小児科


手足口病について

 今年は風疹に続いて手足口病も大流行する兆しがあります。手足口病は子どもに多く口や手足を中心に膝や大腿部の特に後側、臀部などにも水疱を作る夏の病気です。多くはコクサッキーウイルスA16やエンテロウイルス71などが、主として飛沫で、あるいは経口や接触感染を起こして発症します。潜伏期間は2~7日。この病気は本来比較的軽症ですが、ときに重症化し2011(平成23)年の流行時には足裏が腫れあがって痛くて歩けなくなった方や急性期の後、しばらくして手足の爪が剥げ落ちた方も多くおられました。なお、ときには脳炎や髄膜炎、食思不振による脱水症なども合併することがあり、大きな流行になればさらに種々の合併症も増えてくる心配があるので必ず小児科医に経過を診てもらってください。
 なお水疱は水痘(水ぼうそう)に似ていますが、手足口病の場合には水痘と異なり、手のひらや足の裏にも多発します。また口の中の水疱は痛みを伴い、このため水分が十分取れず脱水症気味になる子どももいます。特にしょうゆなどは刺激が強く食思不振を招くことがまれではありません。このため年長児で喉詰めの危険のない場合には氷のかけらなどを口に含ませれば冷たさで痛みが多少和らぎ、溶けた水分も少しずつ飲めるようになると思います。乳幼児の場合には冷たい水分を少しずつ与えても良いと思います。喉元過ぎれば体温と同じになる程度の少量ずつであれば冷たくてもお腹は冷えないでしょう。少量、頻回に水分補給を。なお解熱して元気になれば登園登校は可能とされています。

 平成n25年9月  渡辺 謙一郎


小児生活習慣病予防検診について

 今治市では、平成₇年から小学₄年生と中学1年生の児童生徒を対象に、小児生活習慣病予防検診が実施されています。₁次検診で生活習慣病の家族歴の調査、身体計測による肥満の評価、血圧測定、血清脂質検査を行い、肥満の程度の強い小児には医療機関での2次検診を勧めています。さらに、これら小児とその保護者には、学校で養護教諭と学校栄養士が生活面や栄養面について個別指導を実施しています。
 では、なぜ小児の肥満は問題なのでしょうか。ひとつには、肥満児の多くですでに高脂血症などの代謝異常の合併が認められており、小児でも動脈硬化が進行しているのが明らかなことがあります。さらに、小児期から肥満であった人は、成人になって肥満した人に比べて生活習慣病の発症率が高いことなども理由としてあげられます。
 このようなことから学童期の肥満対策は非常に重要といえます。ここで注意してほしいのは、小児では肥満解消のために成人のように体重を減らす必要はないということです。身長が伸びていくので体重の増え方をおさえるだけで肥満は改善されるのです。
 本検診事業の目的は、肥満の原因となっている悪い生活習慣を見直して、より良い生活習慣を身につけてもらうことにあります。そのためには家族の協力が不可欠であることはいうまでもありませんが、家族全員の生活習慣を見直すことも必要と思われます。

平成24年9月 青井 努


麻疹排除を目標に

 「日本は、車と麻疹を米国などに輸出している。」最近まで、我が国は、そのように先進国から非難されてきました。
 小児へのワクチン接種を徹底して行い、麻疹対策を積極的に行ってきた米国などの地域では、2000年に麻疹排除を達成しています。このため米国においては日本からの旅行者などから輸入される麻疹が社会問題化し、2003年には大学生の団体が、集団発生をおこし、帰国させられる事態にまで発展したこともありました。
 日本でも、ワクチンの導入によって、それまで「命定め」と恐れられてきた麻疹の全国的な流行はおこりにくくなって、患者数、死亡者数は大きく減少してきました。私の経験でも、勤務医をしていたころ、麻疹が流行したときは、重症の脳炎や心筋炎をおこして入院したりする子どもも経験しましたが、10数年前に開業してからは、当初数名診たのみで、最近の5、6年では一例も診ていません。それは、2006年からMRワクチン2期接種が始まり、さらに2008年から5年間の2012年まで、MR3期(中学1年生)、MR4期(高校3年生)の麻疹ワクチンの2回目の接種が行われるようになったことが大きな要因と考えられます。2008年は麻疹の患者報告数は11万例余りあったのが、2009年は741例、2010年は、457例にまで減少しています。ここ数年では、フィリピンなど海外から輸入されたと考えられる麻疹の発生報告が多くを占め、日本固有の麻疹は激減しています。日本は、2012年までに国内の麻疹排除を目指しており、接種率の向上を図っています。
 予防接種の対象となる1-2歳(1期)、年長児(2期)中学1年(3期)、高校3年(4期)の方は、きちんと接種されることを希望します。

平成23年5月 地行義彦


子どもの肺炎球菌ワクチン

 小児の細菌感染症の中で、「広報今治」6月1日号の同コーナー(12ページ、市民医学講座NO.62)で述べたb型インフルエンザ桿菌と並んで重症感染症を引き起こすものに肺炎球菌があり、ほぼ同じ病気が引き起こされます。その中でも一番問題となるのはやはり髄膜炎です。日本における頻度は、インフルエンザ桿菌と比べると3分の1の年間200人ということでありますが、うち約3分の1のお子さんが命を奪われたり、重篤な後遺症に悩まされるといったことになっています。
 ほかの重篤な病気としては、菌血症、治りにくい中耳炎、肺炎などがあって、罹りやすい年齢がいずれも乳幼児期ということはインフルエンザ桿菌の場合と変わりありません。これらの病気(特に髄膜炎)を防ぐのに極めて有効なのが、この肺炎球菌ワクチンです。推奨されるのは生後2か月以上₇か月未満の乳児について4週間以上の間隔で(1歳までに)2回、そして3回目の接種から₂か月以上の間隔をおいて1回の追
加接種を行うことで、₁歳未満の乳児については2回プラス追加接種、₂歳未満₁回プラス追加接種、9歳以下は1回で追加接種はなしというスケジュールで、三種混合ワクチンあるいは Hヒブib ワクチンとの同時接種が可能です。重篤な副作用の報告はほとんどなく安全なワクチンの部類に属します。Hib ワクチンと違って供給体勢は安定しており、ほぼ申し込んですぐに接種できるものと思われます。1回1万円程度の自己負担は重いものですが、インフルエンザ桿菌と同様細菌性髄膜炎という最重症の病気を防ぐことができるということはお子さんにとってもご家族にとっても大きなことだと思われます。希望される場合は、かかりつけの小児科に早めに相談されて、できれば7か月未満に1回目を接種されることをおすすめいたします。

