしっかり詰め込まないと止まらないこともあります。このような場合は血圧治療の目的からも入院を要します。
 もし大量の鼻出血を繰り返す場合は、出血の原因である血管を手術的にしばったり、レントゲン透視下に血管の内腔をつぶしてしまうという治療法もあります。
 冬期は血圧が変動しやすい時期ですので、血圧が高めの患者さんは血圧管理に十分御留意ください。

平成4年12月  鈴木 徹


小児の急性中耳炎

 急性中耳炎という病気はほとんどの場合カゼ症状に引き続いて生じます。鼻汁が出て咳をしていると、鼻の奥のバイ菌が耳管という管を通って中耳に侵入し、中耳の急性炎症をきたした状態が急性中耳炎です。鼓膜は赤く腫れ上がって中耳にウミが貯まるので、耳が痛くふさがったようになり、熱が出ます。しばらくたつと鼓膜に穴が開いてウミが流れだし(耳だれが出る)、痛みや熱は軽くなります。はじめから両耳が悪くなることもあれば、はじめは右耳、翌日には左耳と、少し遅れて痛くくなることもあります。
 治療法は、鼓膜がはれてウミがたまっていれば鼓膜切開を行って早くウミが充分外へ流れ出るようにします。家庭で安静を保ち(幼稚園や学校は休ませる)、抗生物質の内服や点耳をきちんと行います。鼻汁・鼻づまり・ノドの痛み・咳などをともなっていることが多いので、汚い鼻汁をよく除いて鼻の通りを良くし、ノドの炎症をおさえる治療を合わせて受けることが早期治癒に重要です。残念ながら一度の鼓膜切開では治りきらず、切開をくり返すこともめずらしくありません。カゼ症状が先行するのでその治療のため抗生物質を内服していると、痛みや発熱など中耳炎の症状が現れないこともあります。また鼓膜切開した後でも痛がらないので治ったかと思っていると、いつのまにか聞こえの悪くなる滲出性中耳炎に移行していることもありますので、カゼの治った後や急性中耳炎にかかった後には聞こえにくそうな様子はないか注意して様子を観察することが重要です。

原本平成4年11月  鈴木 徹


声が嗄れたら

 声は、日常生活上お互いのコミュニケーションをとるために必要不可欠なものです。
 声が嗄れたら、一部の例外を除いて声帯が病気になっていると考えて下さい。声帯の病気は、タバコを吸い、声をよく使う人(教師、営業員、歌手など)に多いのですが、単に声をよく使うから声帯が病気になるのではなく、声の出し方も悪いため病気になるのです。また、声帯に病気のあるときは、声を出せば出すだけ病気は悪化すると思って下さい。
 声帯の病気の予防と治療のために以下のことを守って下さい。
■次のような声の使い方をやめましょう。
①大声を出す。②力んで声を出す。③運動しながら声を出す。④極端の高い声や低い声を出す。⑤風邪を引いているときに声を出す。
■次のことは声帯を痛めやすいので避けましょう。
①タバコ、②過度の飲酒、③長時間のカラオケ、④咳払い、⑤重いものを持つ、⑥力んで排便する。
■次のようにして声を大切に使いましょう。
①楽に出る声で話す、②楽に出る声で歌う、③やかましいところで話すときはマイクを使う、④相手の聞きやすいところで話す。
 いい声は人の心を和ませます。皆さん、声を大切にしましょう。

平成2年5月  村嶋克之


スギ花粉症

 毎年、「スギ花粉症」の季節がやってきます。 「スギ花粉症」とは文字通り、スギ花粉によって引き起こされる色々なアレルギー症状を意味しています。アレルギー性鼻炎の患者さんで「自分は花粉症ではないか。」と言って受診される方がいらっしゃいます。これは、「スギ花粉症」がマスメディアによく取り上げられるからでしょう。しかし、アレルギー性鼻炎の大部分は、その原因が家のホコリ(ハウスダスト)にあります。花粉が原因であるもの(花粉症)は少数派です。原因となる花粉にも、大雑把に申しますと、春の樹木の花粉、夏のイネ科植物の花粉、夏~秋のキク科植物の花粉など、色々のものがあります。樹木の花粉の代表選手が、スギ花粉です。
 「スギ花粉症」の症状は、風によって運ばれたスギ花粉が付着する体の部位によります。その症状は急激に始まります。大部分の患者さんは、①鼻の症状:くしゃみ、鼻水、鼻づまり、②眼の症状:目のかゆみ、涙目、目の充血、③のどの症状:のどのかゆみ、イガイガ、咳、などを訴えます。激しいものですと、発熱、頭重、頭痛を伴うものすらありますので、よく風邪だと思っていらっしゃる方もあります。そこで、「今年の風邪は、えらい長い。」ということになります。普通の風邪ですと、概ね二週間のうちに治りますので参考にして頂ければと思います。

