外科一般


動物にかまれた時は

 思わぬ怪我の一つに動物にかまれる、引っかかれることがあります。今回は動物にかまれた時の対処法について説明します。
 犬、猫などにかまれた時は傷口をよく見て、皮膚を貫いていそうな時は迷わず医療機関を受診してください。傷口を洗浄してもらうとともに抗生物質の投与が必要かもしれません。動物による傷は化膿することが多いので、縫い合わせず傷口を開けたままでしばらく観察するのが原則です。継続した通院が必要ですから、自己判断せず、医師の指示に従ってください。
 よく狂犬病のことを質問されます。東南アジアで犬にかまれ、帰国して発症した例はあるようですが、日本国内ではまず大丈夫です。
 猫に引っかかれた場合には数週間してからリンパ節が腫れたり、微熱が続いたりすることがあります。特別に「猫ひっかき病」という名前がついています。抗生物質の選択に重要な情報ですから、猫に最近引っかかれたことがある方は申告してください。傷口からでなくても猫、犬の口や爪の中にはパスツレラ菌などの化膿だけでなく、肺炎の原因にもなる菌が高率に存在しています。口移しで餌を与えたりという濃厚な接触はさけた方が無難です。

25年6月 国延浩史


擦り傷はどうする?

 皆さんは、滑って転んでひざや顔を擦りむいた時どうされますか。
@消毒液を使ってガーゼをあてる A水で洗って密封する さて正解はどちらでしょうか。
 「傷が治る」ということはどのような仕組みなのでしょうか。擦り傷を放置すると、ジクジクしてきて最後にはかさぶたになります。傷がジクジクしてくると、ばい菌が入って傷が化膿してきたと思って消毒をしませんか。でも実は、このジクジクが傷を治すのには必要なのです。出血が止まった後のジクジクの中には、傷を治すための血小板や白血球・細胞成長因子などが含まれていて、それらがあわせて傷口に作用して傷をふさぐのです。これらの細胞が早く傷を治せるように傷口はジクジクしています。
 傷は乾かした方が早く治りそうですが、かさぶたの下でも同じことが起こっています。ですから傷は乾かさずにジクジクさせておいた方が早く治るのです。
 もうひとつ傷の治りを遅くしているものがあります。それは実は消毒液や軟膏類なのです。消毒液は細菌を殺す作用がありますが、傷を治す自分自身の細胞たちも殺してしまうのです。つまり擦り傷は消毒液を使わず、なるべくジクジクした環境にしておく方が早く治るということです。ただし、砂などの異物があると化膿する原因になりますから、最初に水でよく洗い流すことが大切です。つまり答えはAというわけです。軽い擦り傷はこのような処置でかまいませんが、傷によっては専門の処置が必要になることがありますので、医療機関に行かれることをお勧めします。

平成21年11月 三木冬人


けがをした時は

 ちょっとしたけがでも最初に間違った治療をしてしまうとよけいに日にちがかかったり、悪い状態に進んだりすることがあります。医療機関を受診するまでの注意点を私の経験したことをもとに述べたいと思います。
 指を刃物で切った時に出血に驚いて、指にひもや輪ゴムをぐるぐる巻いている方がいます。中途半端に巻くと血液が指にたまり、よけい出血が増えますし、動脈を止めると指が壊死する可能性があります。清潔なハンカチやタオルで傷口を圧迫するのが無難です。
 すりむいた時ややけどの傷口に○○軟膏、○○ドライ、アロエ、ひどい時はタバコの葉・・・などがつけられていることがあります。皮膚の再生は清潔で湿った環境の方が早い、とされており、そのための治療材料もあります。医療機関を受診する時はよけいな物はつけないでください。また、痛みが走るような消毒液は使わないでください。傷口の治りを邪魔することがあります。
 傷の治療をする際に破傷風の感染が心配になることがあります。汚い場所でけがをした、口の開いた傷をそのままにして農作業を続けたなど、けがをした状況、受診するまでの状況も情報として重要です。具体的に伝えてください。
 「なかなか傷が治らないので受診しました」という場面がよくありますが、「どうかな・・・」と思うけがをした時は、早めに受診したほうがいいと思います。

平成20年2月 国延 浩史


下肢急性動脈閉塞症

 急性動脈閉塞症とは、動脈が血のかたまりや、脂肪などにより急激に詰まってしまい、血液が流れなくなってしまう状態です。特に、下肢(足)の動脈に多く発生します。
 原因として、心房細動、動脈硬化、脱水、外傷、血液病などがあげられます。
 症状は、急激な足の痛み、しびれ、マヒ、冷感、蒼白(白っぽくなる)、動脈拍動の消失などが見られます。
 治療は、詰まっている血管を、風船付のカテーテル(血液を通す細い管)を用いて掃除したり、血のかたまりを溶かす薬を大量に投与したりします。治療開始は早ければ早いほど良いわけですが、特に動脈が詰まってから6時間以内をゴールデンタイムと呼び、この間なら治療により足が救える可能性が高くなります。
 予防は、まず心房細動、高脂血症などの原因疾患の治療を行い、健康な人は、脱水にならないように注意しましょう。
 万が一、上記の症状が出た場合は、なるべく早く診察を受けるようにしましょう。