平成22年8月 加賀城惠一


ヒブ(Hib)ワクチン

 小児の細菌感染症でかかると命が脅かされたり、重い後遺症を残すことのあるものの代表格(頻度が多いもの)として挙げられるものに、肺炎球菌そしてb型インフルエンザ桿菌感染症(Hib)があります(この名前は最初インフルエンザの患者から分離されたということでインフルエンザとは何の関係もありません)。
 この両者は共に細菌性髄膜炎を引き起こすことがあり、抗生物質の効き難い菌が多いということもあって、長年待ち望まれてきたワクチン接種がやっと導入されました。ちなみにHibの重篤な症状としては、ほかに喉頭蓋炎、肺炎などがあって、いずれも命に関わることがあります。また、髄膜炎の頻度は日本で年間600人の乳幼児(3か月〜6歳)とされており、それを防ぐのに極めて有効なのがこのワクチンです。推奨される接種は生後2か月以上7か月未満の間に3回、そして初回接種からおおむね1年後に1回、追加接種を行うというスケジュールで、三種混合ワクチンとの同時接種が可能です。重篤な副作用の報告はほとんどなく安全なワクチンの部類に属します。
 現時点の問題点としては供給が需要に追いつかないで、申し込みから接種までにかなりの時間がかかるということと、任意接種のため公費助成が得られず、1回7,000円程度の自己負担が求められることで、将来これらが解消されることが望まれます。希望される場合はかかりつけの小児科に早めに相談されることをおすすめいたします。

平成22年5月 加賀城 惠一


赤ちゃんの食の安全

 最近、産地偽装事件、賞味期限偽装事件、餃子事件など私たちの食の安全が脅かされております。自然食品を求める人が増えていますが、赤ちゃんの食についてはどうでしょうか。なぜ相変わらずミルクなのでしょうか。私たち人間には母乳という素晴らしい自然栄養食を無尽蔵につくる能力が備わっています。しかも、ただです。
 確かに、現代のミルクは人間の母乳に近づけるためあらゆる努力が払われています。しかしあくまで近いと言うだけで同じではありません。また、本体のタンパク質も牛のタンパク質です。決して人間のものではありません。赤ちゃんは主食も副食もおやつもすべてミルクです。本当に安全なのでしょうか。数年前、疫学的調査でミルクで育った子どもと母乳で育った子に分けてアトピーやぜんそくなどのアレルギー性疾患について調べたところ、やはり、ミルクで育った子どもの方が圧倒的にアレルギー性疾患の数が多い事が分かりました。このことからも、ミルクはあくまで非常食と考えた方が良いと思います。
 さて、母乳の話に入りたいと思います。母乳が出るためには出産後3~4日は苦労しますが、焦らずじっくりと吸わせていけば必ず母乳は出始めます。母乳が出始めたとき、お母さんの顔付きが変わってきます。自分の赤ちゃんという実感がわいてきます。また赤ちゃんもお母さんのことを特別な存在として認識します。このことが親子関係の第一歩だと思います。不思議なもので赤ちゃんの目の焦点は約30センチくらいに合うように出来ています。これは、母乳をあげているときの赤ちゃんとお母さんの顔の距離です。母乳をあげることによって、自然とお母さんの顔を認識できるようになります。親子関係、栄養、アレルギーなど、すべての面で母乳は優れています。食の安全が脅かされている今こそ、母乳の良さを考えてみてください。

平成20年6月 丹英人


赤ちゃんの湿疹

 「湿疹がひどいんです。これってアトピーですか」赤ちゃんのお母さんに多く聞かれる質問です。情報が独り歩きしているせいか、お母さんたちは皆、湿疹=アトピー性皮膚炎と心配してしまうみたいです。1歳くらいまでの赤ちゃんの顔や体には、赤い小さな湿疹がよくできます。特に生後半年までの赤ちゃんは、お母さんのホルモンの影響でぶつぶつができたり(新生児ざそう=通称赤ちゃんのにきび)、皮膚から油分がたくさんでて黄色いかさぶたとなったり(脂漏性湿疹)、また汗をかきやすく(あせも)と、見た目にも派手に湿疹が登場します。
 これらの多くは時期がくる(お母さんのホルモンが赤ちゃんからなくなる)と自然と消えていきます。ただし、赤みやただれがひどくなることもあるので、毎日のスキンケアは大切です。清潔にし、せっけんをよく泡立ててこすりすぎないようにし、十分汚れを落としてあげましょう。また、黄色いかさぶたは、お風呂に入る前にオリーブ油をぬって軟らかくしてから丁寧に洗ってあげてください。それでもひどくなる場合は、抗生物質や弱いステロイドの軟膏で治療が必要となります。
 「じゃあ、アトピーではないのですか」中には、アトピー性皮膚炎のお子さんもいます。1歳までの赤ちゃんは似たような湿疹ができやすいため、1回の診察でアトピー性皮膚炎と確定診断することは難しく、経過を追っての診断となります。ですから、湿疹=アトピー性皮膚炎と決めつけず、ご心配な方はまず小児科に一度ご相談ください。

平成19年2月 丹愛子


赤ちゃんのイボ痔?