平成元年3月  村上 譲


のどに何かひっかけたとき

 「のどに骨がたった時はご飯をかまずに丸のみすれば良い」と一般に言われており、実際に耳鼻科の外来には「何回もご飯を丸のみしたが取れないので取ってほしい」と来られる患者さんが少なくありません。この俗説は、しかし、例えば舌の付け根にちょっと引っかかっただけの骨の時には、うまく流しこんでくれる事もあるといったほどの意味しか持たず、かえって、より危険な状態へと導きかねない誤った説なのです。
 骨がのどに引っかかった時、果たして、それが比較的安全な扁桃・舌の付け根か、より危険な食道の入り口又は食道の中そのものか、とっさには誰にも判断が出来ません。慌ててご飯を丸のみにした結果、釘を金槌で打つがごとく薄い食道の壁を魚骨の先が破って、その穴から細菌が侵入して恐ろしい炎症を起したり、あるいは、骨そのものが食道の外へ出てしまう事もあります。この場合は首の外又は、胸を開いて骨を取らなければなりません。そうならなくても何回もご飯を丸のみにして満腹になった後では、のどの診察は吐きやすくなるので充分な診察は出来ず、うまくのどの奥深く刺入した魚骨を発見しても空腹になるまで待たなければならないこともよくあります。
 以上のことより、もしのどに何か引っかけたかなと思われたなら、ご飯の丸のみはしないで、おなかが空いた状態で耳鼻科で受診すること(夕食時なら慌てず翌朝早く受診する)全身麻酔を必要とすることもあるので、入院といわれても驚かないことなどを知っていただきたいと思います。

 昭和62年6月  鈴木 徹


老人性難聴と補聴器

 年をとりますと誰でも大なり小なり耳が遠くなってきます。病気のためでもなく、年齢以外に原因が考えられない難聴を老人性難聴といいます。ヒトは25歳を過ぎる頃から肉体的には老化が始まりますが、耳でも同様に老化現象が起こり、音を感じ取る内耳の細胞や感じ取った信号を耳から脳に伝えたり、脳で言葉などを聞き分けたりする神経細胞が衰えたり死滅して、そのはたらきが悪くなります。そのため、小さい音が聞き取れなくなったり、言葉の聞き分けがしにくくなったりすることが起こるのです。この難聴の進み具合には個人差があり、40歳、50歳で耳が聞こえにくくなってくる人もあれば、80歳頃になってもほとんど不自由しない人もあります。 まことに残念ですが、この老人性難聴には有効な治療法はなく、補聴器を使うことしかありません。そこで、補聴器について少し述べてみましょう。

 「補聴器を買う前に知っておかねばならないことについて」

 1.あまり大きい期待を持ってはいけません。若い頃と同じような聞こえになることは望めません。 
 2.音はよく聞こえるけれども、雑音がうるさいといわれる方も多いようですが、補聴器はそれまで聞こえていなかった周囲の雑音も大きくして耳に入れてくれますので、この雑音も聞こえるようになります。人の声だけを大きくするというわけにはいきません。最近の補聴器は機械から出る雑音は非常に小さくなっています。また、雑音のある中で人の声や話だけに注意を向けて聞き取る能力も若い頃に比べて低下していることにもよります。 
 3.補聴器は使用する人の難聴の程度や型などの状態に合ったものでなくてななりません。購入の前に医師を受診し、検査を受けて補聴器の使用が適当かどうか、また、どのような補聴器がよいかをよく相談して、信頼できる販売店を紹介してもらうのがよいでしょう。高価な補聴器ほどよく聞こえるようになるというものではありません。 
 4.老人は新しい機械になじむことがなかなかむつかしいという問題があります。また、小型の補聴器(耳孔型)では、老人は老眼も持っていますので、扱いにくいという場合があります。 
 5.言葉の聞き分けがしにくいという問題は補聴器では解決できない場合もあります。

 「購入後、使用時の注意について」 

 1.聞こえにくいのだから、音を大きくした方がよいだろうと思うのは間違っています。音を大きくし過ぎますと、かえって聞きづらくなり、また、突然非常に大きすぎる音が入ってきて耳を傷めることがあります。 
 2.よく調節された補聴器を使用しておればほとんど問題はありませんが、難聴の進行が起らないとは言いきれませんので、1年に1度くらいは聴力検査を受けて、難聴の進行がないことを確認するのがよいでしょう。 
 3.補聴器は精密機械ですから取扱いには注意が必要です。落として衝撃を与えたり、日向や、ストーブの近くに置きっぱなしにして高温にさらすようなことは禁物です。また、耳に差し込む部分には耳垢がつまりやすく、掃除に気をつけねばなりません。 最近の補聴器は体裁もよく、性能もよくなっています。大いに活用してテレビ、ラジオ、また家族や友人との会話など日常生活を楽しんでください。

原本昭和60年12月(改訂平成10年6月)  加藤専治


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