平成10年8月  白石天三


乳癌に対する乳房温存療法

 最近、乳癌に対する手術は、従来のハルステット手術(大・小胸筋合併乳房切除術)に代わって、胸筋温存乳房切除術が標準手術になっています。これは、主に欧米の動向にならった結果でありますが、検診などの普及によって、比較的早期の乳癌が増えてきたことも関係していると思われます。
 さらに、10年位前から、我が国でも乳房温存療法が導入され、急速に普及してきました。『乳房温存療法』とは、1.乳腺の部分切除、2.液窩リンパ節の郭清を行い、術後に3.残存乳房の放射線照射を行う治療法です。切除術と違って、乳房の大部分が残りますので、美容的には最も優れた術式です。アメリカやイタリアの病院で大規模な比較研究が行われ、従来の切除術と生存率などに差のないことが報告されています。
 当初は、腫瘤径2cm以下の、いわゆる『乳癌治療』を対象としていましたが、現在、多くの施設では、腫瘤径3cmまで適応を拡げています。病変が大きければ、それだけ切除断端に顕微鏡レベルの癌を残す可能性が増し、局所再発の危険が高くなります。かと言って、切除の範囲をあまり広くすると、せっかく残した乳房の変形が目立って、美容的に満足できない、という結果になりかねません。『腫瘤径3cm以下』という基準は、現時点で妥当な目安と思われます。
 しかし、放射線治療を併用しても、統計的には数%の局所再発が報告されています。その点に不安を感じる方は、胸筋温存乳房 切除術を選ばれるのも賢明な選択と思います。治療法の選択肢が増し、患者さんの希望によって手術術式まで選ぶことが可能になった、それが乳癌治療の現在の状況です。

平成10年6月  坂東康生

皮膚の傷について

1)傷の治りかた

 皮膚の傷は原則として自然に治ります。まず炎症性反応期 (1日〜5日め)といってフイブリンが傷を埋めます。つぎに肉芽で覆われ傷が治っていきます。(4日〜17日)その後、瘢痕を残して治癒します。(15日〜21日)つまり、傷が完全に直るためには2週から3週かかるということです。

2)傷に対する処置は?

 傷の深さ広さにより違いますが、まず出血があればすぐに止血することです。止血するには傷を清潔なガーゼやハンカチで被い圧迫します。次に細菌がつかないようにすぐに消毒をすることです。もしごみが入っておれば流水でよく洗うことです。しかし実際は 痛くて困難ですので、はやめにお医者さんにみてもらいましょう。特に縫合が必要な傷は、6時間以内にみてもらうように してください。これ以上経つと細菌が繁殖して処置をしてもらうことが難しくなります。また、糖尿病や、末梢の循環が悪い方は、傷が治りにくいといわれていますので特に注意が必要です。

3)傷のいろいろ

 切り傷、裂け傷は出血が多く病院で縫合してもらう必要があります。擦り傷は痛くて滲出液が多く異物が見られ傷を洗う必要があります。差し傷、噛み傷は傷口は小さいが奥が深く化膿しやすいため必ずお医者さんにみてもらいましょう。
 いずれにせよ怪我をしたら我慢せず面倒がらずにできるだけ早くお医者さんにかかるようにしましょう。

平成10年4月 青野幸治


鼠径ヘルニア(脱腸)について

 外来をしていると、脚の付け根(鼠径部)が膨れると訴えて来られる方があります。先天性或いは後天性に鼠径部の隙間を通じて、腸など腹腔内臓器の一部が脱出する状態で、これが鼠径ヘルニアです。
(症状は?)鼠径部腫瘤は、手で押さえると元に戻って無くなりますが、おなかに力を入れると、またすぐに出てきます。さらに痛みや便秘を伴うことがあります。特に注意を要するのは、嵌頓と呼ばれ、脱出した臓器が元に戻らなくなってしまう状態です。血行障害を来すと早急に処置する必要があります。
(原因は?)先天性と後天性のものがあり、子供の鼠径ヘルニアはほとんどが先天性です。ヘルニアがおこる時期はまちまちで、生まれてすぐに発見される場合もありますし、乳児や幼児の頃になって気づかれることもあります。一方、大人の鼠径ヘルニアは、腹腔をつくる支持組織が弱くなり、その部分にできた隙間から脱出するものです。
(治療法は?)脱出が起こらないように手術するのが最良の治療法です。子供の場合、1歳までは自然に閉鎖することがあると言われていましたが、逆に嵌頓は1歳までが多いため診断がつき次第手術をする施設が増えているようです。嵌頓反復例はより早く手術に踏み切るべきでしょう。手術は、ヘルニアの内容を腹腔内に戻し、脱出していた孔(ヘルニア門)を閉鎖します。大人の場合には鼠径部の弱くなった支持組織を補強します。

平成9.12.  大野 一登


陥入爪(巻き爪)について

 最近は昔のようにげたを履く機会が少なくなり、靴を履く生活時間が長く、そのために足の爪、主に第1趾に出来る陥入爪が増加してきています。
 陥入爪とは、爪縁の片方、又は両方が趾先の軟部組織に食い込んだ状態で、巻き爪とも言われています。
 症状としては、発赤、腫脹、肉芽増殖を伴った炎症性の疼痛や、未治療のまま放置していますと、爪の変形や肥厚がおこります。
 原因としては、生まれつきのものを除くと、ハイヒールのような先の狭い靴のよる趾先の強い圧迫や、深爪の際によくできる爪刺が周囲の柔らかい組織を傷つけることによっておこります。
 治療方法には、保存的治療法と根治療法があります。比較的軽い症例に対しては、何回も足浴を行って患部を清潔にし、炎症に対しては抗生物質を服用します。また化膿部に対しては、簡単な切開や、食い込んでいる爪縁の一部を切除する方法があります。保存的療法で治癒しない例や、再発を繰り返す例に対しては、根治手術が行われますが、いろいろな手術方法があります。そのうちの一つを紹介しますと、爪母といって爪を生やす組織の患側の一部を切除する方法があります。詳しくは、皮膚科や外科の専門の先生にお聞き下さい。
 予防としては、@ハイヒールのような先の狭い靴を履かないこと、A爪を正しく切り、深爪をしないこと、B清潔を保つこと等です。

平成3年2月  野崎義男


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