 つい先日、乳児健診で質問を受けました。「赤ちゃんなのにイボ痔があるんです。」イボ痔?私も痔主の一人ですが、トイレで用を足す時、拭く時、長時間座っている時、あの痛みは堪りません。あ~嫌です。嫌ですっ。赤ちゃんのこれからの人生を思うと、ぞっとしてしまいます。
 肛門の放射状のシワの腹側、おむつを替えるスタイルにして上、時計の12時の位置のシワだけが盛り上がり、キノコ状に見えることがあります。生まれたばかりのころからあることも、しばらくして気付くこともあります。確かにイボ痔のようです。でも、よく見てください。見慣れたそれよりきれいで、出血やタダレ・充血も無く、耳たぶのように軟らかいはずです。イボ痔とは違います。
 イボ痔のように見えるこのヒダは、外見的な異常だけで特別な治療は全く必要ありません。うんちの処理を早めにしてあげたり、うんちが硬くならないように食べ物に気をつけたりすることで充分です。無症状の状態が続けばゆっくりと小さくなっていきます。「痛くてうんちが出せないようです。」と言われることもありますが、むしろ逆に、硬いうんちのためにもともとヤワで膨らみやすい肛門部の皮膚が押されたり伸ばされたりして大きく盛り上がることもあるようです。いずれにしても、赤ちゃんのうんちには十分気を配ってあげてください。我々の痔とは違ってはるかに性格の良いもののようです。

平成14年10月 壬生 真人


指しゃぶり

 ずいぶん前の話ですが、1歳6か月健診に息子を連れて行った妻から、「指しゃぶりは、愛情不足…。もっと愛情を注いであげてください」と言われたと報告を受けました。そうかな~?妻と一緒に首をひねりました。
 乳歯が生えそろってからも指しゃぶりが持続すると、歯並びや噛み合わせの問題が生じやすいことは確かです。しかし、慌てて児の抱えている問題の本質を見失っても意味がありません。「指しゃぶり」ではなく「指しゃぶりをしている子ども」を見守りながら対応を選んでいけば、指しゃぶり自体はすぐには無くならなくても、児にとってはよりよい解決が得られるように思います。
 ほかの楽しい遊びに誘ってみたり、意識的に声をたくさんかけてみましょう。遊びは、単に見て楽しむ遊びではなく、手を使って熱中できる遊びがいいと思います。どう止めさせるかではなく、どれだけ減らせるか、そのエネルギーをどの方向へ変えていくかということのように思います。…しかし、それが難しいのです。まずは、見守る私たちにいろいろな意味でゆとりが必要なのかもしれません。
 息子の「指しゃぶり」は、自分を落ち着かせるときと、寝入るためだけです。限られた短時間なら歯並びへの影響もないでしょう。彼の社会が広がっていくにつれて、周りを気にしたり、「指しゃぶり」の暇も無くなっていくことでしょう。

平成14年10月 壬生 真人


プールによる子どもの感染症

 そろそろ水辺が恋しい季節です。今回はプールで感染しやすい病気についての話です。
 咽頭結膜熱は最近ではどの季節でもみられますが、夏にプールで感染することが多いのでプール熱とも言われます。潜伏期はほぼ一週間。高熱が4~5日持続し7~10日くらいで回復します。のど(咽頭部)や目の結膜に強い炎症が生じ、くびの後のリンパ腺も腫れることがあります。通常は熱の割には元気ですが、ウイルスのタイプによってはときに重症化し、乳幼児では肺炎などをも合併することがあります。小児科医による早めの診察が必要です。
 流行性角結膜炎もプールなどから広がることが多く、潜伏期は一週間以上。急に目の結膜に強い炎症が生じ、乳幼児では高熱や下痢など消化管症状を合併することがありますが成人では角膜の炎症が強くなることがあります。感染力が非常に強いので手洗いを励行しタオルなどは別々にしなければなりません。もちろんプールは禁止です。
 O-157などのベロ毒素産生性大腸菌は食中毒の原因菌の一種ですが、低温に強く水中で長く生存するので悪条件が重なればプールでも感染する恐れがあります。潜伏期は4~8日で感染すると全くの無症状から激しい粘血便を伴う腸管出血性大腸炎に至るまで種々の病状を示し、また溶血性尿毒症症候群などを合併することがあります。先に述べたように感染していても無症状の場合があるので腰洗い槽やシャワーで十分身体をきれいにしてプールに入りましょう。原因を問わず、また軽症であっても下痢のときには当然プールは禁止です。
 楽しい水遊びのためには、水の入れ替えや水質管理を十分に行い、プール利用前には身体を清潔にし、伝染性の病気のときにはプールに入らないようにすることが大切です。水遊び後のシャワー、うがいや洗顔も感染防止に役立ちます。

平成14年6月 渡辺謙一郎


乳幼児と卵

 わが国の卵は鶏が衛生的に管理されているため比較的安全と考えられています。しかし熱帯のある地域では卵の生食による感染の危険性が指摘されています。鶏卵は腸と繋がっている輸卵管の中で卵殻が卵白と卵黄を包み込んで完成しますが、このとき、稀なことですが鶏の腸にいるばい菌などが一緒に包み込まれ、ほやほやの新鮮卵が実は感染卵になっていることがあるのです。わが国でも不幸な偶然が重なって卵による感染が起こったことがあるようです。このため乳幼児には良い鶏卵を選び十分加熱して与えることが大切です。
 さて、最近のアレルギー疾患の増加の背景に乳児期早期から卵を与える傾向が指摘され、私の外来でも卵を食べさせる月齢が早くなった印象を受けています。これについて同愛記念病院の馬場実先生たちの報告では30年前までは生後4か月までに離乳食として卵を与えられた乳児は約26パーセント程度でしたが10年前にはなんと73パーセントにまで増加しているとのことです。この原因として卵調理の容易さや最近までの早期離乳の傾向があるのではないかと思います。卵白成分(オボアルブミンとオボムコイド)が強い抗原性をもっているため余り早い時期から卵を食べさせますと赤ちゃんにアレルギー疾患が起こりやすくなるのです。さまざまな意見があるのですが私は早くても生後6~7か月ごろから、多少ともアレルギー的な要素をもつ赤ちゃんではさらに遅らせて8~9か月ごろから固くゆでた卵黄から開始し比較的ゆったりした速度で卵黄、全卵へと進めるようにしています。卵に限らず赤ちゃんにとって新しい蛋白質を与えるときは出来るだけ加熱して抗原性を少なくし、赤ちゃんになじませながら離乳をすすめましょう。

平成14年5月 渡辺謙一郎


腸重積症と自家中毒症

 腸重積症はそれほど多くありませんが、急いで手当てをすることが特に必要な病気です。さっきまで元気に遊んでいたお子さんが突然激しく泣き、吐き、ぐったり、という症状を10~15分おきくらいに繰り返し(間欠的あるいは陣痛のような腹痛)はじめたらまず本症を考えます。浣腸をして古いトマトケッチャプの様な血便が出たら診断は確定的です。“突然の発症”診断上の重要な点で、たとえばお母さんが“2時5分ころ”にお子さんが急に激しく泣き出した、というふうに発症時間をはっきり覚えていることもあります。原因は不詳ですが、腸が腸の中にめり込んで腸閉塞が起こるので初期には高圧浣腸による整復を行います。各年齢で見られますが、主には2歳くらいまでの乳幼児に多く、3~4歳以上の場合には小児外科的な病気が隠れていることがあります。また、病状や経過時間によって手術が必要です。
 2歳くらいから10歳前後までの、やや気持ちのこまやかな小児に多く見られる自家中毒症(アセトン血性嘔吐症または周期性嘔吐症)も比較的急に発症し、しばしば腐ったりんごのような匂いの吐物を嘔吐します。心身共の疲れが原因で脱水症状にもすぐ陥るので十分休息させ、少量ずつ水分を補給します。症状によっては点滴も必要です。また、疲れたあと夕食抜きでそのまま寝ることは本性の誘因になるといわれています。診断は比較的容易ですが、時には嘔吐をきたす種々の疾患との鑑別が必要になることがあります。
 小児は感染症をはじめ種々の原因で吐いたり腹痛を訴えますが、時には外科的疾患との鑑別や迅速な処置を要する病気がありますので慎重な対応が必要です。

H13年11月 渡辺謙一郎


子供の微熱

 体温には個人差もあり微熱の扱いはなかなか難しいのですが、子供の場合、37度を少々越えても、元気でほかに症状がなければ病的でないことが多いのです。体温は大体、朝から昼、午後にかけて上昇し、乳児では昼前に、中学生では午後に体温が最高になり、人によっては起床時よりも0.5度以上も上昇します。つまり健康な状態でも体温はしばしば37度2~3分にはすぐなるのです。とはいえ微熱が長く続く場合には、時に隠れた貧血や甲状腺疾患などの慢性の病気があったり、また、風邪の後では副鼻腔炎や中耳炎などを合併していることもあるため一応のチェックは必要です。
 また予測式電子体温計は大変便利ですが、水銀式のものより時に0.5度ほども高く表示されることがあるそうです。このことをわかって用いればよいと思います。
 昔から体温計の37度の目盛りが赤く塗られていたので、37度を越えたら即、発熱と思う習慣がついたようなのですが、実際には37度を越えても元気な場合が多いのです。熱の有無とともに一般状態をよく観察することが大切です。少々微熱と思っても元気いっぱいで、機嫌がよく食欲旺盛であればさほどの心配はいらないでしょう。

H13年8月 渡辺謙一郎


小児の熱(2)

 今回は反対に注意を要する発熱について述べてみます。
 昔から乳飲み子の発熱は少ないといわれています。お母さん由来の抗体が感染を防いでいるためです。このため、もし4ヶ月くらいまでの乳児が発熱したときは、逆に何か重症の病気が隠れている心配があるので、必ず小児科医の診察を受けてほしいと思います。
 生後6ヶ月ころから1歳くらいまでの赤ちゃんに発症することの多い突発性発疹は多くの赤ちゃんにとって生まれて最初の発熱疾患で、解熱後に発疹が出ます。一般には軽くすみますが熱は結構高く、熱性痙攣のきっかけになることがあります。熱性痙攣の多くは短時間で経過し、後に問題を残すことはほとんどありませんが、驚かないための心構えは必要です。ご両親をはじめご家族の中にこの痙攣を起こした方がおられる場合には少し用心してあらかじめ小児科医に相談しておくとよいでしょう。
 のどの奥に白いぶつぶつが並ぶヘルプアンギーナや結膜と咽頭の炎症が特徴の咽頭結膜熱(プール病)は夏風邪の代表格で、高熱が3~4日以上も続くことがあります。これらに限らず夏場の風邪では暑さによる消耗のため体力が落ちます。焦らず処方された薬を用い、水分を補給して解熱するのを待ちましょう。必要ならば小児科医と相談した上、乳幼児用のイオン飲料を適時与えるのもよいと思います。
 さて高熱が続き、特有の「重症感」があるときは川崎病などの鑑別が必要になります。発熱時には熱以外の症状や普段と異なる「重篤感」があるかどうかを見極めることが大切なのでぜひ、小児科の先生の診察を受けてください。

H13年9月 渡辺謙一郎


運動誘発喘息

 小児喘息の子供たちは、激しい運動中または運動後に、“ゼーゼー”と息苦しくなるときがあります。このように、運動している時に起きる発作を運動誘発喘息と言います。冬の寒い日に、マラソンの練習をしている時などによく見られます。走り終わってから5分後ぐらいに最も強くなりますが、普通の発作と違って、運動をやめて休んでいると多くは30分前後で次第に回復します。
 運動誘発喘息を起こす子供たちは、運動をするとすぐ苦しくなるために、運動嫌いになり、運動不足になりがちです。
 それでは、運動誘発喘息を起こさない様にするにはどうすればよいのでしょうか?
 予防法としては、次のようなものがあります。ひとつは、準備運動を十分にすることです。激しい運動をする前に少し汗ばむくらいの軽い運動をしておくと運動誘発喘息が起こりにくくなります。また、運動に強弱をつけるインターバルトレーニングも効果があります。薬を使う方法としては、運動を始める15分前にインタールなどの予防薬を吸入します。このように十分な予防をして、自分の好きな楽しい運動を毎日続けていると、だんだんと体力もつき、運動誘発喘息が起こりにくくなり、喘息そのものも改善すると言われています。

平成8.10.  松本 修平


熱が高くてひきつけた

 熱が高くなるとひきつけ(痙攣)を起こす子供さんがいます。もしひきつけたらどうすればよいのでしょうか。
 とにかくあわてないことです。ほとんどのひきつけは5分以内に止まります。じっと見ているのは不安でしょうが、「落ち着け。もうすぐ止まるはずだ」と自分に言い聞かせて子供さんのそばにいてあげてください。
 舌を咬むこともまずありませんから、口の中にはなにも入れないようにしてください。指や箸を入れると嘔吐を誘発したり、口の中にきずを作ったりしてかえって危険です。
 顔あるいは体を横向きにして、楽な姿勢で寝かせましょう。ひきつけている時に吐くことがあります。吐いたものがのどにつまらないようにするためです。
 ひきつけている間は様子をよく見てあげてください。けいれんが続いた時間や、全身がひきつけていたか、左右のどちらかだけだったかなどは後で診断や治療の参考になります。 ひきつけが2、3分でおさまった場合はあわてて病院に行かなくても大丈夫です。急いで病院に行く必要があるひきつけは、10分たっても止まらない場合と、24時間以内に2回目のけいれんがおこった場合です。
 熱性けいれんは繰り返すことがあります。一度ひきつけた子供さんの半数はまた起こすと言われています。かかりつけの医師に相談して、次のひきつけを予防する薬を貰ってください。

平成6年12月  松井 光


子供の事故(1)

 お母さん型は、子供の命に関わる出来事といえば、ほとんどが病気によるものだと考えていることと思います。事実、乳児が命を落とす原因の第一は先天異常、二番目は出産時の障害なのです。ところが三番目に不慮の事故が顔を出します。そして、幼児(1~4歳)になりますと、なんと不慮の事故が一番になるのです。
 大切な命を一瞬にして失ってしまうほど残念なことはありません。この事故こそお母さんの気配り・注意一つで防ぎ安全な生活をすることができるのですから、その原因を知って、子供さんを守ってあげればよいですね。 ここでは、1~4歳の乳児の死亡原因を多い順番に見てみますので参考にしてください。
 一番多いのは溺死です。二位は自動車事故、三位は不慮の機械的窒息、四位は不慮の墜落という順番です。
 それでは、個々について説明をしてみます。
 まず、第一位の溺死です。
 溺死は、水とは関係のない遊びに夢中になっているうちに用水、溝、井戸、プール、池に転落してしまうのです。ほとんどが一人か、同年代の子供同士で遊んでいるときに起こるのでどうしようもないですね。危険な個所は柵を作るなど、グループ(近所の人などと)で働きかけなければならないでしょう。それと、家庭でよく起こるのが、水を張ってあるお風呂、洗濯機に落ち込んでしまうことです。お風呂には入浴直前にお湯を入れるか、風呂場に子供を近づかせないように鍵をかける、ふたをするなどの工夫をしてください。

原本平成5年11月  松浦孝治


子供の事故(2)

 不慮の事故のうち、2番目に多いのは「自動車事故」です。その原因は、飛び出し、車の直前・直後の道路の横断、路上での遊び、幼児の一人歩きとほとんど子供の側に責任があるので、日頃から自動車に注意するように、良く言い聞かせておいてください。
 3番目に多い「不慮の機械的窒息」というのは、お餅、うどん、豆類、あめ玉、ガム、ビー玉、小物の玩具などを喉に詰めてしまうのです。小さなおもちゃはすぐに口に入れてしまうので要注意です。また、歩きながらものを食べるのはいけません。「行儀良く座って食べなさい」といったしつけや、急に驚かさないなどの気配りが大切です。ピーナッツは気管に吸い込まれやすく、破片が細い気管支に詰まり水を吸って膨張してしまうと、肺を切り取る手術をしなければならないケースもありますので、4~5歳まではできるだけ与えない方がよいでしょう。
 最後の「不慮の墜落」では、二段ベット・二回のベランダ・テラス・階段からの転落事故などが多いようです。墜落を防ぐには、危険な個所には頑丈で高く狭い隙間の柵をつける、また高いところの近くには台になるような椅子・机・箱などをおかないなどの気配りは必要です。歩行器で歩いている赤ちゃんは、よく玄関や縁側から転落することがありますので注意を怠らないようにしてください。
 これまでに紹介したことは、ほんの一例です。ちょっとした注意、気遣いであなたのお子さんを不慮の事故から未然に防ぐことができるのです。

原本平成5年12月  松浦孝治


周期性嘔吐症

 アセトン血性嘔吐症とか自家中毒とも呼ばれる小児特有の疾患があります。
 症状は、感冒などの感染症に罹患したときや、旅行や運動会の後、過労や精神的緊張がみられたときなどに全身倦怠感や食欲不振などを訴えることから始まります。 顔色が悪くなり、時には腹痛を認め、やがて嘔吐が始まります。食物残渣(食物の残りかす)や胃液を嘔吐し、嘔吐が激しくなると黄色の胆汁やコーヒーの様な嘔吐物を認めるようになります。 そして、特有の口臭があります。
 年齢的には2~10歳によく見かけますが、特に6歳以下に多いようです。
 原因は明らかではありませんが、肉体的・精神的ストレスが交感神経系を介して体の中の脂肪分解を亢進させるため、体内に脂肪の分解産物であるケトン体(アセトン)などが過剰に生成されることで発症します。
 同じ症状が繰り返して起こることや尿の中に排出されたケトン体を検出することにより周期性嘔吐症と診断されます。
 治療は軽症例では揚げ物や生クリームなどに脂肪の多い食物を避けて、ジュースや消化のよい糖質をゆっくり何回にも分けて与えるだけで十分です。循環不全や脱水などがみられる中等症異常では、ブドウ糖の静脈内投与や輸液が必要となります。
 予防は、肉体的・精神的緊張が強いられる環境であれば糖分を十分与え、脂肪分を控えましょう。 そして、発熱を認めたり、疲れたりしていても食事をしないで寝ることがないようにしましょう。

平成5年3月  渡部雅愛


溶連菌感染症

 溶連菌感染症は寒くなると流行する病気の一つで、合併症として急性糸球体腎炎やリウマチ熱を認めることがあり、注意を要する病気です。溶連菌にはA群からV群までのグループがあり、人に病気を引き起こすのはおもにA群溶連菌です。
 乳児では高熱や発疹はみられず、軽い“かぜ”症状のみで、特に鼻孔の皮膚剥離を認めます。特に6カ月までの乳児は母親からの免疫グロブリンの移行で軽く経過します。
 幼児や学童では、発熱、リンパ節腫大、咽頭発赤がみられ、特に3才以後ではこれらの症状は強くあらわれ、嘔吐、頭痛、悪寒を伴います。また舌はいちごのようになり、かゆみのある粟粒大の発疹を認め、特に腋窩、鼠径部(足のつけね)に強く認めることがあります。その発疹は、発症2~3週で皮膚がむけはじめ、手や足では大きく膜様のようにむけます(猩紅熱)。
 診断は特徴的な症状や咽頭培養で細菌検査を行うことによりなされます。
 治療は有効な抗生物質を10~14日間服用し、できれば発症から2週目から3週目に腎炎の合併症がないかどうか尿の検査をしましょう。感染した人の数%は再発することがありますので1カ月くらいは注意を要するでしょう。

平成5年2月  渡部雅愛


はしか(麻疹)と予防接種

 「はしか」によって日本で年間百人近くの人が死亡していることをご存知でしょうか? 「はしか」は小児の熱性発疹性疾患の代表で、その重篤性・伝染性の強さゆえ昔から大変おそれられ、、「命定め」とさえ言われていた病気です。
 細菌は予防接種が広く行われ流行はかなり少なくなったものの、死ぬ(生命に関わる)病気であることにはかわりありません。
 「はしか」の初発症状は、発熱・咳・鼻汁・目やに…などで風邪と紛らわしいのですが、特に咳がひどいのが特徴です。
 『はしかの発熱に対しては厚着させよ』という人がいますが、これは間違いです。普通の発熱と同様快適に過ごせるように薄着にし、必要ならば空調も使用すべきです。
 また、「はしか」の感染後は免疫力が低下するため、肺炎、中耳炎などの合併症にも十分注意が必要です。
 さて、「はしか」の予防には何よりも予防接種が第一です。その予防の効果は95 %以上と高く1歳6カ月を過ぎたら速やかに小児科へ行き接種を受けることをお勧めします。また「はしか」にかかってる人と接触してしまった場合、初期であれば、ガンマ・グロブリンを注射する方法がありますので、小児科医に相談してください。
 「はしか」は散発的に流行しています。生命にかかわる病気であることを十分知っていただき、その予防に努めましょう。

原本平成3年9月  国方徹也


「水痘ワクチン」と「おたふくかぜワクチン」

 今回は、市関係で施行している予防接種以外に個人で任意に希望して受ける「水痘ワクチン」と「おたふくかぜワクチン」について簡単にご紹介いたします。
 「水痘ワクチン」-水ぼうそうを予防できます- 対象者は、生後12ヵ月以上の水痘既往歴のない者です。成人では水痘が重症になる危険性が高いので、水痘に感受性のある成人、特に医療関係者、医学生及び妊娠時の水痘罹患防止のため成人女子は接種対象者となります。
 副反応は、健康小児及び成人について、臨床反応は殆ど認められません。
 「おたふくかぜワクチン」-おたふくかぜを予防できます- 対象者は、生後12ヵ月以上のおたふくかぜ既往歴のない者であれば、性、年令に関係なく受けられます。ただし、生後24~60ヵ月の間に接種することが望ましい。
 副反応として、臨床反応は殆ど認められませんが、接種後2~3週間頃にまれに発熱、耳下腺腫脹、鼻汁などの症状を認めることがあります。しかし、これらの症状は軽度であり、かつ一過性で通常日中に消失します。
 又、おたふくかぜの潜伏期間(18~20日)に予防注射を接種した場合、本症は軽くなる事はあっても増悪はしません。
上2つの予防接種はそれぞれ取り扱っている医師に申し出れば自己負担で接種できます。日進月歩の医学の進歩の恩恵を一日も早く享受しましょう。

 昭和63年5月  丹 美昌


幼児のひきつけ

 ひきつけとは全身けいれんをきたす疾患の俗称であります。これには、脳脊髄の損傷、中毒、てんかん、ヒステリーなどに起因するものもありますが、一般的には乳幼児の熱性けいれんがその頻度も最も多く、幼児のひきつけの8割以上はこれによるものと解してよいでしょう。年齢は誕生過ぎから5歳くらいまでに集中します。大人であれば急激に体温の上昇する疾患の時、悪寒戦慄(寒けがして震えがくる)が起こります。この悪寒戦慄の症状が、幼児の場合直ちに、顔面蒼白、意識喪失、(泣かなくなる)、全身けいれん(体が硬くなる)となって現れる時があります。これがいわゆる幼児のひきつけで、初体験のお母さん方はたいてい大慌てをして、患児の口の中に指を突っ込んだり、タオルなどを押し込んだりして、小児科医に駆け込んできます。しかし熱性けいれんのみで、舌の損傷とか、舌沈下による気道の閉塞とかは、ほとんどの場合起こることはありませんし、熱性けいれんを起すような時はしばしば嘔吐を伴いますので、むしろ気道の確保という面から、口中に物を入れるという事は適切な処置とは言えません。
 しからば医師に診てもらう前に家庭ではなにをすれば良いかという事ですが、頭を冷やす、毛布などで体を包んで温めてやる、浣腸してやる。以上3つの事が大切で、この処置だけで半数のひきつけは緩解します。浣腸について小児の場合、高熱、腹痛、便秘などたいていの場合浣腸をして悪いという事はありません。なお浣腸は市販の浣腸薬で良いのですが、手元に無い場合は、キャラメル浣腸(キャラメルをかんで粘土状の硬さにしたものを丸めて肛門に入れてやる)をお勧めします。これは肛門も傷つきませんし、誰でも簡単にできる処置です。現在はひきつけを予防する医薬品がいろいろと開発され、熱性けいれんをきたす子供さんは非常に少なくなってきています。心配事のある親御さんは、かかりつけの小児科医に相談されるのが一番良い方法です。

 原本昭和63年4月  高須輝也


乳幼児の腸重積症

 乳幼児の腹痛の原因で最も恐ろしいものの一つがこの病気です。一般の方はよく腸捻転と混同しますが、赤ちゃんの腸捻転は極めてまれで、それよりずっと頻度が高くしかも死亡率の高いのが腸重積です。これは、小腸から大腸への移行部において小腸が大腸へ入り込み重積していく状態(図)で、このため腸管の閉鎖と壊死が起り、放置すると短時間に死亡に至ります。
 症状は極めて特徴的で、突然激烈な腹痛発作が始まり、嘔吐と血便をしばしば伴い、右上腹部にバナナ状の腫瘤が触れます。X線注腸検査(バリウムを肛門より注入)にて重積部に特徴的なカニばさみ像を認めると診断が確定します。 治療はまず手術せずに治すのが基本で、注腸による診断操作に続いて更に余分のバリウムを圧をかけて注入し、腸重積管を押しもどして整腹させます。この治療の最大のこつは、必ず全身麻酔をかけて患児の腹圧を下げて以上の操作を行うことです。泣きわめく赤ちゃんに目醒めたままいくら注腸してもしばしば失敗します。しかし全身麻酔下に行っても成功率は70~90%で、整腹できない場合は速やかに開腹手術をする必要があります。
 いずれにしても診断から治療までの手技はどれも外科医の仕事ですので、小児科の先生は腸重積を疑うとすぐに外科へ患者さんを紹介するわけです。くり返しますと、治療の要点は、非手術的整腹の場合も必ず全身麻酔をかけて行うこと、成功しなければ速やかに回復手術に踏みきることです。最近技術の進歩で著しく死亡率は低下しましたが、それでも5~10%は死亡する恐ろしい病気です。

昭和63年3月  木原真吉


赤ちゃんの健康管理チェックポイント

 赤ちゃんは、普通、元気にすくすく育っていくものです。お母さんは、その成長ぶりを期待をもって見守りながら、ポイントだけをおさえていけば良いのです。よりよく育て、危険や病気から我が子をガードするのがお母さんの役目です。次にチェックポイントを要点だけ列挙してみます。 かかりつけの医師を決めましたか。1ヵ月検診を今後家庭医にお願いしたい医師に診てもらいましょう。できるだけ小児科医を選びましょう。そして、引き続き乳児検診をしてもらいましょう。
 予防接種。0~3歳までに受けておきたいものは、ポリオ、三種混合、BCG、麻しんなどです。期日は広報に出ます。なるべく適期に受けましょう。 いつも全身状態を観察していますか。いつもと様子が「ヘン」だというカンが役立ちます。発熱、不機嫌、食欲不振、下痢便など。
 成長は順調ですか。成長発達には個人差がつきものです。ある幅の中で順調なら良いのです。
 栄養のバランスを考えていますか。生後3~4ヵ月したらそろそろ離乳食を始めましょう。
 積極的な体力づくり。赤ちゃんはもともと外が大好き。大いに外へ出し、日光と外気に触れさせれば、皮膚の鍛錬と運動になり、体力づくりにつながります。
 過保護ではありませんか。厚着、甘やかしなど。 事故対策は万全ですか。浴槽、洗濯機、ストーブ、ポット、階段や、タバコ、樟脳、オモチャなどの誤飲など。
 そのほかにもたくさんポイントはありますが、乳児検診のその都度に医師、保健婦にご相談下さい。

昭和62年10月  丹 美昌


体温について

 体の調子の悪い時、何か病気になった時などは、まず体温を測ってみますが、健康な時に体温を測ることは少ないと思います。体温を測ることは簡単なようで実はなかなか難しいことなのです。
 体温を測るには、腋窩温・口腔温・直腸温と三つの測り方がありますが、一般的には腋窩温を測ることが多いでしょう。腋窩体温の正しい測り方は次の通りです。運動直後・運動後はさけ、10分間以上の安静を保ち、それから体温を測り始めます。体温計は水銀部を腋窩(脇の下)の最も深いところに置き、肘を軽く曲げ、脇をしめます。体温計の挿入時間は約10分間。(体温計の水銀柱がこれ以上、上がらなくなるまで。また、体温計に1分計・3分計などの区別はありませんから、ご注意下さい。) こうして正しく体温を測ろうとすれば、最低20分間の安静が必要なことになります。
 小児の体温側定時における注意
 啼泣の影響・一時に0.2度くらい上昇する、哺乳時・一過性に0.2度くらい上昇する、入浴・上昇するが、30分~1時間のうちに正常に戻る、口腔温・腋窩より0.2~0.5度高い、直腸温・腋窩より0.8~0.9度高い
 参考までに、多くの研究者は、小児の正常腋窩体温の上限は37.9度で乳幼児・学童では大人の体温に比べてやや高い傾向にあると報告しています。37度を越えると熱があると誤解されやすいのは37度を赤文字で表示した、体温計メーカーの責任かもしれません。健康な時に体温を測って、子供の正常体温を知っておきましょう。

昭和60年1月  今岡正俊


おねしょ

 「おねしょ」は5歳の子供では、5人に1人、7歳で10人に1人、10歳で20人に1人はやっていることでほとんどの「おねしょ」は病気でなく、生理現象と考えられています。子供が悪いのでも、お母さんのしつけが悪いのでもありません。 といっても、朝起きて、ふとんに地図ができていると、子供はがっくり、お母さんはいらいらとなるのが普通でしょう。そこで、「おねしょ」の原因と取り扱い方を書いてみます。 「おねしょ」の原因 1次性の「おねしょ」 膀胱が一杯になった刺激に、脳が目覚めない熟睡型(全体の80%) 2次性の「おねしょ」 心因性のもので、一度なくなった「おねしょ」が、下に赤ちゃんが生まれたため、また始まった型(全体の10~20%) 夜尿症 本当の病気で、糖尿病、尿路奇形、てんかんなどのために起こる型(全体の0.1%以下) 「おねしょ」の取り扱い方 「叱らず」「あせらず」が基本とされていますが、主な取り扱いには、次のようなものがあります。 夕食後には水分を取らせない。 眠る前に排尿させる。 昼間に排尿をできるだけ我慢させる。 夜時間を決めて起こし、はっきり目覚めさせて自分でトイレに行かせる。 夜尿報知器(尿が漏れて、シーツがぬれると、ブザーが鳴る装置)をうまく利用する。 薬物療法(薬で眠りを浅くする方法で1ケ月ぐらいで効果がでる) 針治療と漢方薬 これらが全部効くものではありませんが、試してみてよい方法だと思います。最近、いろいろな取り扱いをしても止まらない10歳以上の1次性の「おねしょ」に抗利尿ホルモン剤を鼻にかがせる方法が、東京都立母子保健院で行われて話題になっています。すべての人に効くわけではありませんが、もう少し効くわけではありませんが、もう少し研究が進めば、今治でも行われるようになると思います。

昭和59年11月  壬生敦郎


乳児下痢症

 毎年秋から冬にかけて、下痢を訴える乳児の患者さんが増えてきます。乳児下痢症の原因は色々ありますが、大部分が感染性のものです。今回は「冬季下痢症」と「キャンピロバクター腸炎」について、二、三お話しましょう。 冬季下痢症は、80~90%がウイルス感染(主にロタウイルス)によるものです。症状は突然発症します。嘔吐が先にくることが多く、急に吐き始め、そのうち、一日に数回から十数回の水様性下痢が起こります。下痢便の一回量は、おむつからあふれるほど多く、酸臭があります。米のとぎ汁のような白色の下痢便なので、「白色便性下痢症」「仮性小児コレラ」「白痢」などと呼ばれ、軽症の場合は2~3日の経過で改善しますが、下痢、嘔吐が激しいと、小児特有の脱水症状が現れるので、注意を要します。
 次に最近増えている細菌性下痢症のキャンピロバクター腸炎についてお話します。
 感染経路は経口感染で、本菌は、牛、豚、羊、鶏、犬、猫等の糞便中に存在します。症状は、下痢、腹痛、発熱、血便、嘔吐が1日から2週間以上続き、便は水様便~粘液便で、血液が多く混っております。犬、猫などのペットを飼っている家庭では、充分注意して下さい。
 以上、乳児下痢症の二つの病気についてお話しましたが、乳児の下痢は、大人とちがってすぐ脱水症状を起こしますので、手遅れにならないよう、くちびるや舌が乾いていないか、目がくぼんで、ぐったりしていないか、よく注意して、少しでもおかしいと思ったら早く医師の手当てをうけて下さい。

昭和59年10月  丹 美昌


予防接種と水痘

 昔から子供の疫病は天然痘、水痘(ミズボウソウ)、麻疹(ハシカ)、風疹(三日バシカ)、オタフクカゼ、ポリオ、疫痢などたくさんあります。
 しかし、先人の努力によるワクチンの開発、生活環境の整備で、WHOは地球上より天然痘絶滅宣言をだしました。ポリオも日本ではほとんど発生がなくなり、麻疹患者も激減しました。このようにワクチンを接種しておけばいままで一生に一度はかからなくてはならないと言われていた病気もかからずにすむようになります。
 水痘についてはワクチンが一般的でなく、一度はかからなくてはならない病気として残っています。ただし、白血病など免疫力の低下している特殊な子供には、ワクチンの接種が行われています。
 水痘の原因ウイルスは、成人のかかる帯状疱疹ウイルスと同じだと言われています。伝染力が極めて強く、接触飛沫あるいは空気感染をします。潜伏期は約2週間で発熱は必ずあるとは限りません。発疹は小水疱を作り、体、手足、口の中、眼の白目、頭にもできます。水疱はかゆみが強いので、引っかいて混合感染をおこさないよう、爪を短く切り清潔にしておきます。発疹のでる前日より水疱がすべて黒くなるまで伝染能力があるので、その間(7~10日間)幼稚園などは休むようにしてください。水痘の予後は良好ですが、元来神経系を好むウイルスだから、まれに髄膜炎をおこすことがあるので、病気中は安静にして下さい。

昭和59年9月 


咳の話

 冬に向かい寒くなると、風邪が流行する季節になります。さて、風邪の症状のなかでよくお母さんが悩まされるものに咳があります。昼夜を問わず咳き込まれますと、肺炎など心配の種が増えます。咳をあまり恐れる必要もないのですが、かといって放置もよくないので少し咳について述べてみましょう。
 咳はなぜ出るのでしょうか。それは、のどや大きい気管、さらには肺の奥の小さい気管支の粘膜が腫れたり、分泌物が溜まったりしますと、その刺激が頭にある咳嗽中枢に伝わり、咳をせよと命令して、咳が出るのです。これは、病気の始まりを教えたり、分泌物を排出させるために生じるのです。自分の体を守るためですから、無闇に止めてしまう訳にはいかないのです。ところで、この咳をよく聞いていますと、痰のかかった湿った咳と、コン・コン響くような乾いた咳と、犬が吠えるような咳に聞き分けることが出来ます。実はこの咳の種類を私たちが知りたいところなのです。というのは、湿った咳は麻疹、肺炎、乾いた咳はウイルス性の風邪、結膜炎、犬が吠える咳は喉頭炎など診断の助けになるからです。また、おばあさんが病名を教えて下さるコン・コン・コン・コン・ヒューという百日咳。昼は少なく夜の咳の激しい異型肺炎などがあります。
 難しくなりましたが、子供さんが咳を始めれば、湿った咳か、乾いた咳か、夜が激しい咳か、そして今まで聞いたことのない咳かを観察して下さい、分かりにくい時はテープレコーダーに録音し聞かせて下さい。これほど役に立つことはありません。

昭和59年12月  松浦孝治


夏かぜ

 子供にとって夏かぜは、食中毒と並ぶ、夏の病気の主役です。夏かぜの中で三役格は、「ヘルパンギーナ」「手足口病」「咽頭結膜熱(プール熱)」の三つですが、これから咽頭結膜熱と無菌性髄膜炎について、二三お話しましょう。
 咽頭結膜熱は、プール開きの後に爆発的に流行したことから、俗に「プール熱」と言われるようになりました。この病気はアデノウイルスが原因で起こる夏かぜで咽頭結膜熱と言われるように、咽頭炎・結膜炎・発熱といった、三つの症状が現れますが、一週間もすればほとんどよくなります。大小便・目やに・つばなどから水を介してうつりますので、プールで泳ぐ前後にはからだをよく洗い、洗眼・うがいを忘れないようにすることが大切です。
 次に、無菌性髄膜炎は、夏かぜの原因であるエコーウイルス・コクサッキーウイルスなどの腸管系ウイルスで起こるものが最も多く、第二位は、おたふくかぜウイルスによるものです。症状は、熱・頭痛・悪心・嘔吐などが主で、意識障害その他の脳症状はあまり多くありません。病気の経過は比較的良いようです。しかし、脳の病気ですから充分用心して休養してください。
以上、二つの病気についてお話しましたが、健康に注意して、この夏は快適に楽しく過ごしてください。

昭和59年8月 


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